訪問介護における特定事業所加算とは?算定要件や達成条件について解説【2021年度改定対応】

介護報酬・加算掲載日: 2023.08.18(更新日: 2023.12.05)

現在、令和6年度の介護報酬改定に向けて、審議が本格化しています。

令和3年度の介護報酬改定では、訪問介護における「特定事業所加算」の改定が行われました。

人員不足や介護職員の高齢化に悩む訪問介護事業所は少なくありません。訪問介護の事業所はぎりぎりの人数で運営し、給与も他の業種に比べると低い傾向にあるため、採用が非常に困難になっています。また、サービス1回あたりの報酬は高いとは言えず、人件費比率が高いのも特徴です。

そのため、1日でも早く特定事業所加算を算定し、経営面やサービスの提供面を安定させることが望まれます。まだ特定事業所加算の取得に至っていなかったり、より高い特定事業所加算の算定をめざしている事業所に向けて、必要な条件をまとめて解説します。

特定事業所加算とは

訪問介護の特定事業所加算は、質の高いサービスを提供できる体制の事業所を評価する加算として設けられています。

研修の実施や介護福祉士等の有資格者の割合、サービス提供責任者の実務経験、介護度が高い利用者の受け入れ等の要件によって、5つの区分に分けられています。

特定事業所加算の種類と算定率(加算率)

訪問介護の特定事業所加算は、サービス提供にかかる所定の単位数に加算される仕組みになっています。

「特定事業所加算Ⅰ」~「特定事業所加算Ⅴ」までの5種類の区分があり、以下の通りそれぞれに加算される割合が異なっています。

特定事業所加算の種類加算割合
特定事業所加算Ⅰ所定単位数に20%加算
特定事業所加算Ⅱ所定単位数に10%加算
特定事業所加算Ⅲ所定単位数に10%加算
特定事業所加算Ⅳ所定単位数に5%加算
特定事業所加算Ⅴ所定単位数に3%加算

特定事業所加算の算定要件一覧

特定事業所加算の算定要件は、次のように体制要件、人材要件、重度要介護者等対応要件の3つがあり、それぞれの区分で必要とされる要件に違いがあります。

体制要件

体制要件に定められているものについて簡単に解説します。

①訪問介護員等ごとに計画的な研修の実施

訪問介護事業所の全ての訪問介護員等に対して、それぞれの訪問介護員等ごとに研修計画を作成し、研修を実施又は実施を予定している必要があります。

研修計画には、訪問介護員等の資質向上につながる研修内容と、研修実施のための勤務体制の確保について策定します。訪問介護員等ごとに具体的な研修目標、内容、研修期間、実施時期等を記載しておかなければなりません。

②サービス提供責任者ごとに計画的な研修の実施

訪問介護事業所の全てのサービス提供責任者に対し、サービス提供責任者ごとに研修計画を作成し、研修を実施又は実施を予定している必要があります。

③会議の定期的な開催

利用者に関する情報もしくはサービス提供にあたっての留意事項の伝達又は訪問介護員等の技術的指導を目的とした会議を定期的に開催する必要があります。

開催頻度はおおむね1か月に1回以上とし、テレビ電話等を活用して行うことも可能です。

④文書等による指示及びサービス提供後の報告

サービス提供にあたり、サービス提供責任者が利用者を担当する訪問介護員に対し、当該利用者に関する情報やサービス提供にあたっての留意事項を「文書等の確実な方法」により伝達しておかなければなりません。

当該利用者に関する情報やサービス提供にあたっての留意事項には、少なくとも以下の5つの事項についてその変化の動向を含めて指示することが必要とされています。

  • 利用者のADLや意欲
  • 利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望
  • 家族を含む環境
  • 前回のサービス提供時の状況
  • その他のサービス提供に当たって必要な事項

「文書等の確実な方法」とは、直接面接し文書を渡す他、Faxやメール等の手段でも可能です。また、サービス提供終了後は、担当する訪問介護員等から適宜報告を受け、文書で記録を保管しなければなりません。

⑤定期健康診断の実施

常勤、非常勤を問わず、すべての従業員に対し少なくとも年に1回以上、事業主の費用負担により健康診断等を実施する必要があります。

⑥緊急時における対応方法の明示

緊急時等における対応方法を利用者に明示しなければなりません。緊急時等における対応方針・緊急時の連絡先及び対応可能時間等を記載した文書を利用者に交付し、説明を行う必要があります。

