令和6年度に新設!「高齢者施設等感染症対策向上加算」とは?その概要について解説

介護報酬・加算掲載日: 2024.11.25(更新日: 2024.11.25)
筆記用具とPLUSと書かれた積み木の図

高齢者施設において感染症対策が重要なのは言うまでもありません。

高齢者は免疫力が低下しているため、感染症にかかりやすい状態です。また、感染症が広がると、施設全体に影響を及ぼし、他の入所者やスタッフにも感染が拡大する可能性があります。

本コラムでは、令和6年度に新設された「高齢者施設等感染症対策向上加算」の詳細や、対象サービス、加算要件等について詳しく解説します。

高齢者施設等感染対策向上加算とは?

高齢者施設等感染対策向上加算は、高齢者施設等の感染症対応力の向上を目的とした加算です。

高齢者施設等については、施設内で感染者が発生した場合に、医療機関との連携のうえで施設内で感染者の療養を行うことや、他の入所者等への感染拡大を防止することが求められることから、以下を評価する新たな加算が設けられました。

  1. 新興感染症の発生時等に感染者の診療等を実施する医療機関(協定締結医療機関)との連携体制を構築していること
  2. 上記以外の一般的な感染症(新型コロナウイルス感染症を含む)について、協力医療機関等と感染症発生時における診療等の対応を取り決めるとともに、当該協力医療機関等と連携の上、適切な対応を行っていること。
  3. 感染症対策にかかる一定の要件を満たす医療機関等や地域の医師会が定期的に主催する感染対策に関する研修に参加し、助言や指導を受けること。

また、感染対策に係る一定の要件を満たす医療機関から、施設内で感染者が発生した場合の感染制御等の実地指導を受けることを評価する新たな加算が設けられました。

高齢者施設等感染対策向上加算は、高齢者施設などでの感染症対策が適切に行われているかどうかを評価し、その対策が十分である場合に支払われる加算です。感染症の予防や管理が適切に行われている施設に対して、追加の支援を行うことで、利用者の安全を守るための取り組みを後押しすることを目的としています。

高齢者施設などでの感染症対策は非常に重要であり、この加算を通じてより安全な環境が提供されることが期待されています。感染症への日頃からの備えが重要であるため、感染症拡大を未然に防ぐためにも加算を検討し、感染症に備えるようにしましょう。

高齢者施設等感染対策向上加算が新設された背景

コロナが2類相当であった時に、医療機関の入院ベッドが満床で、介護施設等からの搬送を受け入れられない状況でした。そこで介護施設内での療養を余儀なくされ、介護職員が感染症対策を施したうえでケアに当たっていました。逆に言えば、入院が長引きがちなコロナ患者を介護施設等で療養することで、医療崩壊を回避できたともいえます。

今後も同様の感染症が拡大する可能性があり、厚生労働省としては、介護施設等が平時から医療機関や感染症に関する専門人材と連携し、助言や支援を受けることができる仕組みを構築することが有効で、こうした取組について評価する必要があるとの考えから、この「高齢者施設等感染対策向上加算」が新設されました。

加算を通じて施設が適切な感染症対策を行うことで、感染症の予防や管理が十分に行われ、利用者のリスクを最小限に抑えること、施設の品質向上を促進することが期待されています。

対象となる施設とサービス

高齢者施設等感染対策向上加算の対象事業者は以下の通りです。

  • 特定施設入居者生活介護(有料老人ホームなど)
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護
  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
  • 介護老人保健施設
  • 介護医療院

これらの施設やサービスは、高齢者の生活支援や介護を行う場であり、感染症が発生しやすい環境であるため、適切な対策が重要です。施設が対策を行うことで、感染症の予防や管理が十分に行われ、利用者の健康や安全が守られることが期待されています。

単位と算定要件

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)

算定要件・感染症法第6条第 17 項に規定する第二種協定指定医療機関との間で、新興感染症の発生時等の対応を行う体制を確保していること
・協力医療機関等との間で新興感染症以外の一般的な感染症の発生時等の対応を取り決めるとともに、感染症の発生時等に協力医療機関等と連携し適切に対応していること
・診療報酬における感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関又は地域の医師会が定期的に行う院内感染対策に関する研修又は訓練に1年に1回以上参加していること
高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)の対象となる研修、訓練及びカンファレンス・ 感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算の届出を行った医療機関において、感染制御チーム(外来感染対策向上加算にあっては、院内感染管理者)により、職員を対象として、定期的に行う研修
・感染対策向上加算1に係る届出を行った保険医療機関が、保健所及び地域の医師会と連携し、感染対策向上加算2又は3に係る届出を行った保険医療機関と合同で、定期的に行う院内感染対策に関するカンファレンスや新興感染症の発生時等を想定した訓練
・地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンスや新興感染症の発生時等を想定した訓練

