介護者のためのサービス「レスパイトケア」とは?利用の目的や効果、注意点などについて解説
在宅介護では、365日24時間休む暇がないというような言葉をよく耳にします。しかし、無理なく介護を継続するためには介護者の休息は欠かせません。
要介護者の状態や周囲の環境によってはなかなか休むことができない場合もあるかもしれませんが、そんな時に役立つのがレスパイトケアというサービスです。レスパイトケアとは、介護者が一時的に介護から離れることができるように、ケアを介護サービスや施設に任せることです。
レスパイトケアを利用することで、介護者は自分の時間を持つことができ、精神的にも肉体的にもリフレッシュすることができます。上手にレスパイトケアを活用するために、レスパイトケアの目的や効果、利用できるサービスの種類や注意点等を知っておくようにしましょう。
- 「レスパイトケア」は介護する側の負担を軽減するケア
- レスパイトケアの目的・効果
- レスパイトケアとして利用できるサービス
- レスパイトケアを利用する際の注意点
- レスパイトケア利用の活用例
- よくある質問
- まとめ
「レスパイトケア」は介護する側の負担を軽減するケア
レスパイトケアとは、介護者が一時的に介護から離れることができるように、介護サービスの利用などで、要介護者のケアを他の人や施設に任せることです。レスパイトケアは英語で「休息」という意味である「respite」からつけられました。
レスパイトケアは、介護者の心身の健康を保つために重要なサービスとして位置付けられ、介護者はレスパイトケアを利用することで、趣味や旅行など自分のための時間を持つことができるようになり、心身のリフレッシュができます。
また、レスパイトケアは介護者のリフレッシュだけでなく、介護者と介護を受ける側の関係性を良好に保つためにも有効です。身近な家族の介護はお互いにストレスを生じさせることがあります。そのような場合に、介護者と要介護者が一定期間離れることで、お互いの気持ちをリセットすることができます。
そして、要介護者にとってのメリットとして、要介護者がレスパイトケアを利用することで、家族以外の人との関わりや環境に触れることができ、さまざまな刺激や楽しみを持つことが可能になるということが挙げられます。
レスパイトケアの目的・効果
レスパイトケアの目的と効果は以下のように考えられます。
介護者のストレスや疲労を軽減する
介護者は、要介護者の要求や心身の状態に常に気を配らなければなりません。また、趣味や旅行など自分のために時間を使うことが制限されます。これらの状態が長期間続くことは、介護者にとって大きなストレスや疲労の原因となります。
介護者がストレスや疲労を感じると、介護の質や効率が低下するだけでなく、介護者自身の心身の健康にも悪影響を及ぼします。そして、介護者が心身の不調を抱えることにより、要介護者にも影響が出る可能性があります。
このような時にレスパイトケアを利用することで、介護者は介護から一時的に開放され、自分のための時間を持つことができるようになります。レスパイトケアを受けている間、介護者はストレスや疲労を軽減しリラックスする時間を得られます。
また、レスパイトケアを利用することで、介護者は冷静になって自分の気持ちや考えを整理する時間を確保することができ、介護によって詰まっていた気持ちをリセットし、モチベーションや自信の回復につながります。
介護者と要介護者の社会的孤立を防ぐ
介護者は、要介護者の状態や環境によっては長時間外出することが難しくなり、友人や近隣の人などとの交流が困難になる場合があります。これは、介護者にとって社会的孤立の原因となり好ましい状態ではありません。なぜなら、社会的孤立は介護者の心理的な不安や孤独感を増幅させるだけでなく、認知機能の低下やうつ病などのリスクを高めることで、介護者と要介護者が共倒れになるリスクを助長させると考えられるからです。
レスパイトケアを利用することで、介護者は介護から一時的に離れることができ、友人や家族などとの交流や、趣味や学びなどの活動に参加する時間を確保することができます。これにより、介護者は社会的なつながりや支えを得ることができ、孤立感や不安感を軽減する効果を得られます。
また、レスパイトケアを利用して介護以外の活動を行うことで、介護者は自分の価値観や役割を再確認することができ、自己肯定感や自尊感情を高めることにもつながります。
要介護者との関係を良好に保つ
介護者と要介護者は、長期間にわたって密接な関係を保持することになります。これは、介護者と要介護者の間に安心感や信頼感を生むことができると同時に、介護者と要介護者の間に、摩擦や衝突を生じさせる可能性もあります。