ただし、この文書については重要事項説明書等に当該内容を明記することで足りるとされています。

人材要件

人材要件は、訪問介護員等要件とサービス提供責任者要件及び訪問介護員の勤続年数割合要件が定められています。

職員の割合の算出は、常勤換算方法により算出した前年度(4月~2月)の実績に基づいて算出するため、新たに特定事業所加算の算定を目指す場合には注意が必要です。

また、新たに事業を開始または再開する等で前年度の実績が6か月に満たない事業所は、届出月の属する前3か月の実績で計算します。

⑦訪問介護員要件

訪問介護員の総数のうち、下記のいずれかを満たす必要があります。

  • 介護福祉士の占める割合が30%以上
  • 介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者の占める割合が50%以上

⑧サービス提供責任者要件

サービス提供責任者は、下記のいずれかを満たしている必要があります。

なお、ここでの実務経験とは、サービス提供責任者として従事した期間ではなく、在宅、施設にかかわらず介護職員として従事した期間のことであり、資格取得、研修終了前に従事した期間も含まれます。

  • 3年以上の実務経験を有する介護福祉士
  • 5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者、介護職員基礎研修修了者、1級課程修了者

⑨常勤及び基準を上回るサービス提供責任者の配置

2名以下のサービス提供責任者の配置が必要な事業所において、サービス提供責任者を常勤で配置し、かつ基準よりも1人以上多く配置している必要があります。

⑩勤続年数割合要件

訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の職員の占める割合が30%以上であることとされています。勤続年数は、各月の前月末の時点で勤続年数が7年以上である必要があります。

ただし、同一法人等の経営する他の介護サービス事業所で従事していた期間を通算することが可能です。例えば、訪問介護事業所の訪問介護員としては5年しか勤務していないが、過去に同一法人の施設で介護職員として3年勤務していた場合は、通算で8年となり勤続年数7年以上の条件をクリアしていることになります。

重度者対応要件

重度者対応要件は、前年度又は算定日が属する月の前3か月間における利用者の総数のうち、以下に示す利用者の総数の割合を算出します。

この計算では、各月の実績をもとに利用実人数又は訪問回数を用いて前3か月間の平均値を算出します。そのため、利用実績がなかった利用者は総数には含めません。

  • 要介護4及び要介護5の利用者
  • 日常生活に支障をきたす恐れのある症状若しくは行動がみられることから介護を必要とする認知症(認知症日常生活自立度がⅢ以上のもの)の利用者
  • 社会福祉士及び介護福祉士法施行規則第1条に掲げる、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする利用者

⑪重度者対応要件を満たす利用者の割合が20%以上

前年度、または前3か月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて20%以上

⑫重度者対応要件を満たす利用者の割合が60%以上

前年度、または前3か月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて60%以上            

特定事業所加算の達成条件

特定事業所加算Ⅰ~Ⅳは、いずれかの区分しか算定できません。特定事業所加算Ⅴは、令和3年に新設された区分で、他の区分と合わせて算定することができます。

  算定要件Ⅰ 20% 加算Ⅱ 10% 加算Ⅲ 10% 加算Ⅳ 5% 加算Ⅴ 3% 加算
体制要件①訪問介護員等ごとに計画的な研修の実施 
②サービス提供責任者ごとに計画的な研修に実施    
③会議の定期的開催
④文書等による指示及びサービス提供後の報告
⑤定期健康診断の実施
⑥緊急時における対応方法の明示
人材要件⑦訪問介護員要件〇 どちらか   
⑧サービス提供責任者要件   
⑨常勤及び基準を上回るサービス提供責任者の配置    
⑩勤続年数割合要件    
重度者対応要件⑪重度者対応要件を満たす利用者の割合が20%以上    
⑫重度者対応要件を満たす利用者の割合が60%    

特定事業所加算Ⅰ

特定事業所加算Ⅰは、加算率が20%と最も高く、要件も最も厳しい加算となり、以下のすべての要件を満たす必要があります。

●体制要件

  1. 訪問介護員等の計画的な研修の実施
  2. 会議の定期的開催
  3. 文書等により指示及びサービス提供後の報告
  4. 定期健康診断の実施
  5. 緊急時における対応方法の明示

●人材要件

  1. 訪問介護員等の総数の割合が以下のどちらかを満たしていること
    • 介護福祉士が30%以上
    • 介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、ホームヘルパー1級修了者が50%以上
  2. すべてのサービス提供責任者が以下のどちらかを満たすこと
    • 3年以上の実務経験を有する介護福祉士
    • 5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者もしくは介護職員基礎研修課程修了者、ホームヘルパー1級修了者

