【2024年(令和6年)改定対応】訪問介護の特定事業所加算とは?目的や算定要件について詳しく解説

介護報酬・加算掲載日: 2024.07.29(更新日: 2024.07.29)
介護施設や杖、筆記用具などのイメージ図

訪問介護事業所における特定事業所加算の取得は、質の高いサービス提供を目指すうえで非常に重要であり、介護サービスの質の向上、職員の処遇改善、そして利用者満足度の向上を促進します。しかし、その運用には多くの課題が課せられており簡単ではありません。

本コラムでは、特定事業所加算のメリットとデメリットについても詳細に解説し、事業所が直面する可能性のある課題とその対策について紹介します。

特定事業所加算とは

訪問介護の特定事業所加算は、質の高いサービスを提供する事業所を評価し、基本報酬に加算区分に応じた割合を上乗せするものです。この加算は、介護事業者が提供するサービスの質の向上や事業所の収入を増加させるだけでなく、従業者の給与を増やすための重要な加算項目となっており、事業所が満たした要件に応じて(Ⅰ)~(Ⅴ)まで5つの区分が設けられています。

特定事業所加算を受けるためには、体制要件、人材要件、重度者等対応要件など、厳しい基準を満たす必要がありますが、訪問介護事業者は特定事業所加算の算定要件を満たす体制を整備すべきだと考えます。なぜなら、特定事業所加算を算定することが事業所のサービス品質を高め、利用者の満足度を向上させるための鍵となるからです。多くの訪問介護事業所が特定事業所加算を受けることで、訪問介護サービスは質の高いサービスを提供することが可能になり、全体的なサービスの水準の底上げにつながります。また、事業所の収入が増加することで介護職員の処遇改善ができれば、ヘルパーの人員不足の解消にも寄与し、結果としてサービス利用者の生活の質向上にも期待ができます。

特定事業所加算は、介護事業者にとっては、質の高いサービスを提供するための取り組みを促進し、利用者にとってはより良い介護サービスを受ける機会を増やすための重要な制度です。そのため、訪問介護事業者はこの加算を積極的に算定し、その要件を満たすことで、事業の質を高めるべきです。

特定事業所加算の要件と算定方法

特定事業所加算は以下の5つに分類されます。

  • 特定事業所加算Ⅰ:総単位数プラス20%
  • 特定事業所加算Ⅱ:総単位数プラス10%
  • 特定事業所加算Ⅲ:総単位数プラス10%
  • 特定事業所加算Ⅳ:総単位数プラス3%
  • 特定事業所加算V :総単位数プラス3%

※加算Ⅴについては、加算Ⅰ~Ⅳとの併算定が可能。

算定要件は以下の通りです。

(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ) (Ⅴ)
 20%10%10%3% (旧加算Ⅴ)3%
1.個別の訪問介護員等、サービス提供責任者に係る研修計画を策定し当該計画に従い研修を実施又は予定
2.訪問介護員等の技術指導を目的とした会議を定期的に開催
3.サービス提供責任者と訪問介護員等との間の情報伝達及び報告体制を整備
4.健康診断の定期的な実施体制を整備
5.緊急時等における対応方法を利用者に明示
6.看取り期対応として、病院等の看護師と連携し24時間連絡及び訪問対応が可能であり、看取り期の対応方針の策定と研修を実施   
7.中山間地域等の居住者に継続的なサービス提供    
8.多職種共同による訪問介護計画の随時見直し    
9.介護福祉士の割合が30%以上又は介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者の割合が50%以上いずれか 〇   
10.すべてのサービス提供責任者が実務経験3年以上又は実務経験5年以上の実務者研修修了者   
11.基準を上回る常勤サービス提供責任者を配置  いずれか 〇いずれか 〇 
12.勤続年数7年以上の訪問介護員等が30%以上   
13.以下の重度者の割合が20%以上 ・要介護4・5 ・日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ) ・痰の吸引等を必要とするいずれか 〇 いずれか 〇  
14.看取り期の利用者への対応実績が1人以上ある(併せて、6.の要件を満たしていること)   

