介護と仕事の両立は可能?両立するための方法や支援制度をご紹介
介護を必要とする高齢者の子どもは、働き盛り世代で、会社の中でも役職についていたり、中核的な立場にあることも少なくありません。そのような方から「介護と仕事を両立をさせるのは難しく、悩んでいる」という相談を受けることがありますが、仕事を辞めずに介護を行うための解決策は必ずあります。
自分がそのような立場になったときに備えて、親の介護が必要となっても仕事を続けながら、家族みんなが安心して過ごすために活用できるものを知っておくことが重要です。
- 介護と仕事の両立に関する実態
- 介護離職のデメリット
- 介護と仕事を両立するためのポイント
- 介護と仕事の両立を助ける支援制度
- 制度の活用で介護離職を回避できた事例
- 介護と仕事を両立するために活用できる介護サービス
- まとめ
介護と仕事の両立に関する実態
厚生労働省の雇用動向調査によると、2021年に介護や看護が理由で離職をした人は、約9.5万人で、男女別では、男性が約2.4万人女性は約7.1万人と女性の方が多くなっています。また年齢別では、男女ともに55〜59歳で最も高いとの結果でした。
親などの身内に介護が必要となったとき、多くの人々が仕事と介護の両立に関して葛藤することでしょう。これは個人だけでなく家族にとっても深刻な問題です。解決策を見つけることが困難であったために、離職を選択せざるを得なかったという状況が後の後悔につながるケースもよく耳にします。
一般的に、親が高齢化し介護が必要な状態になると、家族になんらかの影響を及ぼします。ただし、親の介護は予期せぬタイミングで訪れることも多く、これから先に始まる介護と自分の生活をどうしていくのかを決めるのに、十分な時間が与えられないことも少なくありません。仕事をしながら介護をすることの大変さがイメージ出来ず、見切り発進してしまったために、介護者が苦労し疲弊してしまっているケースも散見されます。
介護と仕事の両立に苦労する理由の一つに、介護には予測できない問題が度々生じることが挙げられます。緊急事態や親の健康状態の変化に伴う臨時の通院が必要になった際には、それに対応しなければなりません。そのため、先々のスケジュールを立てることが難しくなります。
そのようなことが積み重なると、仕事に対する罪悪感や先の不安を感じ、仕事に専念すべきか、親のサポートに重点を置くべきか、その選択に迷いが生じます。このような感情的な負担や身体的な疲労感を感じることで、介護と仕事の両立を難しいと考える原因になっていくのです。
しかし、介護が始まるとおむつ代やタクシー代、介護サービスや医療費などの費用がかかります。そのため、収入を維持しつつ介護を行う必要性があることも多く、仕事を辞めるべきかどうかと葛藤することになるのです。
介護離職のデメリット
親の介護が必要になった場合、多くの人が直面する選択肢の一つが「介護離職」です。これは、仕事を一時的または永続的に辞めて、親の介護に専念することを意味します。しかし、介護離職にはいくつかの深刻なデメリットがあるため、安易に選択せずに家族も交えてしっかりと検討を重ねるべきだと考えます。
デメリット1:経済的影響
最も顕著なデメリットは、経済的な影響です。仕事を辞めることで収入が減少し、自分の生計を立てることが難しくなります。また、医療費や介護サービスの支払いが、想像していたより多いこともあります。親に金銭的な余裕がない場合、介護離職をすることで、自分の家計だけでなく、介護を受ける側にも大きな負担をかける可能性があります。
デメリット2:精神的影響
介護離職は精神的なストレスを引き起こす可能性が高くなるので要注意です。仕事を辞めることで、自分の社会的価値の見出し方がわからなくなり、自己肯定感の低下を引き起こすことがあります。また、常に介護中心の生活を送ることは、社会的な孤立感を助長し精神的な負担を増加させます。イライラしながら介護をすることは、介護をする方にも受ける方にも良い状態ではないことは言うまでもありません。
デメリット3: 退職後の再就職の難しさ
介護が落ち着けば再就職すればよいと考えるかもしれませんが、キャリアや給与を維持したまま中高年が再就職することは決して容易ではありません。そのため、介護離職後に再びキャリアを構築することは困難だと考えておいた方がよいでしょう。これまでに築き上げたキャリアを手放すことで、今後の人生において、金銭面だけでなく仕事に対するモチベーションの維持等に大きな影響を与えることを、しっかりと認識しておく必要があります。
デメリット4: 親との関係への影響
介護離職は、家族や親との関係にも影響を及ぼすことがあります。介護に専念するなかで経済的な問題や精神的なストレスが生じ、家庭内の緊張を増大させ、関係性が悪化することがよくあります。また、親との関係性だけでなく、配偶者や子供など自分の家庭に与える影響も大きいと考えておくべきです。
家族の状況や介護の必要性によって異なることはありますが、以上のデメリットからも明らかなように、介護離職の選択は早まらず慎重に検討すべきです。
介護と仕事を両立するためのポイント
仕事を続けることで、金銭面やキャリアにおいて大きなメリットをもたらすことがあります。「介護と仕事の両立はなかなか難しいのでは」と思えるかもしれませんが、以下のような両立させるためのポイントを考慮してみて下さい。
ポイント1:制度の活用
公的な介護保険制度や職場のサポート制度を活用しましょう。介護休暇制度や介護休業制度など、法的に定められた制度は、仕事と介護のバランスを取るのに役立ちます。厚生労働省が提供する情報や自社の人事制度を確認し、利用できる制度を把握しましょう。