●重度者対応要件

前年度、または前3か月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて20%以上

特定事業所加算Ⅱ

特定事業所加算Ⅱは、加算率が10%で、以下の算定要件をすべて満たす必要がありますが、訪問介護事業所にとっても最も算定しやすい区分になります。

●体制要件

  1. 訪問介護員等の計画的な研修の実施
  2. 会議の定期的開催
  3. 文書等による指示及びサービス提供後の報告
  4. 定期健康診断の実施
  5. 緊急時における対応方法の明示

●人材要件

  1. 訪問介護員等の総数の割合が以下のどちらかを満たしていること
    • 介護福祉士が30%以上
    • 介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、ホームヘルパー1級修了者が50%以上
  2. すべてのサービス提供責任者が以下のどちらかを満たすこと
    • 3年以上の実務経験を有する介護福祉士
    • 5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者もしくは介護職員基礎研修課程修了者、ホームヘルパー1級修了者

特定事業所加算Ⅲ

特定事業所加算Ⅲは、加算率が10%と特定事業所加算Ⅱと同じです。人材要件を満たさない場合で重度者要件を満たす場合は算定が可能で、以下の要件をすべて満たす必要があります。最近では、人材要件を満たす事業所が増えているため、特定事業所加算Ⅲの算定率は高くはありません。

●体制要件

  1. 訪問介護員等の計画的な研修の実施
  2. 会議の定期的開催
  3. 文書等による指示及びサービス提供後の報告
  4. 定期健康診断の実施
  5. 緊急時における対応方法の明示

●重度者対応要件

前年度、または前3か月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて20%以上

特定事業所加算Ⅳ

特定事業所加算Ⅳは、加算率が5%で、すべての介護職員に向けた個別研修の実施を算定要件にしていません。代わりに、すべてのサービス提供責任者に個別研修を実施することが要件となっていて、人材要件及び重度者要件も他の区分とは大きく異なるという特徴があります。

●体制要件

  1. サービス提供責任者の計画的な研修の実施
  2. 会議の定期的開催
  3. 文書等による指示及びサービス提供後の報告
  4. 定期健康診断の実施
  5. 緊急時における対応方法の明示

●人材要件

常勤及び基準を上回るサービス提供責任者の配置

●重度者対応要件

前年度、または前3か月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて60%以上

特定事業所加算Ⅴ

特定事業所加算Ⅴの加算割合は3%です。体制要件に加え、介護職員等の同一法人での勤続年数が評価されます。

●体制要件

  1. 訪問介護員等の計画的な研修の実施
  2. 会議の定期的開催
  3. 文書等による指示及びサービス提供後の報告
  4. 定期健康診断の実施
  5. 緊急時における対応方法の明示

●勤続年数割合要件

訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の職員の占める割合が30%以上

訪問介護の特定事業所加算取得に関するQ&A

特定事業所加算の届け出をすればいつから算定できますか?

特定事業所加算の算定の取得においては、加算要件の確認が必要になり、算定が可能になる時期は保険者等によって異なっているため、事前に届け出の期日等を確認しておきましょう。

定期的な健康診断について、複数の事業所を掛け持ちしている登録ヘルパーが他の事業所で健康診断を実施している場合においても、当事業所で再度健康診断を実施する必要がありますか?

定期的な健康診断は、登録ヘルパーを含むすべての訪問介護員等に対して、年に1回事業者負担で実施する必要があります。ただし、当該年度に他の事業所で実施した場合は、健康診断の結果を証明できる書面を提出してもらうことで差し支えありません。

訪問介護の特定事業所加算の算定率はどのくらいですか。

令和5年7月24日に開催された社会保障審議会の介護給付分科会での訪問介護に関する資料によると、特定事業所加算Ⅰの算定率は6.44%、特定事業所加算Ⅱは29.53%、特定事業所加算Ⅲは0.71%、特定事業所加算Ⅳは0.02%、特定事業所加算Ⅴは0.61%となっており、中でも特定事業所加算Ⅱを算定している事業所が一番多く、すべてを合わせると3分の1以上の訪問介護事業所が特定事業所加算を算定していることが分かります。

参考:第220回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料

まとめ           

訪問介護事業所における特定事業所加算は、質の高いサービスを提供する訪問介護事業所を評価するための加算です。

特定事業所加算にはⅠ~Ⅴまでの区分があり、それぞれ異なる算定要件があります。要件を満たし特定時事業所加算を取得することにより、事業所はより質の高いサービス提供ができるだけでなく、収益も大きく増加します。 算定要件を満たしているまたは、満たせる見込みがあるのであれば、取得を目指して積極的に準備を進めていくことをお勧めします。

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  • 合同会社カサージュ代表/主任介護支援専門員/
    BCAO認定事業継続管理者/産業ケアマネジャー

    寺岡 純子

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