介護現場で信頼関係の構築と接遇にも役立つ!利用者の思いを引き出す「質問力」とは

介護施設の利用者に「大丈夫ですか?」と尋ねて、「大丈夫です…」と、会話が終わってしまっていることはないでしょうか。
これは、介護現場ではよくあるやり取りです。しかし、その一言だけでは、利用者の本当の思いや希望までは見えてこないことがあります。
介護のコミュニケーションでは、「聴く」ことが土台です。その上で、どのように質問するかによって、会話の広がりは変わります。質問は、利用者の状態を確認するだけでなく、その人の思いや力を引き出すきっかけにもなるからです。
本稿では、介護現場での信頼関係の構築や利用者の自立支援につなげるだけでなく、接遇にも役立つ「質問力」について、医療・介護・福祉現場で講師として活躍する徳山和宏さんにご執筆いただきました。
- コミュニケーションの基本とは
- クローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョン
- 相手のための質問の目的とは
- 利用者の力を引き出す質問の4つの工夫
- 日常の何気ない一言を変える質問力
- 質問力を高めるためのトレーニング方法
- 職員の考えを整理し、引き出す質問力
- まとめ
コミュニケーションの基本とは
コミュニケーションの基本スキルは、大きく分けると「聴くこと」「質問すること」「伝えること」です。この中で土台になるのは、やはり「聴くこと」です。
相手の話をしっかり聴かずに質問をしても、職員側が聞きたいことだけを確認する会話になってしまいます。まずは、しっかりと話を聴きましょう。「表情」「声の調子」「言葉の間」などについて、いつもとの違いを含めて受け取った上で質問するからこそ、質問は信頼関係を深めるものになります。
質問には、「こちらから投げかけることができる」という特徴があります。聴くことは、相手が話したことを受け取る関わりです。一方、質問は、こちらから会話を起こし、展開させることができるものです。
例えば、退院後に在宅生活を始めた利用者に、「これから家でどのような生活をしていきたいですか?」と尋ねると、利用者はその問いをきっかけに考え始めます。「近所のスーパーまで歩けるようになりたい」「庭に出て、植木の手入れをしたい」など、本人の中にある希望が言葉になることがあります。
質問は、その投げかけをきっかけに相手に考えてもらい、相手の中にある思いや力を一緒に見つけていくためのものでもあるのです。
クローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョン
質問の基本形として、クローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンがあります。

クローズド・クエスチョンとは、「はい」「いいえ」で答えられる質問です。「痛いですか?」「朝ごはんは食べましたか?」「眠れましたか?」といった質問です。答えやすく、相手の負担が少ないため、体調確認や緊急性の判断には有効です。
一方、オープン・クエスチョンは、「はい」「いいえ」では答えられない、相手が自由に答えられる質問です。「今日の調子はどうですか?」「この1週間は、どのように過ごされましたか?」「今、気になっていることはどんなことですか?」といった質問です。利用者の感じ方や考えを知りたいときには、オープン・クエスチョンが役立ちます。
大切なのは、状況によって使い分けることです。体調が悪い方や、認知症の方、言語障害をおもちの方、言葉で説明することが負担になる方には、クローズド・クエスチョンの方が答えやすい場合があります。
ただ、クローズド・クエスチョンばかりになると、会話が続きにくいことがあります。「ご飯は食べましたか?」「はい」。「体調に変わりはないですか?」「はい」。これでは必要な確認はできても、会話が続かず、利用者の生活や思いは見えにくくなります。
例えば、訪問介護で初回訪問を終え、2回目に伺うときには、この1週間の状況を確認したい場面があります。その場合は、「この1週間は、どのように過ごされましたか?」と、オープン・クエスチョンで尋ねると、利用者は自分が話したいことを自由に話しやすくなります。
痛みのことを話すかもしれません。身体の動きのことを話すかもしれません。「娘が来てくれてね」など、日常の出来事を話すかもしれません。相手が今、何を最も伝えたいのかが分かり、そこから会話も広がりやすくなります。
一方で、長く継続して訪問している利用者もいます。毎回、体調に大きな変化がなく、前回から今回までの記録も確認できている場合には、「お変わりないですか?」と、クローズド・クエスチョンで尋ね、「ないよ」と返ってくれば、それで十分でしょう。質問は、関係性、状況、目的によって使い分けることが大切なのです。
相手のための質問の目的とは
質問の目的は何でしょうか。普段、私たちは何のために質問をしているのでしょうか。
