介護施設の法定研修とは?内容や年間計画の作成方法について解説
介護施設における法定研修は、質の高いサービスの提供に欠かせないものです。しかし、多忙な毎日の中で研修の計画や準備をすることは容易ではなく、どのような研修を実施すれば良いのか悩んでいる研修担当者は多いのではないでしょうか。
このコラムでは、介護施設の法定研修の重要性と具体的な研修内容、年間計画の立て方について解説します。
法定研修とは
法定研修とは、適切な介護事業運営のために運営基準に実施が義務付けられている研修のことで、介護サービス種別により、必要な研修内容が定められています。法定研修は、介護サービスの質の維持・向上や職員のスキルアップを図るために欠かせない重要な研修であり、介護事業者は従業員に対して必要な研修を受講させなければなりません。
法定研修と介護報酬の減算
介護施設では、法定研修が実施されていることが介護報酬の加算における算定要件となっており、法定研修を実施していないと加算の対象となりません。また、令和6年度の介護報酬改定では加算の算定ができないだけでなく、研修の未実施により減算の対象になるものも制定されました。
高齢者虐待防止措置未実施減算
高齢者虐待防止未実施減算は令和6年度の介護報酬改定で導入された、虐待防止措置を講じていない事業所に対して報酬を減算するものです(居宅療養管理指導及び特定福祉用具販売を除く)。
具体的には、「高齢者虐待防止のための対策を検討する委員会を定期的に実施していない、高齢者虐待防止のための指針を整備していない、高齢者虐待防止のための年1回以上の研修を実施していない又は高齢者虐待防止措置を適正に実施するための担当者を置いていない事実が生じた場合、速やかに改善計画を都道府県知事に提出した後、事実が生じた月から3月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間について、利用者全員について所定単位数から減算することとする。」とされています。
引用:「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」等の一部改正について(令和6年3月15日)
この通り、高齢者虐待防止のための研修は年1回以上実施しなければならず、未実施の場合には研修の実施がされるまで減算されることになります。
安全管理体制未実施減算
介護保険施設では、事故の発症及び再発を防止するために講じなければならない措置として、
- 事故が発生した場合の対応、事故等の報告の方法等を記載した「事故発生防止指針」の整備
- 事故が発生した場合、またはそれに至る危険性がある事態が生じた場合に当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する対策体制の整備
- 事故発生の防止のための委員会及び従業者に対する研修の定期的な開催
- ①〜③を適切に実施するための担当者を配置すること
が義務付けられています。これらの事故の発生・再発防止のための措置が講じられてない場合「安全管理体制未実施減算」が適用され、これらの基準を満たしていない事実が生じたその翌月から基準に満たない状況が解消されるに至った月まで、入所者全員について1日5単位を減算しなければなりません。
法定研修の内容と必須項目
法定研修は全サービスに共通で必須となっているものと、サービス種別によって必須になっているものに分けられます。介護事業者は、すべての介護従業者に対して必要な研修を受けさせる義務があり、その実施状況については、「介護サービス情報の公表」で開示します。
サービス種別ごとの法定研修
訪問介護 | 訪問入浴介護 | 訪問看護 | 訪問リハビリ | 通所介護 | 通所リハビリ | 居宅介護支援 | 福祉用具貸与 | 小規模多機能居宅介護支援 | |
認知症、認知症ケアに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
プライバシー保護に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
接遇に関する研修 | 〇 | 〇 | |||||||
倫理・法令遵守に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
事故の発生、予防、再発防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
緊急時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
身体拘束の排除の取り組みに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||
非常災害時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
介護予防及び要介護の進行予防に関する研修 | |||||||||
医療に関する研修 | |||||||||
ターミナルケア(終末医療)に関する研修 | |||||||||
精神的ケアに関する研修 | |||||||||
高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
認知症対応型共同生活介護 | 特定施設入居者生活介護 | 介護老人福祉施設 | 介護老人保健施設 | 介護医療院 | |
認知症、認知症ケアに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