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)

単位5単位/月
算定要件・診療報酬における感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関から、3年に1回以上施設内で感染者が発生した場合の感染制御等に係る実地指導を受けていること

拡大防止に向けた医療機関との連携の重要性

先述した高齢者施設等感染対策向上加算の要件にもある通り、介護施設等における感染症拡大防止に向けた体制と医療機関との連携は非常に重要です。両者の協力により、利用者の健康と安全を守り、感染症の拡大を防止することができます。以下にその理由をいくつか挙げてみます。

  1. 感染症対策のプロフェッショナルへのアクセス
    医療機関は感染症対策の専門知識や経験を持つプロフェッショナルが多く在籍しています。介護施設と医療機関が連携することで、感染症の専門家と連携しながら効果的な対策を打てます。
  2. 早期発見と適切な対応
    医療機関との連携を強化することで、感染症の早期発見や適切な対応が可能となります。医療機関の支援を受けながら、迅速かつ正確な対処を行うことが重要です。
  3. 情報共有と連携強化
    医療機関との連携を通じて、最新の感染症情報や対策方法を得ることができます。また、介護施設と医療機関が連携し、情報共有を行うことで、より効果的な感染症対策が可能となります。
  4. 利用者の安全確保
    感染症は高齢者などの弱い免疫を持つ利用者にとって重篤なリスクとなります。医療機関との連携を通じて、利用者の安全を確保し、感染症の拡大を防止することが最優先されるべきです。

参照:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)

新興感染症対策の強化と将来の方向性

高齢者施設等感染対策向上加算に記載されている「新興(再興)感染症」についても詳しく解説します。

新興感染症とは、以前はあまり見られなかったり制御されていた感染症が、再び現れる、または新たに出現する感染症のことです。これらの感染症は新しい変異体やウイルス、細菌が原因で発生することが多く、予防策や対処法が確立されていないことが挙げられます。

最近流行した、新興(再興)感染症は以下の通りです。

流行した年感染症名国・地域
2004SARS(重症急性呼吸器症候群)中国,台湾,シンガポール等
2009H1N1 インフルエンザ)メキシコから世界中へ
2012MERS(中東呼吸器症候群)中東
2012H7N9 インフルエンザ中国
2013エボラウイルス病(エボラ出血熱)ギニア,シエラレオネ,リベリア等
2013チクングニア熱中南米
2014デング熱日本
2015MERS(中東呼吸器症候群)韓国
2015ジカウイルス感染症中南米
2017ペスト マダガスカル

このような感染症は急速に広がる可能性があり、対策が重要です。次に現れる新興(再興)感染症に備えるためには何が必要でしょうか?

感染症に対する新たな治療法やワクチンの開発の促進、感染症に強い医療体制の構築や検査能力の向上、感染症対策の教育・啓発活動、予防接種プログラムの拡充、また、人間と動物の接触の管理、抗生物質などの抗微生物薬の適切な使用など、多岐にわたる対策が必要です。

そして、これらの対策は継続的に行う必要があります。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し「喉元過ぎれば熱さを忘れる」となり、感染症対策がおろそかにならないように注視し続ける必要があります。

新型コロナウイルス感染症業務で取り組んだことを活かし、介護施設、保健所、医療機関、自治体が連携して、以下のような、有事の対応の検討を進めることが求められます。

  1. 早期発見と迅速な対応
    新興感染症は知識や情報が不足していることが多いため、早期発見と素早い対応が必要です。感染症が拡大する前に早めに発見し、的確な対策を講じることが重要です。
  2. 情報共有と国際連携
    新興感染症は国境を越えて広がることがあります。情報の共有や国際的な連携を強化することで、感染症の拡大を防ぎ、世界中での対策を円滑に進めることができます。
  3. 予防接種の普及
    新興感染症に対する予防接種の普及も重要です。効果的なワクチン接種により、感染症の拡大を抑制し、個人やコミュニティの健康を守ることができます。
  4. 疫学調査と研究の推進
    新興感染症についての疫学調査や研究を積極的に推進することも重要です。新たな感染症についての知見を深めることで、より効果的な対策を講じることができます。
  5. 高齢者施設等への巡回指導、感染防止対策
    自治体のアドバイザリーを担う感染症管理の専門家やICN(感染管理認定看護師)から医療機関に対してゾーニング等についての助言や高齢者施設等への巡回指導を実施します。
  6. 平時における感染症対応訓練の実施
    平時から介護施設と医療機関との間で、患者移送等の訓練を実施するなど、訓練や研修等に取り組み、有事においても相互に支援ができる関係を構築します。

