介護現場での緊急時の対応マニュアル!介護職員の心得や緊急時対応の事例も紹介
介護職員の方の中には、「まだ緊急事態に遭遇したことがないため、実際に目の前で起きたらどう対応すればよいのか不安」という気持ちをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
介護現場では、緊急時の対応を避ける事ができません。しかし対応の手順を理解しておくことで、最悪の事態を回避できる可能性があります。介護職として緊急時の対応についての知識を深めることは重要です。
本記事では、介護現場における緊急時の対応の基本的な心構え等について紹介します。
- 介護現場における「緊急時」とは何か?
- 高齢者はなぜ急変しやすいのか?
- 介護現場でよくある緊急事態とその対応方法
- 緊急時の対応を行うときの介護職の心得
- 利用者の急変時に介護職員が取ってはいけない対応について
- 緊急時の対応に不安を感じる介護職が普段からやっておくべきこと
- 緊急時対応の事例 「利用者が食事中に誤嚥した!」
- まとめ 焦らず正確に!
介護現場における「緊急時」とは何か?
介護現場には緊急事態が多くあります。介護現場における緊急時とは、急な事態が発生し、即座の対応が求められる状況を指します。例えば利用者が健康上のリスクや危険に晒されたり、体調が急変した場合には緊急時となります。
具体的な緊急事態としては、以下のような状況が考えられます。
利用者の身体のことだけではなく、広い意味では、感染症、介護事故、職員のケガ、自然災害の発生も緊急事態です。
これらを、カテゴリー別に分類すると、以下のようになります。
ここでは主に、「リスクマネジメント」に含まれる、利用者の急変時の対応についてご紹介します。
利用者の急変時には、迅速かつ適切な対応が求められます。まずは利用者の安全を確保するため、救急医療の専門家や施設内の医療担当者に連絡し、指示を仰ぐことが重要です。その後、必要な応急処置や心肺蘇生法(CPR)などの救命措置を行う場合もあります。
そして、緊急時には利用者やその家族への適切な情報提供も重要です。冷静で明確なコミュニケーションを取りながら、状況の把握や指示の共有が行われます。
また、スタッフ間の連携や訓練も欠かせません。予期せぬ事態に対処するため、事前に適切な訓練やシミュレーションを行い、チームでの協力体制を整えることが大切です。
高齢者はなぜ急変しやすいのか?
高齢者は加齢とともに心身の状態が変化し、機能が低下することがあります。高齢者が急変する一因として、以下のような要因が考えられます。
- 身体的な変化
高齢になると身体の機能が低下し、心臓や肺、脳などの臓器の働きが弱くなります。このため、突然の血圧変動や心臓発作など、身体的な疾患による急変が起こりやすくなります。 - 慢性疾患の進行
高齢者は一般的に慢性的な疾患を抱えていることが多く、その疾患が進行することで急変が起こることがあります。例えば、糖尿病や高血圧といった疾患が制御できないことにより、血糖値や血圧が急上昇または急降下することなどが挙げられます。 - 薬物の副作用
高齢者は複数の薬を同時に服用していることがあります。しかし、薬物の相互作用や誤った使用により、副作用が生じることがあります。これによって体調不良や意識障害が発生し、急変する場合があります。 - 環境変化やストレス
高齢者は環境の変化やストレスに敏感です。例えば、入院や施設への転居、家族の変化、新しい介護者の出現などは、高齢者の心理的・身体的な負担となり、急変のリスクを増加させる可能性があります。
これらの要因が高齢者の急変を引き起こす可能性があります。介護の現場では、高齢者の身体的状態や環境を適切に把握し、予防策や早期対応を行うことが重要です。
介護現場でよくある緊急事態とその対応方法
介護現場でよく起こる緊急事態とその対応方法を把握しておきましょう。
もし、これらの症状が悪化しそうな場合には、早急に救急車(119番)を要請し、医療機関の専門家による適切な診断と治療を受ける必要があります。また、救急車を要請する際には、症状や状況を的確に伝えることも重要です。