プライバシー保護に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
接遇に関する研修 | |||||
倫理・法令遵守に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
事故の発生、予防、再発防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
緊急時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
身体拘束の排除の取り組みに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
非常災害時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
介護予防及び要介護の進行予防に関する研修 | 〇 | ||||
医療に関する 研修 | 〇 | ||||
ターミナルケア(終末医療)に関する研修 | 〇 | 〇 | |||
精神的ケアに関する研修 | 〇 | ||||
高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
研修の内容
各研修の内容について説明します。
認知症・認知症ケアに関する研修
認知症の利用者に対応するための基礎知識や対応方法について学びます。
2024年からは、介護保険施設や介護事業所に従事する介護職員等に「認知症介護基礎研修」の受講が義務付けられました(ただし、医療、介護の保有資格により研修の義務が免除されます)。この研修は、認知症介護に携わる上で認知症の当事者や家族の視点を理解し、本人主体の介護の実践力やチームアプローチにより基本的なサービス提供ができるようにすることを目指すとされています。
プライバシー保護に関する研修
個人情報の適切な取り扱いや管理方法、情報漏洩の防止について学びます。介護サービスでは業務上、身体や財産、家族関係など他人に知られたくないプライバシーに触れることも多く、プライバシー保護の徹底が求められます。よって、従業者にとっても事業所にとっても重要な研修と言えます。
接遇に関する研修
介護現場での接遇マナーについて学びます。言葉遣いや利用者の自宅へ訪問した際の対応など基本的なビジネスマナーを習得し、高齢者やご家族、その他の関係者に対して敬意を表した振る舞いができるようにしていきます。
倫理・法令遵守に関する研修
介護職員としての倫理観や法令遵守の重要性について学び、専門性を持った人材を育成します。利用者やご家族が信頼できる事業所であるために、すべての介護職員が受講する必要があります。
事故の発生、予防、再発防止に関する研修
サービス提供時に起こりやすい事故を未然に防ぐ方法や、事故が発生した場合の再発防止策を学びます。事業所で起こりやすい事故に関する再発防止策については、同様の事故を二度と起こさないために重要であり、ヒヤリハットの分析や共有も含まれます。
緊急時の対応に関する研修
大雨や地震などの災害や感染症など、緊急事態が起きた時の役割分担や対策について学びます。これらの緊急事態が発生した際は、各スタッフの適切かつ速やかな判断と対応が求められます。講義による研修だけでなく、さまざまな状況に応じた対応が身につくように、ルールの確認やシミュレーション・訓練をしておくことが大切です。
感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修
感染症と食中毒の対策、蔓延防止について学びます。新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症は、高齢者にとって生命を脅かすような脅威になりかねません。また、介護施設や通所施設など食事の提供があるサービスでは、食中毒の発生にも留意が必要です。
身体拘束の排除の取組に関する研修
身体拘束となる行為やその弊害ついて学びます。身体拘束により自由を奪うことは、人権を侵害する行為であり、拘束された利用者や家族に大きな影響を与える行為です。どのような行為が身体拘束にあたるのか、また、身体拘束による弊害と身体拘束をしないためのケアの工夫などを学び、不必要な身体拘束をしないケアを目指します。また、やむを得ず身体拘束を実施する際の判断基準や手法、期間などについて学ぶことで、その弊害を最小限にできるようにしていきます。
介護予防及び要介護の進行に関する研修
特定施設入居者生活介護サービスの従事者に受講を義務付けられている法定研修で、要介護状態の悪化防止や、要介護状態になることを遅らせるための知識と対策を学びます。特定施設では、軽度者から重度者までさまざまな介護度の入居者が生活しており、機能訓練や日常生活の支援を受けています。要介護状態の悪化を予防し、自立した生活が継続できるよう、基本的な知識やケアの方法、取り組みを実践できるようにします。
医療に関する研修
介護を必要とする高齢者は、さまざまな疾患を抱えていることも多く、医学的管理や医療的ケアを必要とする利用者もいます。なかには、吸引や経管栄養など介護職員による実施が可能な医療的ケアもあります。また、爪切りや浣腸など介護職員が実施してもよいか判断に迷うものもあります。医療に関する研修を受けることで、介護職員が実施できる行為とできない行為を知り、疾患について日常生活で注意しなければならないことを習得することができます。
ターミナルケア(終末医療)に関する研修