通常、私たちは自分が知りたい情報を得るために質問します。「食事は摂れましたか?」「痛みはありますか?」「薬は飲みましたか?」という質問は、職員が必要な情報を把握するための質問です。
ただし、質問には、相手に考えてもらうという役割もあります。つまり「相手のための質問」です。
例えば、「これからどのような生活をしていきたいですか?」「今の生活で、今後も続けたいことは何ですか?」「今後、もう少しできるようになりたいことはありますか?」と尋ねると、利用者は自分の生活や希望について考えます。質問は、相手が考え始めるきっかけになるのです。
介護保険制度の基本理念の一つに「自立支援」という考え方があります。介護で大切なのは、できないことを補うだけではありません。本人ができることを生かしながら、希望する生活に近づけるよう支援することが大切です。
その意味では、日々の会話そのものが自立支援につながります。職員が答えを与えるのではなく、「どうしたいですか?」「何ができそうですか?」「何から始めてみますか?」と問いかけることで、本人の意思が引き出され、行動につながる可能性があります。
利用者の力を引き出す質問の4つの工夫
質問は、難しく考えすぎる必要はありません。自然な会話の中で尋ね方を少し工夫するだけで、利用者の答えは変わります。
1.体調や状態などの変化を数値化する質問
「痛い」「しんどい」という訴えは、そのままだと職員と利用者の間で認識に差が生じることがあります。そのときは、数値化する質問が役立ちます。
「痛みがない状態を0、最も強い痛みを10とすると、今の痛みはどのくらいですか?」「しんどさがない状態を0、最もしんどい状態を10とすると、今はどのくらいですか?」と尋ねると、状態を把握しやすくなります。
前回「8」だった痛みが、今日は「5」になっていれば、痛みが軽減していることが分かります。一方、昨日は「3」だったしんどさが、今日は「7」になっていれば、状態が悪化している可能性があります。数字にすることで、状態の変化にも気づきやすくなります。
2.あいまいな目標や希望を具体化する質問

利用者から「もっと速く歩けるようになりたい」と言われたとき、「そうですね、頑張りましょう」で終わってしまうと、目標はあいまいなままです。そこで、「どれくらい速く歩けるようになりたいですか?」と尋ねてみます。すると、「家の近くの横断歩道を渡れるくらい」という答えが返ってくることがあります。
ここまで具体化されると、支援の方向が見えてきます。例えば、家の近くの横断歩道が7mで、歩行者用信号が青になっている時間が30秒なら、施設内や家の中で、3mを約13秒で歩くことが一つの目安になります。
「速く歩く」という漠然とした希望が、現場で共有できる具体的な目標に変わります。
3.利用者の視点を広げる質問
利用者から「歩けるようになりたい」と言われたとき、そのまま「歩けるようになること」を目標として設定していないでしょうか。その前に、「歩けるようになったら、何をしたいですか?」と尋ねてみましょう。
すると、「デパートへ買い物に行きたい」「友人と飲みに行きたい」「散髪に行きたい」など、本人にとって本当に実現したいことが見えてくることがあります。
目的が見えると、支援の選択肢は広がります。例えば、デパートに買い物に行くことが目的であれば、歩けるようになることだけが唯一の方法ではありません。車いすで外出したり、家族やヘルパーに付き添ってもらったりする方法もあります。
散髪に行くことが目的であれば、本人が店まで歩いて行くことだけでなく、車いすで出かける方法や、訪問理美容を利用する方法もあります。
「歩けるようになること」は、目的ではなく、本人が望む生活を実現するための手段の一つかもしれません。「何のために?」と尋ねて視点を広げることで、本当の目的が見え、その目的を実現するための方法も広がっていくのです。
4.GROWモデルを活用した質問
本人の希望を実現するためには、「目標」「現状」「選択肢」「意思・行動」を順番に整理するGROWモデルも有効です。
Step1
Goal(目標)を確認します。「これからどのような生活をしていきたいですか?」「何ができるようになりたいですか?」と尋ねます。
Step2
Reality(現状)を確認します。「今はどこまでできていますか?」「どこが難しいですか?」と尋ねます。
Step3
Options(選択肢)を挙げていきます。「そのために、どのようなことができそうですか?」「どのような方法がありそうですか?」と問いかけます。
Step4
最後に、Will(意思・行動)を確認します。「まず何からやってみますか?」「いつ試してみますか?」と尋ねます。
このように会話を進めると、漠然とした希望が、具体的な目標や行動に変わっていきます。職員が一方的に目標を決めるのではなく、利用者自身が自分の目標と方法を考える流れをつくることができます。
日常の何気ない一言を変える質問力
質問力は、面談やヒアリングの場面だけで使うものではありません。日常の何気ない一言を少し変えるだけでも、会話は変わります。