介護者と要介護者が、お互いの気持ちや考えを十分に理解し合えない場合や、介護の方法や方向性に対して意見が合わない場合などには、関係性が悪化してしまうことがあります。双方の関係が悪化すると、介護の質や効果が低下するだけでなく、心理的なストレスや不満が増加し、些細なことで喧嘩になってしまうケースも少なくありません。
レスパイトケアを利用することで、介護者と要介護者は一定期間離れ、お互いの気持ちや考えを冷静に見つめ直し、相手に対する感謝や尊敬の気持ちを再認識することができます。また、お互いを思いやり自立性や個性を尊重することができるようになると、関係性のバランスを取り戻すことができます。
レスパイトケアとして利用できるサービス
レスパイトケアとして利用できる介護サービスには次のようなものがあります。
デイサービス
デイサービスとは、介護を受ける側が日帰りで施設に通い、様々なサービスを受けることができるサービスです。デイサービスでは、食事や入浴、機能訓練やレクリエーションなどのサービスが提供されます。
デイサービスを利用することで、要介護者は、新しい人や環境に触れることができ、刺激や楽しみを得られます。また、家族以外の人とのふれあいやデイサービスで行われている機能訓練、レクリエーションなどの活動は、身体機能や認知機能の維持や向上をもたらします。
そして、デイサービスは介護者にとってもメリットがあります。介護者は、デイサービスの利用時間中に、自分の用事や趣味などに時間を使うことができます。また、デイサービスのスタッフとのコミュニケーションなどを通じて、介護に関する情報や相談などを得ることができます。
デイサービスは、介護保険制度のサービスの一つであり、要介護認定を受けた人が利用できます。デイサービスで行われる内容や時間などは、施設によって異なりますので、事前に確認しておくことが大切です。
ショートステイ
ショートステイとは、要介護者が一時的に介護施設に宿泊し、様々なサービスを受けることができるサービスです。ショートステイでは、食事や入浴、機能訓練やレクリエーションなどのサービスが提供されます。ショートステイを利用すると、日常とは異なる環境で過ごすことになり、気分転換やリフレッシュを図ることができます。
また、ショートステイを利用することで、他の利用者やスタッフと会話をしたり、レクリエーションに参加したりすることは、要介護者の身体機能や認知機能の維持や向上につながります。
ショートステイは、介護者にとってもメリットがあります。介護者は、ショートステイの利用期間中に、自分の休息や旅行などに時間を使うことができます。介護者が、夜間のトイレ介助などで十分な睡眠を取れない、泊りがけで外出できないなどの悩みを抱えている場合に最適なサービスです。
また、ショートステイのスタッフとのコミュニケーションなどを通じて、介護に関する情報や相談などを得ることができます。
ショートステイは、介護保険制度のサービスの一つであり、要介護認定を受けて利用することができます。ショートステイの利用には介護サービス費の他に食費や部屋代などが必要となり、その費用は施設によって異なりますので、どのくらいの費用になるかは事前に確認しておくことが大切です。
訪問介護
訪問介護とは、ヘルパーが自宅に訪問して、様々なサービスを提供するサービスです。訪問介護では、主に排泄介助や入浴介助などの身体介護、掃除や買い物などの生活援助のサービスが提供されます。
訪問介護を利用することで、同居家族がいない場合でも、身の回りの必要な支援を受けることができるため自宅で安心して暮らすことができます。また、訪問介護を利用することで、同居していない家族の訪問回数を減らすことができるので、介護負担の軽減につながります。
訪問介護で受けることができるサービスの内容や回数は、介護度や家族の状況によって異なりますので、事前に確認しておく必要があります。
レスパイトケアを利用する際の注意点
レスパイトケアは介護者の休息のために必要不可欠なサービスです。しかし、利用する際には以下のようなことに注意をしてください。
レスパイトケアの目的を明確にする
レスパイトケアは、介護者が介護から一時的に離れることができるようにするサービスです。レスパイトケアは、介護者の心身の健康を保つために必要なサービスですが、介護者が介護から完全に離れることを目的とするものではありません。
レスパイトケアを利用することで、介護者は自分の時間を持つことができますが、要介護者の状態やニーズに応じて対応が必要になることもあると認識しておくことが大切です。
環境変化による身体・精神状態の変化に注意する
レスパイトケアを利用することで、要介護者は、普段とは違う介護スタッフや環境の中で過ごすことになり刺激や楽しみを得られます。しかしそれと同時に、日常とは異なる環境におかれることはストレスや不安の原因となる可能性もあり、環境の変化によって身体・精神状態が悪くなってしまうことがあります。
