身体拘束廃止未実施減算とは?その影響や対応策について解説
介護現場において、利用者の尊厳を守るために身体拘束の廃止は重要な課題です。そのため、身体拘束廃止に向けた取り組みが不十分な事業所には、介護報酬が減額される「身体拘束廃止未実施減算」が適用されます。
本コラムでは、この減算制度の詳細や対象サービス、具体的な影響、効果的な対応策について詳しく解説します。身体拘束廃止に向けた取り組みを進めるため、介護現場での実践に役立てていただければ幸いです。
身体拘束廃止未実施減算とは
身体拘束廃止未実施減算とは、介護保険制度において、身体拘束を廃止するための取り組みが不十分な事業所に対して適用される減算制度です。
身体拘束とは、利用者の自由を制限する行為であり、身体拘束の廃止は利用者の尊厳を守るために重要です。しかし、身体拘束を完全に廃止するためには、事業所が適切な取り組みを行わなければ実現しません。この減算制度は、事業所が身体拘束廃止に向けた取り組みを怠った場合に、介護報酬が減額されるものです。
身体拘束には、例えばベッドに縛り付ける、車椅子に固定する、薬物を使用して行動を制限するなどがあります。これらの行為は、利用者の身体的・精神的な健康に悪影響を及ぼす可能性があり、また、利用者の尊厳を損なうことになります。そのため、身体拘束を廃止することは、利用者のQOL(生活の質)を向上させるために不可欠です。
身体拘束廃止未実施減算の対象サービスと減算単位数
身体拘束廃止未実施減算は、平成30年度の介護報酬改定で施設系サービス、居住系サービスの減産率の見直しが行われました。
今回、令和6年度の介護報酬改定では、新たに短期入所系サービスと多機能系サービスに対象が拡大されています。減算の対象となるサービスと減算される単位数は次の通りです。
減算対象サービス | 減算単位数 |
(地域密着型)特別特定施設入居者生活介護 | 所定単位数の100分の10に相当する単位数を減算 |
(地域密着型)介護老人福祉施設 | |
介護老人保健施設 | |
介護医療院 | |
(介護予防)グループホーム | |
短期入所生活介護※ | 所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算 |
短期入所療養介護※ | |
小規模多機能型居宅介護※ | |
看護小規模多機能型居宅介護※ |
※令和7年3月31日までは経過措置あり
身体拘束廃止未実施減算は、事業所における身体拘束の有無ではなく、規定されている措置を講じていない場合に、利用者全員の所定単位数を減算しなければならず注意が必要です。
身体拘束廃止未実施減算の要件
身体拘束廃止未実施減算は、次の①~④の内容のうちいずれか一つでも行っていない場合に適用されます。
①緊急やむを得ない場合に、身体的拘束を行う場合には、その様態及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録する。
「緊急やむを得ない場合」とは、「切迫性」「非代替性」「一次性」の3要件を満たし、かつ、それらの要件の確認等の手続きが美和めて慎重に実施される場合に限られます。
- 切迫性:利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
- 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
- 一次性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
「緊急やむを得ない場合」の3要件を満たすかどうかは、現場の職員の判断に任せるのではなく、身体拘束廃止委員会で組織的に判断する必要があります。
②身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について介護職員その他従業者に周知徹底を図る。
③身体的拘束等の適正化のための指針を整備する
④介護職員その他の従事者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施する。
これらの取り組み全てを行うことで、事業所は身体拘束廃止に向けた努力を示すことができます。ただし、取り組みが形式的にならないよう、実効性のある対策を講じることが重要です。
身体拘束廃止に関する指針の策定は、事業所の基本的な姿勢を示すものであり、全職員に共有することが求められます。
指針には、1.施設における身体的拘束等の適正化に関する基本的な考え方、2.身体的拘束等適正化検討委員会その他の施設内の組織に関する事項、3.身体的拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針、4.施設内で発生した身体的拘束等の報告方法等のための方策に関する基本事項、5.身体的拘束等発生時の対応に関する基本事項、6.入所者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針、7.その他身体的拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針、の7項目を盛り込む必要があります。
また、職員への教育・研修は、身体拘束廃止に向けた取り組みの中で最も重要な要素の一つです。職員が身体拘束の代替手段を理解し、実践するためには、定期的な教育・研修が必要です。研修のテーマには、転倒防止のための環境整備や、利用者の行動を理解するためのコミュニケーション技術なども含まれます。