例えば、利用者の様子を確認したいときに、「大丈夫ですか?」ではなく、「膝の痛みはどうですか?」「息苦しさはありますか?」「疲れはどうですか?」と、確認したいことを少し具体的にして尋ねます。すると、利用者も自分の状態を言葉にしやすくなります。
デイサービスやショートステイの利用を嫌がる利用者に対しても、「行きたくないんですね」で終わらせるのではなく、「どのようなところが気になりますか?」「何が一番不安ですか?」と尋ねてみます。
もしかすると、人付き合いが苦手なのではなく、今の自分の姿を近所の人に見られたくないという思いがあるかもしれません。その思いが分かれば、自宅から少し離れた事業所を提案するなど、支援の選択肢が広がります。
質問は、ただ単に問いかければいいというものではありません。本人の思いを理解し、共に考えるためのものです。
質問力を高めるためのトレーニング方法
質問力を向上させるために、自分でできるトレーニングとして、まずは普段している質問を書き出してみることをおすすめします。仕事の場面でも、仕事以外の場面でもかまいません。職場で利用者や職員に対して、あるいは家庭で家族に対して、自分が実際にしている質問を書き出してみます。
このときのポイントは、できるだけ具体的なセリフで書くことです。整えて書くのではなく、「昨日、利用者にこう言った」「今日、娘にこう言った」という実際の言葉を、そのまま書き出します。思いつく限り書いてみてください。
次に、それをクローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンに分けます。「はい」「いいえ」で答えられるものや、答えが二択になるものはクローズド・クエスチョンです。一方、相手が自由に答えられるものは、オープン・クエスチョンです。
そうすると、自分の質問の傾向が見えてきます。クローズド・クエスチョンが多いのか、オープン・クエスチョンが多いのか、あるいは場面によって変わるのかが見えてきます。そこから、自分の質問の癖に気づくかもしれません。
その上で、クローズド・クエスチョンをオープン・クエスチョンに変換してみます。
例えば、「痛いですか?」はクローズド・クエスチョンですが、「痛みの加減はどうですか?」と尋ねると、オープン・クエスチョンになります。「調子はよいですか?」はクローズド・クエスチョンですが、「今日の調子はどうですか?」と尋ねると、オープン・クエスチョンになります。
このように、自分がしている質問を意識化し、場面によって使い分けられるようにしていくことが、質問力を高める第一歩です。
ただ、質問力は知識として学ぶだけでは身につきません。実際に人との会話の中で質問を投げかけ、相手に答えてもらうことで、どのような質問が相手の考えを引き出すのか、その感覚が少しずつ身についていくものです。
私が行っている研修でも、レクチャーだけで終わらせず、参加者同士で質問を投げかけるワークを行います。
やってみると、「質問しているつもりが、相手を自分の答えに誘導していた」「質問ではなく、指示や助言になっていた」と気づくことがあります。
この「意外とうまくいかない」という体験によって、自分の癖に気づくことができます。質問の型を知り、実際に試し、相手の反応を見て、振り返る。その繰り返しによって、現場で自然に使える質問力が育っていきます。
■オープン・クエスチョン例

職員の考えを整理し、引き出す質問力
介護事業所の管理者やリーダーには、職員の考えを引き出す質問力も求められます。新人職員や外国人介護職員など、多様な職員が働く中で、すべてを一方的に教えるだけでは、職員が自分で考える力は育ちにくくなります。
「どこまで理解していますか?」「次に同じ場面があったら、どうすればうまくいきそうですか?」と問いかけることで、職員の考えを整理し、次の行動につなげることができます。
施設全体で質問力を高めたい場合は、個人の努力だけでなく、職員同士でトレーニングできる研修の機会をつくることも有効です。質問力は、利用者支援にも職員育成にも共通して活かせる力なのです。
まとめ
介護現場で求められる質問力とは、上手に質問を並べる技術ではありません。それは、相手の思いを理解し、その人の中にある力を引き出すためのコミュニケーションです。
聴くことを土台にして、必要なときに質問を投げかける。そして、返ってきた言葉をしっかり聴く。質問して、聴いて、また質問する。その繰り返しによって、利用者の思いや状態が少しずつ見えてきます。
ケアマネジャー(介護支援専門員)や介護職員などの支援者が、すべてを決めるのではなく、利用者と一緒に考える。やってみたいことや、その先にある暮らしを見つけていく。そこに質問力の大きな意味があります。
質問力は、信頼関係を築くためのスキルであり、自立支援を日々の会話の中で具体化する力です。何気ない一言を少し意識することから、介護現場のコミュニケーションは変わっていくのではないでしょうか。