症 状 | 特徴と対応方法 |
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転倒 | 高齢者は転んでけがをすることがよくあります。加齢に伴い、筋力、瞬発力、持久力、柔軟性が衰える事が原因です。骨折が疑われる場合は受診が必要です。 |
嘔吐 | 髄膜炎や脳腫瘍の可能性もありますが、便秘、食中毒、薬の副作用など原因は様々です。 夏は熱中症の可能性もあります。感染症によるものもあるので、マスク・グローブ・エプロン等の感染対策をして対処しましょう。横向きに寝かせ、ガーグルベース等を使用して口腔内の吐物を取り除きます。吐物の量、色を観察しましょう。吐き気があるときは無理に食べさせず水分補給をさせましょう。 |
けいれん | 脳卒中、てんかん、中毒、熱中症、高熱などによって起こることが多く、突然の心停止の徴候の1つといわれています。周りになるべく物がない広い場所に寝かせ、けいれんが治まるのを待ちましょう。 けいれんが治まったら気道を確保し、反応(意識)の確認を行います。 |
意識消失 | 別名を「失神(気絶)」と呼び、呼びかけにも反応がないことを指します。原因は高血圧や糖尿病、心疾患など様々です。高齢者の失神で最も一般的な原因は、起立時に血圧を速やかに調節できない状態です。 まずその方の名前を 「〇〇さん、聞こえますか?」などと大きな声ではっきりと問いかけます。反応なし(昏睡)の場合は、119番通報、気道確保を行い、救急隊が到着するまで毛布などで保温しましょう。 |
誤嚥による 呼吸困難 | 餅などが喉に詰まった場合は、応援を呼びます。「背部叩打法」等で応急処置をします。意識がない場合は心肺蘇生、AEDを使用し、救急車を呼びます。口から指を入れて無理に取り出そうとすると、奥に押し込んでしまう可能性があるため危険です。 |
激しい頭痛 | 突然の強烈な痛みや徐々に増強する痛み、手足の麻痺や言葉のもつれ、発熱などを伴った頭痛など、「これまでに経験したことのない頭痛」は、脳出血、脳腫瘍なども疑われる為、すぐに救急車を呼びます。特に「くも膜下出血」は、脳の動脈のこぶ(動脈瘤)が突然破裂し、脳を覆うくも膜下に血がたまるもので、急に、頭が割れるようなガーンという激痛がおそうのが特徴です。続いて吐き気やおう吐、意識低下などが起こります。40歳代以降に多く、発作の数日~数週間前に、前兆となる経験したことのない軽い頭痛が起きることもあります。 |
胸痛 | 胸痛には鋭い痛みと、鈍い痛みがあります。また、胸だけでなく、背部、首、顎、上腹部、腕などにも痛みが生じることがあります。胸痛の多くは心筋梗塞や大動脈解離、狭心症など、命に関わるような怖い疾患が原因のものが多いため、速やかに救急車を呼びます。 |
不整脈 | 脈が正常な範囲よりもゆっくり打つ、早く打つ、不規則に打つ状態を不整脈と言います。自動血圧計では測定出来ないので、人差し指・中指・薬指を橈骨動脈に当てて測定します。失神、意識消失、呼吸停止があったら救急車を呼び、AEDを使用します。 |
ろれつが 回らない | 急に話せなくなる状態で、脳梗塞などの初期症状の可能性もあります。口や舌が曲がっていないか、顔がゆがんでいないか、言葉以外の症状をチェック。脳梗塞や脳出血の症状が見られたら救急車を呼びます。 |
吐血 | 吐血とは口から血を吐くことで、上部消化管と呼ばれる食道・胃・十二指腸から出血した場合に起こります。使い捨てグローブで感染症予防をし、吐いた量を確認します。多量(400ml以上)の吐血や、意識レベルが低下した場合は救急車を呼びます。 |
下血 | 下血は肛門から血が出てくることで、消化管のどの部位で出血しても起こりえます。血便の色を確認し、黒色の「タール便」が確認される場合は、消化管で多量の出血があった証拠です。ショック状態の場合は救急車を呼びます。 |
大量の出血 | 感染症対策をし、ガーゼやタオルなどで傷口を圧迫して止血します。傷口が手足にある場合は、心臓より上に挙上します。大量の場合は出血性ショックの危険性があるので、救急車を呼びます。 |