例えば、食事や入浴、睡眠などの生活リズムが変わることで、身体的な不調や不快感をきたしたり、介護スタッフや他の利用者などとのコミュニケーションがうまくいかないと、精神的なストレスや不安感、居心地の悪さを感じることになります。
このような身体・精神状態の変化は、その後の介護者との関係性に影響を及ぼす可能性があります。また、介護者は、要介護者がレスパイトケアを受けている間の状態や様子が気になり、罪悪感や不安感を抱くことがあります。
このような悪い影響を最小限にするためには、レスパイトケアを利用する前に、要介護者にその内容や目的を丁寧に説明し、同意を得るようにすること、サービスの種類や期間、頻度を調整することが重要です。さらに、レスパイトケアを利用した後には、要介護者に感想や反応を聞くなどして、精神的なフォローをしておくことが大切です。
どのようなレスパイトケアを利用するのが良いのか迷う場合は、ケアマネジャーなどの専門家にアドバイスを求めると良いでしょう。
レスパイトケア利用の活用例
レスパイトケアは、介護者の時間を取るために利用されるケアです。ここでは、具体的な事例をご紹介します。
事例1:デイサービスを利用して、介護者が自分の時間を持つ
認知症のAさんの妻は、週1回自宅で書道教室を開いていました。それまでは、自宅でAさんの様子を伺いながら教室で生徒さんに教えることはできていましたが、Aさんの認知症の進行に伴い、1人で外出しようとするなどの行為が見られるようになり、度々教室を中断しないといけない状況になりました。
Aさんの妻はまだ書道教室を続けたいという意向があり、何か良い方法がないかとケアマネジャーに相談したところ、書道教室の日にデイサービスに行ってはどうかという提案を受けました。
教室が始まる前に迎えに来てもらい、自宅に戻ってくるのは教室が終わった後ということで、Aさんの妻はこれまで以上に自分の仕事に向き合えるようになり、とても喜んでいます。
また、Aさん自身もデイサービスで色々な人と会話をしたりレクリエーションに参加したりすることで、以前より表情も明るくなり、デイサービスに行くことを楽しみにしています。
事例2:ショートステイを利用して、介護者が旅行に行く
Bさんは、自分で身の回りのことをすることが困難な状態です。Bさんは娘夫婦とその子どもと同居しているため、普段は、ヘルパーさんやデイサービスを利用しながら、自宅での身の回りのことはBさんの娘が介助しています。そのため、Bさんの娘の日常生活はBさんの介護が中心になっており、Bさんの介護が始まってからというものは、家族で外出したり、旅行をしたりが全くできなくなってしまいました。
Bさんの娘は、小学生の自分の子どもに思い出を作ってあげられないことを心苦しく思っており、子どもの夏休みなどには、介護が始まる前と同様に旅行に連れて行ってあげたいと希望を抱いていました。しかしBさんは週3回人工透析を受けており、ショートステイの利用は困難だろうと諦めていました。
そのことを知ったケアマネジャーは、透析先の病院のソーシャルワーカーに相談し、受け入れ可能なショートステイ先の紹介を受けることができました。ケアマネジャーとソーシャルワーカーから施設に情報提供を行い、初めて4日間ショートステイを利用することができました。
その4日間Bさんは問題なく過ごせたことで、施設から定期的な利用を提案してもらい、Bさんの娘は子供の長期休暇に合わせて家族旅行に行くことができるようになりました。
事例3:ショートステイを利用して、介護者がゆっくり休む
認知症のCさんは、夜中から朝方にかけて頻回にトイレに行き、その度に大きな音を立ててドアの開け閉めをするため、Cさんの娘は不眠に悩まされていました。
不眠や過労が重なったCさんの娘は体調がすぐれない日が続き、イライラすることが増えたり、血圧が上昇するなどもあり、「在宅生活は限界なのでは」という思いと、「本人が過ごした自宅で最期まで過ごさせてあげたい」という気持ちの間で揺れ動いていました。
これまでの状態から徐々に悪化していることに気付いたCさんの娘は「このままでは、自分にもCさんにもにも良くない状況だ」と判断し、Cさんにショートステイの利用を強く勧め、1週間のショートステイを利用することになりました。
ショートステイの初日はCさんのことが気になって施設に電話をかけて様子を伺うと、施設でレクリエーションにも参加し、楽しそうに過ごしている様子を聞いて安心しました。また、Cさんの娘もショートステイの利用中は久しぶりにゆっくりと休め、体調も回復することができました。
それまでは、自分が頑張らないといけないとの使命感を抱いていたCさんの娘でしたが、これを機に休息の必要性を感じ、それ以降も時々ショートステイを利用して、介護から離れてゆっくり休める機会を持つようになりました。
よくある質問
レスパイトケアについてのよくある質問と回答をご紹介いたします。
レスパイトケアを利用するには、どうすればいいですか?