ポイント2:家族との協力
介護は家族全体の協力が必要です。家族と連携し、それぞれの役割分担を計画しましょう。誰がどの介護を担当するのか、週末や夜間に誰がサポートするのかなど、家族内でのコミュニケーションが不可欠です。家族が一体となり協力しあうことが、一人ひとりの介護負担を軽減し、仕事との両立を支えます。
ポイント3:専門家の助け
親の介護に関連する専門的なサポートを積極的に受けましょう。例えば、介護の専門家であるケアマネジャーに相談することで、課題の解決や不安の解消ができます。デイサービスや訪問介護などの介護サービスを利用すれば、日常生活の支援をしてもらうこともできます。また、薬剤師による居宅療養管理指導を受けることで、お薬の管理を効果的に行えます。
このように、専門家による支援によって家族の負担が軽減し、仕事に専念できる時間が増えます。
ポイント4:安心の確保
親の安否確認に関しては、センサーやカメラなどのテクノロジーを活用することができます。最近ではニーズに応じたさまざまな機種が開発されており、これらの装置を利用することで、そばにいない時でも安否の確認や安全の確保が可能になります。
また、市町村等が高齢者施策として実施している緊急通報装置を導入することができれば、急な緊急事態にも迅速に対応してもらえます。
ポイント5:気持ちの割り切り
最も重要なポイントの一つは、気持ちの上での割り切りです。親の介護と仕事のバランスを取ることは難しさもありますが、負担を軽減するためには、罪悪感を取り除き割り切ることが大切です。
親は、子供たちが幸せであることを望み、自分の介護のために子供に不幸になってほしいとは思わないでしょう。普段からしっかりとコミュニケーションを取っておき、家族ができること、できないことを納得してもらうよう努力しましょう。
ポイント6:役割分担と調整
介護と仕事の両立は、役割分担と調整が上手くいくかがカギと言っても良いでしょう。家族と介護サービスとの連携を図り、必要なサポートができるようにしましょう。そうすることで、介護と仕事の調整がしやすくなります。
そのため、介護サービスを選ぶときには、連絡が取りやすいかどうかは重要なポイントとなります。連絡手段や連絡可能な時間などを事前に確認しておくようにしましょう。
介護と仕事の両立を助ける支援制度
介護と仕事の両立を支援するために、様々な支援制度が提供されています。これらの制度を活用することで、仕事を続けながら親の介護を行うことが可能になります。介護に必要な時間を確保しつつ、経済的な安定性を維持するために、これらの制度の利用を検討しましょう。
1.介護休暇制度
介護休暇制度は、常時介護を必要とする状態にある家族の介護をするために、労働者が仕事を一時的に休むことができる制度です。この制度を利用する際には、特定の要件を満たす必要があります。
- 対象となる労働者
日々雇用される人を除く対象家族を介護する男女の労働者。労使協定を締結している場合には、入社6か月未満、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外。 - 取得可能な日数
対象家族が1人の場合、年5日まで。対象家族が2人以上の場合は年10日まで。1日又は時間単位での取得が可能(労使協定により時間単位での取得が認められない場合あり) - 取得方法
書類の提出又は高等での申し出(社内の規定による)
2.介護休業制度
介護休業とは、常時介護を必要とする状態にある家族の介護を行うために、仕事を休業する制度です。介護休業中は、自分が直接介護を行うだけでなく、専門職への相談や介護サービスの利用にかかる手続き、家族間での役割分担などを行い、介護と仕事を両立できるように体制を整えることが大切です。
介護休業制度を利用するには、特定の要件を満たす必要があります。
- 対象となる労働者
対象家族を介護する男女の労働者であり、取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。労使協定を締結している場合には、入社1年未満、申し出の日から93日以内に雇用期間が終了する、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外。 - 利用期間・回数
対象家族1人につき3回まで。通算93日まで可能。 - 取得方法
休業開始予定日の2週間前までに、社内規定に従い事業主に書面等を提出。 - 介護休業給付金
介護休業給付金は、介護休業中に給与の一部を補填するための支給金です。雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす人は、介護休業期間中に休業開始時の賃金月額の67%が介護休業給付金として支払われます。
3.介護短時間勤務制度
介護短時間勤務制度は、所定労働時間の短縮等の措置が受けられますが、会社によって利用できる制度の内容が異なります。通常の勤務時間を減少させ、介護を行うために柔軟なスケジュールを確保するのが目的です。
会社は、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤制度、介護費用の助成措置のうち、ひとつ以上の制度を設けることが義務付けられています。この制度を利用するには、雇用主との調整が必要ですが、仕事を続けながら介護を行うための有効な手段です。
介護短時間勤務制度を利用することで、仕事と介護のバランスを取りやすくなります。対象家族1人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上利用が可能です。
4.所定外労働の制限(残業免除)