緊急時の対応を行うときの介護職の心得
緊急時対応を行う際の介護職の心構えと、利用者の容態が急変した際に介護職がチェックすべきポイントは以下の通りです。これらのポイントを意識しながら、適切な対応とサポートを行うことが重要です。
- 状況の把握
まずは冷静に状況を把握しましょう。どのような症状や変化が起きているのかを確認し、異変の原因を探ります。 - 冷静な対応と速やかな行動
緊急時にはパニックにならず、冷静に対応することが 重要です。そして迅速に行動し、適切な対処をすることが求められます。容態の急変で生命に関わるような場合、速やかに緊急対応が必要です。意識・呼吸・循環の確認を行い、必要であれば救急車を呼ぶなど適切な対処をします。 - 安全確保
まずは自分自身の安全を確保し、その後、急変した高齢者の安全を最優先に考えましょう。落ち着いた環境を提供し、高齢者の不安や苦痛を軽減するための配慮を行います。 - 報連相(チームワーク)
容態の変化や対応内容など、関係者間で情報共有を行いましょう。介護チームや家族と密接に連携し、適切なケアを実施します。また、必要に応じて、速やかに上司や医療スタッフにも状況を伝え、最適な支援を求めましょう。仲間と連携し助け合うことで、より効果的な対応ができます。 - 記録と振り返り
容態の急変や対応内容を正確に記録しましょう。これにより、後続のケアプランの立案や医療スタッフとの連携が円滑になります。緊急時の対応には知識と技術が必要ですので、後日に振り返りを行い、常に学び続ける態度を持ちましょう。 - 自己ケア
緊急時のストレスや負担は大きいため、自分自身の健康と心のケアも忘れずに行い、十分な休息時間を確保しましょう。
利用者の急変時に介護職員が取ってはいけない対応について
高齢者の急変時には、どうしても焦ってしまうこともありますが、できるだけ冷静に落ち着いて対応することが求められます。介護職員は、特に以下のような対応をしてしまわないよう、注意が必要です。
- 自己判断での対応
介護職員は医療専門家ではありませんので、病状の評価や診断を自己判断せず、必要な場合は速やかに医療機関や救急車を呼ぶべきです。 - 焦ってパニックになる
急変が起きた際には、冷静さを保ちながら対応することが 重要です。焦ってパニックになると、適切な対応ができなくなります。 - 利用者の痛みや苦しみを軽視する
痛みや苦しみを感じている高齢者の声に耳を傾け、共感し、適切な措置や安心感を提供することが大切です。 - 適切な連絡や報告を怠る
急変時には、関係する医療機関や家族への連絡や報告を怠らず、情報共有を行うことが必要です。 - 一人で抱え込み一人で対応する
介護現場では、チームでの連携が求められます。困った時や判断に迷った時には上司や仲間に相談し、共に対応することが大切です。 - 家族や関係者とのコミュニケーション不足
急変時には、患者の家族や関係者と密な連絡やコミュニケーションを取ることが重要です。状況や対応策を共有し、サポートを受けることでストレスを軽減することができます。
これらのようなNG対応を避け、適切な対応を行うことで、高齢者の急変時に必要な支援とケアを提供することができます。
緊急時の対応に不安を感じる介護職が普段からやっておくべきこと
普段から下記のような取り組みを通じて、緊急時の対応に自信を持ち、安心して業務に臨むことができるようにしておきましょう。また、上司や同僚とのコミュニケーションを大切にし、相互支援体制を築いておくことも重要です。
- 緊急事態に備えたトレーニングや研修への参加
緊急時の対応に必要な知識やスキルを身につけるため、定期的にトレーニングや研修に参加しましょう。心肺蘇生法や応急手当などの基礎的な救命処置について学ぶことが重要です。 - マニュアルや手順の確認
施設や組織内で定められた緊急時の手順とマニュアルを理解し、定期的に確認しましょう。緊急時には迅速な判断が求められますので、これらを把握しておくことが大切です。 - 緊急時のシミュレーション練習