身体拘束廃止未実施による減算の具体例と影響
特別養護老人ホームで身体拘束廃止未実施が確認された場合、介護報酬の10%が減算され介護度と居室の形態によって、1日あたり59~104単位減算されます。例えば、従来型個室で要介護3の場合は1ヶ月(30日)で1770単位の減算となります。身体拘束廃止未実施減算は全入所者に適用されるため事業所全体で考えると収益に大きな影響を与える可能性があります。
また、減算期間はその事実が生じた月から改善が認められた月までとなります。運営指導の時点で基準を満たしていても、過去に基準を満たしていない時期があったことが判明すれば、その事実を発見した月以降、少なくとも3か月にわたり、利用者全員が減算の対象となります。
身体拘束廃止のための対策を怠ると、大きな収益減になることは否めません。
効果的な対応策と実施例
身体拘束廃止に向けて必要な対応策として、以下のような取り組みが考えられます。
身体拘束適正化検討委員会の定期開催
身体拘束適正化検討委員会は、身体拘束の適正化を図るために定期的に開催しなければなりません。3月に1回以上の開催が必要で、この委員会では、身体拘束の実施状況やその適正性について検討し、改善策を講じます。また、委員会の結果は従業者に周知徹底する必要があります。
身体拘束等の適正化のための指針の整備
身体拘束等の適正化のための指針は、身体拘束を行わずにケアを行うための基本方針や具体的な方法を示すものです。この指針には、身体拘束を行う場合の適用要件や手続き、身体拘束を行わないためのケアの方法などが含まれます。
この指針は、全職員に周知徹底される必要があります。
従業者への研修の実施
従業者に対する研修は、身体拘束の適正化を図るために、年に1回以上開催する必要があります。この研修では、身体拘束の適正化に関する知識や技術を習得し、従業者の資質の向上を図ります。
例えば、転倒防止のための技術や、利用者の行動を理解するためのコミュニケーション技術なども含まれ、従業者が身体拘束の代替手段を理解し実践することで、身体拘束の必要性を減少させることにつながります。
身体拘束廃止研修についてより詳しく知りたい方は、こちらのページもご覧ください。
必要事項の記録
やむを得ず身体拘束を行う場合には、その様態や時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由などを詳細に記録する必要があります。記録は、介護記録として保存し、後日確認できるようにしておくことが重要です。
これらの取り組みを実施することで、身体拘束廃止に向けた効果的な対応が可能となります。
身体拘束廃止は利用者の尊厳を守るために不可欠です。また、身体拘束廃止に向けた取り組みを進めることで、利用者のQOL(生活の質)を向上させることができます。より良い介護サービスを提供するためにも、事業所は積極的に取り組むべきです。
身体拘束廃止未実施減算に関するQ&A
身体拘束廃止未実施減算とは何ですか?
身体拘束廃止未実施減算とは、介護保険制度において、身体拘束を廃止するための取り組みが不十分な事業所に対して適用される減算制度です。
身体拘束を廃止することは利用者の尊厳を守るために重要であり、取り組みが不十分な場合には介護報酬が減額されます。
身体拘束とは具体的にどのような行為を指しますか?
身体拘束には、ベッドに体や手足を縛り付ける、ベッドから降りられないように柵で囲む、車椅子や椅子に固定する(Y字型拘束帯や車いすテーブルを含む)、服を脱いだりおむつを外したりしないようにつなぎの介護服を着せる、薬物を使用して行動を制限する、鍵をかけて自分の意思で部屋から出られないようにするなどがあります。
これらの行為は利用者の自由を制限し、身体的・精神的な健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
身体拘束廃止の実践に効果的な研修はありますか?
成功事例の共有は身体拘束廃止に向けて効果的です。
身体拘束廃止に成功した事業所の具体的な取り組みを学び、自施設での実践にどのように取り入れることができるかを考えてみましょう。また、成功事例を共有することで、職員のモチベーションを高め、身体拘束廃止に向けた取り組みを促進することができます。
基準を満たしていない時期があった場合、その時期から改善されたところまで減算されますか?
基準を満たしていないこと(過去を含む)を発見した時点から、少なくとも3月に渡り減算されます。ただし、過去に遡っての減算はありません。運営指導等により基準を満たしていないことが発見されれば、その後速やかに減算を届け出ます。その次月から減算が開始され、少なくとも3か月後に改善計画を提出し、減算終了を届け出れば、翌月より通常の報酬に戻ります。
まとめ
身体拘束廃止未実施減算は、介護現場において利用者の尊厳を守るために非常に重要な制度です。事業所は、適切な取り組みを行うことでこの減算を回避できます。
具体的には、身体拘束適正化検討委員会の定期開催、身体拘束等の適正化のための指針整備、従業者への研修の実施、必要事項の記録と言った取り組みが求められます。
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