介護職員の処遇改善と新たな制度~令和8年度 介護報酬改定を徹底解説~

本来であれば、3年に1度に行われる介護報酬改定ですが、その改定時期を待たずに令和8年6月に臨時に改定が行われることになりました。変更内容は、「介護職員等処遇改善加算の拡充」と介護老人福祉施設などの「食費の基準費用額(補足給付)」の見直しの2点となっています。2026年3月時点では計画書の様式など開示前ですが、現段階で分かる範囲で処遇改善加算にを中心に解説いたします。
- 1.令和8年度 介護報酬改定の全体像
- 2.処遇改善加算の区分について
- 3.処遇改善加算の要件
- 4.介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業(補助金)
- 5.介護報酬改定に向けた準備と対策
- 6.報酬改定でよくある質問
- 7.まとめ 介護報酬改定を理解し、活用するために
1.令和8年度 介護報酬改定の全体像
介護報酬改定の背景と目的
厚生労働省の発表によると、「強い経済」を実現する総合経済対策では、「介護分野の職員の処遇改善については、他職種と遜色のない処遇改善に向けて、令和8年度介護報酬改定において、必要な対応を行う」とされています。これを踏まえて、期中改定を講じることとしたと伝えています。
他業種との賃金差について
実際に他業種との賃金差を確認してみると、平成20年では10万円以上の賃金差がありましたが、処遇改善加算の制度などの政策によって令和5年は約6.9万円まで改善されていました。しかし、近年の他業種の大幅な賃上げには追いついておらず、令和6年は賃金差が8.3万円に拡大してしまいました。
賃金構造基本統計調査による介護職員の賃金の推移

改定の主なポイント
1.処遇改善に関する見直しは令和8年6月1日施行、食費の基準費用額(補足給付)の見直しは8月施行
2.基本報酬の改定はない
3.改定は介護職員等処遇改善加算の拡充と食費の基準費用額(補足給付)のみ
4.処遇改善加算は、加算Ⅰと加算Ⅱについては、それぞれ2区分に分かれる
5.居宅介護支援、訪問看護、訪問リハビリテーションが新たな対象
※居宅療養管理指導・福祉用具貸与・特定福祉用具販売は対象外
6.臨時の報酬改定の前に補助金(交付金)を支給する
2.処遇改善加算の区分について
賃上げの具体的な内容
1.介護職員のみならず介護従事者を対象に幅広く月1.0万円
2.生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員を対象に月0.7万円
3.定期昇給0.2万円
1+2+3で最大月1.9万円の賃上げを実現させるために、処遇改善加算の加算率を変更
※1.9万円を支給するわけではないので、誤解のないように注意が必要

処遇改善加算の区分の変更点
今まで処遇改善加算が対象だった介護サービスについては、
1.加算率は全体的にアップする
2.加算Ⅰと加算Ⅱについては、加算Ⅰ(イ)、加算Ⅰ(ロ)、加算Ⅱ(イ)、加算Ⅱ(ロ)に分かれ、(ロ)が上位区分になり、さらに加算率がアップする。
3.加算Ⅰ(ロ)と加算Ⅱ(ロ)を算定するには、「令和8年度特例要件」を満たす必要がある
訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援については、
1.処遇改善加算が6月より新設される
2.「処遇改善加算」のみで、今まで対象だった介護サービスと違い加算Ⅰ~Ⅳなどの区分はない
3.加算率は、他のサービスと比べ低めの設定になっている
3.処遇改善加算の要件
要件の変更点について
今まで処遇改善加算が対象だった介護サービスについては、処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅰ~Ⅳ、職場環境等要件等についての内容の変更はありませんが、「令和8年度特例要件」が追加されます。なお、「令和8年度特例要件」を実施すると、キャリアパス要件Ⅰ~Ⅳや職場環境等要件については、令和8年度の計画書提出段階で出来上がっていなくても、令和8年度中に対応することを誓約すれば、加算を取得することができます。
訪問看護、訪問リハ、居宅介護支援については、処遇改善加算Ⅳに準ずるキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱと職場環境要件を実施することが要件になっています。なお、「令和8年度特例要件」を実施すると処遇改善加算Ⅳに準ずるキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱや職場環境等要件については、令和8年度の計画書提出段階で、出来上がっていなくても、令和8年度中に対応することを誓約すれば、加算を取得することができます。
「令和8年度特例要件」について
1.訪問・通所系サービスについては、「ケアプランデータ連携システム」の加入(又は加入見込み)
2.施設サービス等については、「生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡ」を算定(又は算定見込み)
※社会福祉連携推進法人に所属していれば、1と2の要件は不要になります。
ケアプランデータ連携システム
ケアプランデータ連携システムとは
今まで、手渡し、メール、FAXなどでやり取りしていたケアプランや介護サービスの実績がオンラインで行うことができるシステムです。入力する時間を節約できるほか、突合が容易になり、入力ミスによる過誤請求も少なくなります。
ケアプランデータ連携システムは、本来、登録番号ごとに年間21,000円の費用がかかりますが、令和8年5月31日までに加入すると、1年間無料になるフリーパスキャンペーンを行っています。