定期的に緊急時のシミュレーション練習を行うことで、実態に近い状況下で対応力を養うことができます。介護チームや他のスタッフと協力し、緊急時の連携を確認し合いましょう。 - 冷静さを保つためのストレス管理
緊急時はストレスが高まりがちですので、メンタル面でも準備しておくことが重要です。ストレス発散の方法やリラックスのための時間を確保し、冷静さを保つように心がけましょう。 - 専門家との連携強化
介護職員が一人で、全ての緊急事態に対応することは難しいです。専門家との連携や相談体制を整えることで、必要なサポートやアドバイスを受けることができます。 - 自己学習と情報収集
介護技術や医療情報は日々進歩していますので、自己学習や情報収集を積極的に行いましょう。最新の知識や技術にアップデートすることで、緊急時の対応力を向上させることができます。
緊急時対応の事例 「利用者が食事中に誤嚥した!」
- 誤嚥が起きると、咳が出たり、むせたりします。軽い場合は、次のような対処します。
- 前屈姿勢にして、背中を下から上へさすり、「咳をしてください」と声をかけながら咳を出しやすくしましょう。治まらないようなら、背中を軽くトントンとたたきます。
- 食事は一旦休憩しましょう。落ち着いたら大きく深呼吸してもらい、むせなければ食事を再開します。
- お茶や水は誤嚥が悪化する場合もあるので、落ち着いた後にしましょう。
- 呼吸困難になったときは・・・
- 次のような症状が表れたときは、すぐに救急車119番を呼びましょう!
- 顔面や唇が紫色(チアノーゼ)になる
- 咳も声も出なくなる
- 救急車が来るまでの間、異物が外から見えていれば指で掻きだします。
- 次のような症状が表れたときは、すぐに救急車119番を呼びましょう!
- 呼吸困難になったときの救急救命法
- 意識がなくなった場合は、急いで救急車を呼びましょう。
- ハイムリッヒ法(腹部圧迫法)
- 本人の背後にまわり、ウエストに手を回します。
- 片手でげんこつをつくって、みぞおちに置きます。
- もう一方の手で手首を握り、手首を握った手で弾みをつけて勢いよく、げんこつをみぞおちに押しつけて腹部を圧迫します。
- 背部叩打法(はいぶこうだほう)
- 本人の背後にまわります。
- 手の平のつけ根で、肩甲骨の間を力強く何度も叩きます。
まとめ 焦らず正確に!
緊急事態は、起きないに越したことはありません。
特に、介護職の経験が浅い職員さんの中には、「緊急時の対応をまだしたことがない」という方も多いのではないでしょうか。しかし、『やったことがないから分からない』ことと、『やったことがないけど、正しいやり方は知っている』ことは大きく違います。
例えば、新人職員から「こういう時はどうすればいいですか?」と質問された時に、「私もまだ経験したことないから、マニュアルを見ながら一緒にやってみようね」と声掛けしてあげれば、新人職員も安心しますし、先輩職員への信頼感も増すことでしょう。
緊急時の対応経験がなくても、対応方法を「知っている」ということが何よりも大切です。緊急時でも焦らず正確に対応できるよう、職場内での研修に参加し、知識を身に付けて下さい。
ツクイスタッフでは、介護現場に特化した研修を行っております。緊急時の対応に関する研修のコンテンツも用意していますので、ぜひお問合せください。
>>ツクイスタッフの「緊急時の対応に関する研修」についてはこちら
参考文献
- 「緊急時対処法マニュアル」厚生労働省
- 「社会福祉施設の安全管理マニュアル」厚生労働省
- 「救急車を上手に使いましょう」消防庁
- 「高齢者施設における救急対応マニュアル作成のためのガイドライン」東京都保健医療局
- 「急変時対応便利帳」介護と医療研究会(翔泳社)
- 「高齢者救急―急変予防&対応ガイドマップ」岩田充永(医学書院)
- 「介護で役立つ早引き急変対応マニュアル」大瀧厚子(エクスナレッジ)
- 「介護福祉士養成実務者研修テキスト」(長寿社会開発センター)
- 「介護職員初任者研修テキスト第2版」太田貞司・上原千寿子・白井孝子(中央法規)
- 「生活援助従事者研修59時間テキスト」堀田力・是枝祥子(中央法規)