レスパイトケアを利用するには、以下の手順を踏む必要があります。
- 要支援・要介護認定を受ける
要支援・要介護認定とは、介護が必要な人の身体・精神状態に応じて、介護の必要度を判定するものです。要支援・要介護認定は、市区町村の窓口に申請します。 - ケアプランの作成を依頼する
ケアプランとは、要介護状態やニーズに合わせて、利用できるサービスの種類や内容、期間や頻度などを決める計画です。ケアプランは、ケアマネジャーに依頼することで作成してもらうことができます。 - レスパイトケアとして利用できるサービスを選択する
レスパイトケアとして利用できるサービスには、デイサービス・ショートステイ・訪問介護などがあります。これらのサービスは、介護保険制度のサービスの一つとして、要介護認定を受けた人が利用できます。サービスの種類や内容、料金などは、事業所や施設によって異なりますので、事前に確認しておくことが大切です。 - 事業所や施設と契約をする
利用開始日や利用時間などの詳細が決まれば、事業所に利用の申し込みをします。事業所への申し込みは、ケアマネジャーが行います。契約の際には、介護保険証や負担割合証などの書類が必要です。
レスパイトケアを利用すると、介護を受ける側の状態が悪くなることはありませんか?
レスパイトケアを利用することで介護を受ける側の状態が悪くなるとは、一概には言えません。
レスパイトケアを利用することで、新しい人や環境に触れることができ、刺激や楽しみを得ることができます。それは、要介護者の身体機能や認知機能の維持や向上に寄与します。
しかし、同時に、日常とは異なる環境に適応することになり、介護を受ける側にとって、ストレスや不安の原因となる可能性もあります。例えば、食事や入浴、睡眠などの生活リズムが変わることで、身体的な不調や不快感を抱くことがあります。また、施設やスタッフ、他の利用者などとのコミュニケーションや関係性がうまくいかないことで、精神的なストレスや不安感を感じることがあります。
レスパイトケアを利用する際には、要介護者の状態やニーズに合わせて、サービスの種類や期間、頻度が適切になるように調整することが大切です。
レスパイトケアとしてショートステイを利用する際の料金が安くなる方法はありますか?
ショートステイを利用する際の料金は、介護保険サービス費、居住費(滞在費)、食費の3つで構成されます。このうち、居住費と食費は施設で設定されており、原則として全額自己負担となりますが、低所得の方は「介護保険負担限度額認定証」を申請することで、負担額の上限が決められます。「介護保険負担限度額認定証」に記載された負担の上限額を超えた部分は、介護保険から補足給付されます。
介護保険負担限度額の認定は、ショートステイの利用の前に申請しておく必要があります。また、所得や資産の条件があり、確認のため申請時に必要な書類がありますので、詳しくは市区町村の窓口で確認するようにしてください。
また、ショートステイの料金は施設や地域によって異なりますので、利用する前に必ず確認するようにしましょう。
まとめ
このコラムでは、介護者のためのサービス「レスパイトケア」について、その目的や効果、利用できるサービスの種類や注意点などについて解説しました。
レスパイトケアにより、介護者が介護から一時的に離れ、自分の時間を持ち精神的にも肉体的にもリフレッシュすることができます。また、レスパイトケアを利用することで、介護者と要介護者との関係性を良好に保つことができます。
レスパイトケアを利用するには、介護保険制度の要支援・要介護認定を受けることなどの条件がありますが、無理なく在宅介護を送るためにレスパイトケアを上手に利用しましょう。