なお、これらの算定要件は「体制要件」「人材要件」「重度者等対応要件」の3つに分かれています。以下で詳細について説明します。

体制要件

体制要件は、事業所が高品質なサービスを提供するための基本的な体制を整えているかを評価するもので、以下の要件を満たす必要があります。

1.研修の実施

訪問介護員(登録ヘルパーを含む)やサービス提供責任者に対して、個別の研修計画を作成し、内部・外部研修を実施または予定していること。なお、外部研修時の費用は事業主が負担する必要があります。

2.定期的な会議の開催

訪問介護員の技術的な指導または、利用者に関する情報やサービス提供時の留意点について、訪問介護員間で情報共有のいずれかを目的とした定期的な会議を開催すること。会議はすべての訪問介護員が参加する必要があり、テレビ電話装置等(リアルタイムで画面を通じたコミュニケーションが可能な機器)を用いて実施しても構いません。

3.伝達・報告体制の整備

サービス提供責任者と訪問介護員等間で、利用者情報の文書等による伝達や訪問介護員等からの確実な報告手段が整備されていること。

4.健康診断の定期的な実施

訪問介護員に対して年1回以上、事業主の費用負担により健康診断を実施すること。

5.緊急時対応の明示

緊急時の対応方針を、利用者やその家族に明示すること。

6.24時間連絡体制の確保

病院、診療所または訪問看護ステーションの看護師との連携により、24時間連絡できる体制および必要に応じて訪問介護の実施ができる体制を確保しており、看取り期の対応方針の策定と研修を実施していること。

7.中山間地域でのサービス提供

通常の事業の実施地域内であって中山間地域等に居住する者に対して、継続的にサービスを提供していること。

8.多職種共同による訪問介護計画書の見直し

利用者の心身の状況またはその家族等を取り巻く環境の変化に応じて、訪問介護事業所のサービス提供責任者等が起点となり、随時、介護支援専門員、医療関係職種等と共同し、訪問介護計画の見直しを行っていること。

人材要件

人材要件は、事業所が専門性の高い人材を確保し、質の高いサービスを提供しているかを評価するもので、以下の要件を満たす必要があります。

9.介護福祉士の割合

訪問介護員等のうち、①②のいずれかを満たすこと。

  1. 介護福祉士が占める割合が100分の30以上
  2. 介護福祉士、実務者研修修了者、並びに介護職員基礎研修課程修了者及び1旧課程修了者の占める割合が100分の50以上

10.サービス提供責任者の実務経験

すべてのサービス提供責任者の経験年数が①②のいずれかであること。

  1. 3年以上の実務経験を有する介護福祉士
  2. 5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者、又は介護職員基礎研修課程修了者、又は1級課程修了者

11.サービス提供責任者の配置

サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ基準を回る常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること。

12.勤続年数

訪問介護員の総数のうち、勤続年数が7年以上の職員が占める割合が100分の30以上であること。

人材要件は、常に要件を満たしている必要があり、職員の入退職等で上記の割合を満たさなくなった場合には加算を取り下げなければならず注意が必要です。

重度等対応要件

重度者対応要件は、介護度や日常生活自立度が高い利用者や看取り期の利用者に対するサービス提供に関する要件となっています。

13.重度者の割合

利用者の総数のうち、①②③の利用者の割合が100分の20以上であること。

  1. 要介護4・5である者
  2. 日常生活自立度(Ⅲ・Ⅳ・M)である者
  3. たんの吸引等を必要とする者

14.看取り期の対応

看取り期の利用者への対応実績が1人以上であること。

特定事業所加算に伴うメリットとデメリット

特定事業所加算は、介護サービスの質の向上を目的とした加算であり、事業所が一定の基準を満たすことで報酬を受け取ることができます。この加算は、介護サービスの提供者と利用者の双方にメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。