新興感染症への対策は、個人や社会全体の健康を守るために欠かせない重要な取り組みです。適切な情報共有、効果的な予防策の普及、迅速な対応力の強化などを行うことで、新興感染症の拡大を防止し、健康な社会を築くことができます。

高齢者施設等感染対策向上加算に関するQ&A

高齢者施設等感染対策向上加算に関して、さらに詳細な内容として厚生労働省よりQ&Aが紹介されていますので、ご紹介します。

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)について、感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関等が行う院内感染対策に関する研修又は訓練に1年に1回以上参加していることとあるが、令和7年3月31日までの間にあっては、3月31日までに研修又は訓練に参加予定であれば算定してよいか。

医療機関等に研修又は訓練の実施予定日を確認し、高齢者施設等の職員の参加の可否を確認した上で令和7年3月31日までに当該研修又は訓練に参加できる目処があれば算定してよい。

高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)について、令和6年4月以前に新型コロナウイルス感染症等に対する感染対策として、医療機関の医師若しくは看護師等による実地指導又は厚生労働省の事業※において実施された実地研修を受けている場合は、実地指導又は実地研修を受けた日から起算して3年間算定してよいか。
※令和3年度、令和4年度「介護サービス類型に応じた感染症対策向上による業務 継続支援業務」における感染症の専門家による実地での研修、令和5年度「感染症の感染対策及び業務継続(BCP)策定に係る調査研究及び当該調査研究を踏まえた研修業務」における感染症の専門家による実地での研修

算定可能である。ただし、感染対策向上加算に係る届出を行っている医療機関の医師若しくは看護師等による実地指導又は厚生労働省の事業において実施された実地研修であること。

Q.高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)について、診療報酬の感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算に係る届出を行った医療機関が実施する院内感染対策に関するカンファレンス及び訓練や職員向けに実施する院内感染対策に関する研修、地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンス及び訓練とは具体的にどのようなものであるか。また、これらのカンファレンス等はリアルタイムでの画像を介したコミュニケーション(ビデオ通話)が可能な機器を用いて参加することでもよいか。

A.高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)の対象となる研修、訓練及びカンファレンスは以下の通りである。

  • 感染対策向上加算又は外来感染対策向上加算の届出を行った医療機関において、感染制御チーム(外来感染対策向上加算にあっては、院内感染管理者。)により、職員を対象として、定期的に行う研修
  • 感染対策向上加算1に係る届出を行った保険医療機関が、保健所及び地域の医師会と連携し、感染対策向上加算2又は3に係る届出を行った保険医療機関と合同で、定期的に行う院内感染対策に関するカンファレンスや新興感染症の発生時等を想定した訓練
  • 地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンスや新興感染症の発生時等を想定した訓練

まとめ

介護施設での感染症対策の目的は、利用者や職員の健康と安全を確保することにあります。効果的な手洗いや消毒、適切なマスクの着用、定期的な施設の換気、感染症予防教育の実施など、様々な対策が重要です。これらの取り組みを通じて、安全な環境を提供し、感染症の拡大を防止することが求められます。まずは利用者ができるだけ長く施設での生活を送れるよう、常日頃から感染対策に取り組むことを目的にしてください。

令和6年度介護報酬改定では、大項目「地域包括ケアシステムの深化・推進」の中に、「医療・介護の連携の推進」や「感染症や災害への対応力向上」が挙げられています。介護施設においては、医療機関との情報共有や、感染症への対策の強化などが求められています。「高齢者施設等感染対策向上加算」も医療機関等との連携が求められており、今後介護施設を運営していく中で協力医療機関をはじめとする医療機関との連携体制の構築は必須となっています。

介護現場において、より質の高い介護を提供することが、加算の目的です。加算を算定することによって、算定していない介護事業所と比較し、質の高い介護サービスが提供できる事業所ということになりますので、ぜひ取得を目指してください。

質の高いサービスの提供は、高齢者の状態を維持・向上させ、自立支援につながります。高齢者の状態が良くなり、満足度も向上するような取り組みをしたことに対して、介護職員の給与など待遇が上がっていきやすくなることが、加算を算定する意味です。

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【参考文献】

  • 厚生労働省・老健局『介護職員のための感染症対策マニュアル・施設編』
  • 厚生労働省・老健局『介護現場における感染対策の手引き』
  • 川越正平『介護の感染対策』秀和システム
  • 笹原鉄平『誰でもわかる感染対策マニュアル』メディカ出版
  • 厚生労働省『社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料』
  • 太田貞司・上原千寿子・白井孝子『介護職員初任者研修テキスト第2版』中央法規

【参考サイト】

  • けあんちゅPro代表(介護人材育成の社会貢献活動)/
    グループホーム管理者/介護支援専門員/
    ツクイスタッフパートナー講師

    森 幸夫

    経歴詳細を見る

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