介護施設での虐待が増加傾向に?虐待の種類や事例などを紹介
介護施設での高齢者虐待が増加していることをご存じでしょうか?令和2年度には、職員による虐待が739件、家族などの養護者による虐待が16,426件とどちらも過去最高を記録しています。令和3年度の介護報酬改定では、高齢者虐待防止の推進が義務付けられました。3年間の経過措置が設けられていますが、運営基準の変更も伴う大きな取り組みです。見方を変えると、行政としてそれだけ力を入れていると捉えることもできます。既に様々な取り組みをおこなっている事業者様も多いでしょう。
ここでは、高齢者虐待の種類や現状、原因、対策案をご紹介します。今後の取り組みの参考になれば幸いです。
介護施設での虐待の種類について
厚生労働省の「Ⅰ 高齢者虐待防止の基本」によれば、虐待とは「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、健康、生活が損なわれるような状態に置かれること」と定義されています。具体的には、次の5つに分類されます。
厚生労働省「Ⅰ 高齢者虐待防止の基本」
- 身体的虐待
- 介護放棄(ネグレクト)
- 心理的虐待
- 性的虐待
- 経済的虐待
身体的虐待
暴力行為、何かの行為を強制すること、乱暴に扱うこと、緊急やむをえない場合を除く身体拘束など
【具体的な例】
・平手打ちをする、つねる、殴る、蹴る、無理矢理食事を口に入れる、やけど・打撲させる
・ベッドに縛り付けたり、意図的に薬を過剰に服用させたりして、身体拘束、抑制をする(緊急やむをえない場合を除く) など
介護放棄(ネグレクト)
意図的であるか、結果的であるかを問わず、介護や生活の世話の提供を放棄または放任し、高齢者の生活環境や、高齢者自身の身体・精神的状態を悪化させていること。
【具体的な例】
・入浴しておらず異臭がする、髪が伸び放題、皮膚が汚れている
・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続く、脱水症状や栄養失調の状態にある
・室内にごみを放置するなど、劣悪な住環境の中で生活させる
・高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限する、使わせない
・他者による高齢者虐待と同様の行為を放置すること など
心理的虐待
脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせなどによって精神的、情緒的苦痛を与えること。
【具体的な例】
・排泄の失敗を馬鹿にする、それを人前で話すなどにより高齢者に恥をかかせる
・怒鳴る、ののしる、悪口を言う
・侮辱を込めて、子供のように扱う
・高齢者が話しかけていることを意図的に無視する など
性的虐待
本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為またはその強要。
【具体的な例】
・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する
・キス、性器への接触、セックスを強要する など
経済的虐待
本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由無く制限すること。
【具体的な例】
・日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない
・本人の自宅などを本人に無断で売却する
・年金や預貯金を本人の意思・利益に反して使用する など
(参考)「家庭内における高齢者虐待に関する調査」(平成 15 年度)、財団法人医療経済研究機構をもとに、編集者にて一部加筆・修正
言葉の拘束に注意
「スピーチロック」という言葉を耳にしたことがある方が多いと思います。言葉によって身体的・精神的な行動を抑制することを指します。例えば、下肢筋力が低下して転倒リスクが高いご利用者様が立ち上がった際に、「立たないでください」「座っててください」と声かけすることも該当するリスクがあります。例え言葉づかいが丁寧であったとしても、本人の意思や行動を抑制する声かけは、スピーチロックと捉えられ兼ねません。
言い換え例としては、「ちょっと待ってて下さい」という言葉は「少々お待ちいただけますか?」と問いかけたり、「〇〇なので△△くらい」と理由や目安も併せて伝えたりする工夫が挙げられます。忙しい現場の中で、つい使ってしまう言葉の中に、スピーチロックに該当しそうな声かけが潜んでいないかを定期的に点検したいものです。
高齢者虐待は増加傾向にある
厚生労働省の調査によると、養介護従事者等(施設や居宅サービス事業等の業務に従事する者)による虐待判断件数は令和2年度に減少したものの、毎年増加を続け、令和3年度には過去最高となりました。令和2年度は、コロナ禍で施設・事業所への立ち入りを制限する事業者が増え、外部の目が減ったことで相談・判断件数がともに減ったと考えられます。そのように考えると、虐待自体が増えたというよりも虐待に関する知識が広まったことで発覚する頻度が上がったと捉えることもできそうです。
虐待内容の内訳
養介護施設従事者等による虐待内容の割合は以下のようになっています。
身体的虐待:703 人(51.5%)
心理的虐待:521 人(38.1%)
介護等放棄:327 人(23.9%)
性的虐待 :48 人(3.5%)
経済的虐待:54 人(4.0%)
参考資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001029243.pdf
※1件の虐待事例に対して被虐待高齢者(被害にあった高齢者)が複数いた場合もあり、総数は1,366人