以下で詳しく見ていきましょう。

特定事業所加算に伴うメリット

  1. 収入の増加が見込める
    特定事業所加算は、加算率が高く設定されており、最大で基本報酬に20%上乗せすることができます。特定事業所加算を取得することで、事業所の収益が向上し、設備投資や職員の処遇改善、採用活動に資金を充てることが可能になります。
  2. 利用者満足度の向上につながる
    特定事業所加算の算定要件として、介護職員等の個々のスキル向上を目的とした研修の実施が必要です。職員のスキル向上に伴い質の高いサービスを提供できるようになると、利用者の満足度を高めることに直結します。利用者の満足度が高まると事業所の評判も良くなり、新たな利用者の獲得に有効に働きます。
  3. 職員の処遇改善ができる
    加算による収益の増加は、職員の給与や福利厚生の改善にもつなげることができます。働きやすい職場環境を整備することで、離職率の低下に寄与することが期待できます。また、質の高い研修を実施することができ、介護技術やそれぞれの職責に応じたスキルを高められることで、モチベーションの向上にもつながります。
  4. 事業所の信頼性・ブランド力の向上につながる
    特定事業所加算の取得は、事業所が厳しい算定要件を満たし高品質なサービスを提供している証となり、ケアマネジャーや関連機関からの信頼を得ることができます。

特定事業所加算に伴うデメリットと対策

  1. 業務負担の増加が懸念される
    加算を取得するためには、複数の要件を満たす必要があり、通常業務に加えて追加の業務が発生します。例えば、人材の採用や定期的な会議の実施などです。また、加算の取得後も、会議や研修記録の整備、人材要件や重度者要件の確認などを行う必要があるため、業務プロセスの見直しやITツールの活用などを行い負担が軽減できるようにしておく必要があります。
  2. 運営指導時の返還リスク
    運営指導等で特定事業所加算の要件を満たしていないことが判明した場合、加算分の返還を求められるリスクがあります。これを避けるためには、要件を正しく理解し、要件を満たしていることを証明する帳票の作成と保存をしておかなければなりません。業務負担の軽減のためにも、効率的な運用を心がける必要があります。
  3. 利用者の負担が増える
    加算により、利用者の自己負担額が増加する可能性があります。これにより、ケアマネジャーからの紹介が減少する懸念があります。しかし、質の高いサービスを提供することで、利用者が増加する可能性もあります。特定事業所加算の取得により利用者やご家族にどのようなメリットがあるのかをしっかりと説明し、理解を得ることが重要です。

特定事業所加算に関するよくある質問

特定事業所加算(Ⅰ)・(Ⅲ)の重度要介護者等対応要件である看取り期の利用者への対応体制について、24時間連絡出来る体制とは具体的にどのような体制を整備する必要がありますか?

「24時間連絡ができる体制」とは、事業所内で訪問介護員が勤務することを要するものではなく、事業所の休業日や夜間帯においても訪問介護事業所から連携先の訪問看護ステーション等に連絡ができ、必要時には事業所からの緊急の呼び出しに応じて出勤する体制を想定しています。

具体的には、以下のような体制を整備することが想定されています。

  • 管理者を中心として、連携先の訪問看護ステーション等と夜間における連絡・対応体制に関する取り決め(緊急時の注意事項や利用者の病状等についての情報共有の方法等を含む)がなされていること。
  • 管理者を中心として、訪問介護員等による利用者の観察項目の標準化(どのようなことが観察されれば連携先の訪問看護ステーション等に連絡するか)がなされていること。
  • 事業所内研修等を通じ、訪問介護員等に対して、イ及びロの内容が周知されていること

勤続7年以上の占める割合の算出で、勤続年数は訪問介護に従事した年数が7年以上と考えるのですか?