ケアプランデータ連携システムと同等の機能とセキュリティを有するシステム
ケアプランデータ連携システム※1を導入していなくても下記のシステムを導入していれば、「令和8年度特例要件」が満たされます。
現在、承認されているシステム。今後も増える可能性があります。
- カナミッククラウドサービス(株式会社カナミックネットワーク)
- ケアプランデータ連携サービス(株式会社富士通四国インフォテック)
- 「でん伝虫」データ連携サービス(株式会社コンダクト)
- まめネット ケアプラン交換サービス(特定非営利活動法人しまね医療情報ネットワーク協会)
※1 厚生労働省:居宅介護支援費に係るシステムの公募について より
生産性向上推進体制加算
生産性向上推進体制加算とは
短期入所系、居住系、多機能系、施設系などのサービスを対象とした介護現場における生産性の向上の取り組みの促進を図る観点から、介護ロボットやICT 等の導入後の継続的なテクノロジー活用を支援するための令和6年の報酬改定時に新設された加算です。
加算Ⅰと加算Ⅱの2区分あります。加算Ⅱについては、取り組む内容が限定的なので、算定しやすくなっています。
生産性向上推進体制加算Ⅱの要件について
1.利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行う
2.見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入する
3.1年以内ごとに1回、業務改善の取り組みによる効果を示すデータの提供
※1.2.3.についての細かい内容は、厚生労働省ホームページでご確認ください。
4.介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業(補助金)
処遇改善加算とは別の現在実施されている補助金の事業とは
介護従事者に対して幅広く賃上げ支援を実施し、生産性向上や協働化に取り組む介護サービス事業所等の介護職員に対して賃上げ支援を上乗せするとともに、介護職員について、職場環境改善に取り組む介護サービス事業所等の支援を行ことを目的に現在実施している事業です。この補助金の事業については、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援事業所も対象になっています。
介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の要件について
処遇改善加算と同様に計画書を提出し賃金改善実施後に報告書を提出します。処遇改善加算と同様に「ケアプランデータ連携システム」の加入や「生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡ」の算定することが要件になっているので、令和8年6月からの処遇改善加算の要件を理解していれば、算定しやすいと思われます。
介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の計画書の提出方法について
1.提出先は、指定権者ではなく都道府県へ
2.提出の締切日は、全国一律ではなく都道府県によって異なる
3.申請様式は、都道府県によって若干違うため、都道府県のホームページからダウンロードを
5.介護報酬改定に向けた準備と対策
現在、処遇改善加算を加算Ⅰまたは加算Ⅱを取得している施設については、ケアプランデータ連携システムに加入、または生産性向上推進体制加算を算定して加算Ⅰ(ロ)、加算Ⅱ(ロ)の算定を目指してください。「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」の補助金についても、計画書を提出してない場合は、都道府県に確認して、間に合うようであれば、申請を試みてください。
訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援のサービスについては、令和8年6月の処遇改善加算を取得することはもちろんのこと、「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」の補助金も対象になっています。計画書を提出してない場合は、都道府県に確認して、間に合うようであれば、申請を試みてください。
6.よくある質問
報酬改定が令和8年6月ですが、令和8年度処遇改善加算の計画書はいつ提出ですか?
令和8年度の処遇改善加算の計画書は令和8年4月15日が締切です。そのため、令和8年4、5月と6月以降の加算についての計画書を作成することになります。
「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」の提出先は、指定権者ではないのですか?
「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」は、介護報酬ではなく、令和7年の補正予算から捻出されているものです。介護報酬の請求の流れではなく、単独で事務担当を任された都道府県に計画書や、報告書を提出する必要があります。
7.まとめ 介護報酬改定を理解し、活用するために
現在の物価高騰、他業種の賃上げの実施などの世の中の変化に合わせて、「処遇改善加算」や「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」のほかにも対応可能な加算などを活用し、働いている職員の方々の賃金をできるだけ増やすことが必要です。
時代の流れが思いのほか早いこともあり、3年に1度の報酬改定だけでは間に合わず、その都度、合わせるような形で、付け焼き刃的な政策になっていることは否めません。しかしながら、少なくとも介護業界の職場にとって、良い政策であることは間違いないので、理解し活用することが重要と思います。