※複数の種類に該当する事例があるため、割合の合計は100%を越えています。
※虐待の内容を特定できなかった事例41件を除いて集計
介護施設の内訳
虐待が発生した介護施設を多い順にご紹介します。
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設): 228 件(30.9%)
有料老人ホーム:218 件(29.5%)
認知症対応型共同生活介護(グループホーム):100件(13.5%)
参考資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001029243.pdf
ちなみに、被虐待高齢者を要介護度別でみると、要介護度4(402人/29.4%)、要介護度5(311人/22.8%)、要介護度3(283人/20.7%)です。認知症日常生活自立度では、自立度Ⅲ(411人/30.1%)、自立度Ⅱ(206人/15.1%)、自立度Ⅳ(174人/12.7%)の順です。要介護度や認知症の症状と虐待発生に関わりがあることが見て取れます。特別養護老人ホームや有料老人ホーム、グループホームの利用対象となる高齢者とも合致します。寝たきり・話せない高齢者よりも、ある程度動ける・話せる高齢者の方が虐待被害にあいやすいようです。
介護施設で高齢者虐待が起こる理由
では、なぜ介護施設で高齢者虐待が起こるのでしょうか。虐待と判断された事例の中で、都道府県が直接把握できたものの要因の割合は以下の通りです。
「教育・知識・介護技術等に関する問題」: 415 件(56.2%)
「職員のストレスや感情コントロールの問題」:169 件(22.9%)
「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」が 159 件(21.5%)
「倫理観や理念の欠如」:94件(12.7%)
「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」: 71 件(9.6%)
参考資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001029243.pdf
複数該当する事例があるため、合計は100%を越える。
特定の要因と言うよりは、「複数の要因が複雑に絡まって起きている」と考えた方が実感に近いのではないでしょうか。しかし、要因の過半数が「教育・知識・介護技術等に関する問題」となっている点は着目したいところです。「何が虐待かわからない」職員は、意図せず虐待行為を行うかもしれません。「認知症高齢者への接し方がわからない」職員は、認知症高齢者の対応に多大なストレスを感じるはずです。また、「正しい介護技術を知らない」職員は、高齢者の移乗介助を無理におこなってケガをさせるリスクが高まります。現代では、感情コントロールやストレス対処に関する情報も豊富にあり、知識として習得したいものの一つに挙げられます。また、組織風土の醸成の仕方や倫理観の向上、理念の徹底といったマネジメントスキルも教育や知識と密接に関わる項目と言えます。虐待防止には、現場の職員の教育はもちろん、リーダー・マネジメント層も一丸となって学び、取り組む必要性が感じられます
介護施設での高齢者虐待防止への取り組み
これまでのように高齢者への虐待件数は増加傾向にあります。その中で、各事業者では防止に向けた取り組みを進めています。代表的な取り組みの例を挙げてみましょう。
- 高齢者権利擁護や人権に関する研修
- 虐待防止に関する研修や指導
- 高齢者虐待防止マニュアル
- 職員のストレス軽減
- 職場環境の改善
- 発生時の相談、通報の手順作成
より具体的な例を3つご紹介します。研修に関して、ある事業者では「スピーチロックに該当しそうな言葉」と「言い換え例」を職員に考えさせているそうです。管理者やリーダーが「こういう言い方は良くないから言い換えましょう」と指導することも大切ですが、職員自身に考えさせることも有効です。
また、職場環境の改善やストレス軽減の一環として、ケアサポーター(介護補助員)を導入する事業者も増えています。アクティブシニア世代など無資格の職員には、リネン交換やお茶・食事の準備を担当してもらい、有資格の職員は専門性を求められる業務に集中できる環境を整える取り組みです。業務量が減ることで職員の負荷やストレスの軽減が期待できます。
最後に、日常的に何か問題が起きた際に、特定の個人に責任を求めるのではなく、問題そのものに焦点を当てる組織文化の醸成も職場環境やストレス軽減に有効と言えるでしょう。
まとめ
近年の人材難に加えて、2019年からのコロナ禍は職員の心身の負担に大きな影響を与えました。また、立ち入り制限によって外部の目が届きにくくなることで、虐待発生リスクは増大していると言えるでしょう。そのような中だからこそ、改めて職員への教育の重要性は高まっています。一方で、職員を集めるためのシフト調整や講師の手配、研修の準備なども管理者・経営者にとっても少なくない負担です。負担を極力高めず、適切な教育機会を提供するために、近年eラーニングを導入する事業者が増えています。E care labo(イーケアラボ)では、介護の法定研修をはじめ50テーマ1,300本以上(2023年1月現在)の動画が見放題です。また、集合研修やビデオ会議システムを利用したオンライン研修もワンストップでご支援します。基礎知識はeラーニングで習得し、グループワークなど実践力は集合研修やオンライン研修で強化するなど使い分けることも可能です。ご興味お持ちいただけましたら是非一度お問い合わせください。
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