特定事業所加算(Ⅲ)、(Ⅳ)における、勤続年数7年以上の訪問介護員等の割合にかかる要件については、訪問介護員等として従事する者であって、同一法人等での勤続年数が7年以上の者の割合を要件としたものであり、訪問介護員等として従事してから7年以上経過していることを求めるものではありません。したがって、当該指定訪問介護事業所に従事する前に、同一法人等の異なるサービスの施設やサービス事業所で介護職員として従事していた場合の勤続年数を通算して差し支えないとされています。

勤続年数には産前産後休暇や傷病による休暇の期間は除外しなければなりませんか?

産前産後休暇や傷病による休暇のほか、喜久治・介護休業、母性健康管理措置としての従業を取得した期間は雇用関係が継続していることから、勤続年数に含めることができます。

参考:令和6年3月15日介護保険最新情報vol.1225「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」の送付について」

まとめ

今回の介護報酬改定で訪問介護サービスでは基本報酬が引き下げられましたが、特定事業所加算の取得により、基本報酬に3~20%上乗せした報酬を受け取ることができます。特定事業所加算の算定は、職員の処遇改善や利用者満足度の向上につながると期待されますが、加算取得のための厳格な要件や、それに伴う業務負担の増加、利用者の自己負担額の増加などのデメリットも存在します。これらの課題に対処するためには、事業所は効率的な業務運営や内部管理体制の強化、そして利用者やその家族への適切な情報提供が不可欠です。

また、事業所の運営を効率化し、職員の負担の軽減を図ることにも注力しなければなりません。特定事業所加算の算定要件の中でも介護スタッフの個別研修の実施は、介護の現場で直面する様々な状況に迅速かつ適切に対応できるよう、必要な知識と技術を身につけるための重要な項目です。しかし、全てを事業所内で実施することはサービス提供責任者等の業務負担を増加させることになり、モチベーションの低下につながりかねません。

研修でお困りの事業所様は、介護・医療に特化した研修を開始して20年以上の実績を持つ、ツクイスタッフへご相談ください。ツクイスタッフでは、実践的な研修を通じてスタッフの専門性を高めることを目指しています。また、研修プログラムは集合研修やeラーニングサービスなど、多様なニーズに合わせた形式で展開しております。これにより、スタッフは自身のスキルアップを図りながら、より良い介護サービスの提供を目指すことができます。

介護の専門性を高め、質の高いサービスを提供するためには、継続的な学びと成長が必要です。ツクイスタッフの研修プログラムは、そのような成長を支援するための環境を提供しています。詳細については、ツクイスタッフの公式サイトをご覧ください。

>>ツクイスタッフの研修サービスについてはこちら

  • 合同会社カサージュ代表/主任介護支援専門員/
    BCAO認定事業継続管理者/産業ケアマネジャー

    寺岡 純子

    経歴詳細を見る

よく読まれている記事

  • 令和6年度から全介護施設で高齢者虐待防止の推進が義務化!概要や取り組み方について解説

    介護報酬・加算掲載日: 2024.01.15(更新日: 2024.05.23)
    続きを読む
  • 介護現場での緊急時の対応マニュアル!介護職員の心得や緊急時対応の事例も紹介

    スキルアップ掲載日: 2023.10.19(更新日: 2023.12.05)
    続きを読む
  • 介護現場で起こる職員へのハラスメントとは?事例と対策を紹介

    介護施設掲載日: 2023.09.15(更新日: 2023.12.05)
    続きを読む
  • 介護施設の法定研修とは?内容や年間計画の作成方法について解説

    介護報酬・加算掲載日: 2024.05.28(更新日: 2024.05.28)
    続きを読む
  • 介護職における接遇マナーとは?5原則とその重要性について解説

    スキルアップ掲載日: 2023.09.05(更新日: 2023.12.05)
    続きを読む

研修についてのお問い合わせはこちら

お問い合わせ