労働者が申請した場合、介護が終了するまで、就業規則に定められた所定外労働を制限することができます。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は労働者からの請求を拒むことができるとされています。
5.時間外労働
労働者が申請した場合、会社は1か月24時間、1年で150時間を超える時間外労働をさせてはならないことになっています。時間外労働とは、法定労働時間(原則として1日8時間、1週間40時間)を超える労働のことを言います。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は労働者からの請求を拒むことができるとされています。
6.深夜業の制限
労働者の申請により、午後10時から午前5時までの深夜労働が免除されます。ただし、日々雇用される人や入社1年未満である、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者など対象外もあります。
制度の活用で介護離職を回避できた事例
課長職のAさんの70代の父親が急病で倒れ、3か月の入院を経て退院することになりました。ただし、在宅酸素が欠かせない状態です。
Aさんの父親は、「自宅に帰れるのであれば帰りたいが、一人なので施設のようなところでも良いよ」と言っていました。Aさんは仕事を辞めて親の介護をするべきなのかと悩みましたが、これまで頑張ってきたキャリアを捨てることに抵抗があり、ケアマネジャーに相談することになりました。
Aさんは、ケアマネジャーとの面談を通してこれからも仕事を続けたいことを認識し、Aさんの父親も、「その意思を大事にしたい。娘のやりたい仕事を犠牲にして自分の介護をしてもらうことは望まない」と退院後は施設での生活を希望しました。
その後、Aさんの父親は酸素吸入が欠かせないため、酸素の管理や体調の変化に対応してもらえる施設を探すことになりました。Aさんはそのことを会社に相談したところ、1か月の介護休業を取ることを勧められ、取得することにしたのです。
介護休業の間にいろいろな施設の見学に行ったことで、ここであればという施設を見つけることができ、退院に合わせて施設に無事入居することが出来ました。
Aさんは、介護休業を取得する前に仕事の段取りをつけておいたため、Aさんの部門の業務に支障をきたすことはなく、上司の評価も得られました。こうしてAさんはキャリアを中断することなく、仕事が休みの日に面会に行くスケジュールを立てられたことで、親子ともに負担を感じることなく生活することができています。
介護と仕事を両立するために活用できる介護サービス
介護は家族の協力だけで行うのではなく、介護サービスも活用することが不可欠です。介護サービスにはどのようなものがあるのかを知り、適切な介護サービスにつなげられるようにしておきましょう。
- ケアマネジャー
介護保険の制度を熟知しており、介護を必要とする人やその家族から相談を受けます。介護保険サービスの利用に必要なケアプランを作成するとともに、サービス事業者への連絡調整、主治医との連携など、総合的な支援を行います。 - 訪問介護
訪問介護員が自宅を訪れ、日常生活の支援や入浴、排泄、食事介助などの身体介護を行います。 - 訪問看護
訪問看護師が体調や薬の管理、創傷の処置、医療的なケアの提供などを行います。 - 訪問入浴介護
自宅に特殊浴槽を設置し、寝たきりなどで自宅のお風呂に入ることが困難な人への入浴介助を行います。 - 訪問リハビリテーション
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリの専門職が自宅に訪問し、主治医の指示に基づきリハビリテーションを行います。 - 居宅療養管理指導
通院が困難な、介護を必要とする状態の患者に対し、医師などが自宅に訪問し療養上の管理や指導、助言などを行います。医師だけでなく、薬剤師や管理栄養士による居宅療養管理指導もあります。 - 通所介護(デイサービス)
自宅等から通所施設に通い、日帰りで食事や入浴、レクリエーション、機能訓練などの介護サービスを受けます。 - 通所リハビリ(デイケア)
身体機能の維持、回復を目的とし、日帰りで介護老人保健施設や病院、診療所などに通所して専門的なリハビリを受けます。 - ショートステイ
介護者の負担の軽減や、介護者の都合により一時的に介護ができない場合に介護を受ける目的で、短期間介護施設に入所し介護を受けます。 - グループホーム
認知症の診断を受けた人が、専門のスタッフの支援を受けながら共同生活を送ります。 - 施設型サービス
介護保険施設として、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設、介護医療院があります。それぞれの施設により、入居の目的や入居の条件が異なります。 - 居住系サービス
住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などがあり、これらの施設は住まいを提供します。そのため、介護サービスは外部の介護事業者と契約して利用することになります。
まとめ
介護と仕事の両立は難しいと思われるかもしれませんが、介護離職には経済面、精神面でのデメリットがあり、慎重に検討する必要があります。
介護休暇や介護休業制度、介護短時間勤務制度などの制度を活用し、家族と専門家のサポートを得ることで、介護と仕事の両立は実現可能です。介護サービスを活用し、役割分担を行うことで、介護と仕事のバランスを取りながら家族みんなが安心して生活ができる体制を整えていきましょう。