自宅や施設で終末期を迎えたいと希望している高齢者に対する適切なケア、医療・看護・介護の連携などを学びます。また、ターミナルケアを実施するにあたり、必要な準備や考え方などの整理をし、スタッフに周知するなどを行います。
精神的ケアに関する研修
介護の現場では、利用者や家族だけでなく、従事するスタッフの精神的負担が大きい傾向にあります。また、最近では利用者や家族からのカスタマーハラスメントや、認知症の利用者から暴言を受けることも珍しくありません。そのような状況に遭遇した際にどのような対処を行うのか、個人だけでなくチームや事業所全体での対応方法を学び、従業者の精神的ケアを図れるようにします。
高齢者虐待防止関連法を含む虐待防止に関する研修
この研修では、高齢者に対する虐待防止や虐待防止に関連する法律について学びます。近年、介護施設等で高齢者虐待が行われたとのニュースを目にすることが少なくありませんが、高齢者虐待は決して許されるものではありません。虐待の種類や虐待が発生する要因、そしてその対策を事例を通して知ることで、虐待防止につなげます。
年間研修計画の作成方法
介護施設では、研修の年間計画の作成が義務付けられています。研修計画は、年度の開始時には完成している必要があるため、年度末までに次年度分を作っておく必要があります。
年間研修計画は以下のステップで作成します。
研修項目の確認
介護サービス種別ごとに必要な法定研修が違いますので、自拠点でどのような研修をする必要があるか確認します。また、法定研修だけでなく、事業所独自のテーマとして実施する項目も検討します。
研修内容の決定
各研修の項目で、介護職員が知っておくべき基本的な知識や、技術トラブルの防止・対処法などを組み込み、サービスの質の向上につながる具体的な内容を決定します。
年間研修計画書の作成
年間計画研修計画書には、研修のスケジュール、内容、目的、研修の対象者、方法などを明記しておきます。所定の様式はありませんが、研修の実施にあたり必要な内容を漏れなく記載するようにします。
実施の記録と評価
研修を実施した後は、実施した内容を記録に残しておく必要があります。また、従業者は個人目標を設定し、法定研修やその他の研修の受講が有意義なものになるようにします。研修参加者には、個別に学んだことや感想を記録し提出してもらい、フィードバックや研修の評価を行います。
年間研修計画の例
2024年度年間研修計画
月 | 日 | 研修項目 | 研修内容 | 担当講師 | 受講対象者 |
---|---|---|---|---|---|
4 | 5 | 個人情報保護・プライバシー研修 | ・介護サービスにおける個人情報の取り扱い | 〇〇 | 全従業者 |
5 | 29 | 感染症予防・対策研修 | ・感染症とは ・感染症発生時の対応 | 〇〇 | 全従業者 |
6 | 18 | 接遇研修 | ・介護施設における接遇マナーの実践 | 外部講師 | 全従業者 |
7 | 4 | 災害時業務継続研修・訓練 | ・大地震発生時の初動訓練 | 〇〇 | 全従業者 |
8 | 2 | 身体拘束・高齢者虐待防止研修 | ・身体拘束とは ・高齢者虐待の種類と事例 | 〇〇 | 全従業者 |
9 | 17 | ハラスメント対応研修 | ・ハラスメントの種類 ・ハラスメント事例 | 〇〇 | 全従業者 |
10 | 認知症と認知症ケア研修 | ・認知症の種類 ・認知症ケアの実践方法 | 〇〇 | 全従業者 | |
11 | 8 | 感染症対策研修・BCP訓練 | ・感染症発生時の初動について机上訓練 | 外部講師 | 全従業者 |
12 | 終末期ケア研修 | ・終末期のケア ・ACPについて | 〇〇 | 全従業者 | |
1 | 10 | 認知症研修 | 〇〇 | 全従業者 | |
2 | ユニットリーダー研修 | ・コミュニケーション ・チームビルディングについて | 〇〇 | ユニットリーダー | |
3 | 7 | 倫理・法令遵守研修 | 〇〇 | 全従業者 |
研修の課題と解決策
介護施設での内部研修は、施設独自のニーズに合わせたカリキュラムを組むことができる一方で、研修担当者が専任者ではなく施設の業務と兼務している場合、研修の準備等の負担が大きいことに加え、内容が偏ったり、研修の質に問題が生じたりすることもあります。また、最新の介護技術や理論を網羅的にカバーすることは容易ではありません。
このようなこともあり、最近では外部研修を活用する介護施設も増えてきています。外部研修を利用するメリットは、専門的な講師による質の高い研修を受けられることです。これにより、施設の職員は多様な視点と最新の介護技術や専門知識を学ぶことができ、直接的又は間接的なサービスの向上につながります。
さらに、同一法人の講師ではなく第三者の視点が入る機会を得ることで、自施設の取り組みに関する客観的な評価や、他の施設の成功事例などを知ることができます。それにより、新たな取り組みのヒントを得ることも可能になります。
まとめ
介護施設では、従業者のスキルの向上と安全なサービス提供ができるように、運営基準によって年間研修計画の作成が義務付けられています。研修では、各サービスに応じた法定研修だけでなく、事業所独自のテーマや職種、キャリア等に応じた研修を組み入れることも重要です。
2024年度からは、全介護事業所のスタッフに認知症基礎研修の受講が必要となったり、非常災害時の研修が義務付けられたりしたように、必要な研修内容の変更がされることがあるため注意が必要です。
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