居宅介護支援事業所のBCP策定に関するポイントを徹底解説!
介護報酬改定に伴い、居宅介護支援事業所での業務継続計画が義務付けられました。
感染症や自然災害は利用者の安全と在宅生活の継続を脅かすリスクがあります。このような不測の事態が起こった時の対応をまとめたものを、業務継続計画と言います。
今回は、居宅介護支援事業所における感染症と自然災害発生時の業務継続計画のポイントをわかりやすく解説します。適切な対策を講じておくことで、困難な状況に陥った時にもしっかりと立ち向かえるように準備をしておきましょう。
介護事業所でBCP策定が義務化
令和3年度の介護報酬改定により、居宅介護支援事業所でも業務継続計画の策定が義務付けられました。3年間は努力義務とされましたが、その努力義務の期間がもうすぐ終了します。
業務継続計画を策定し、研修や訓練を実施するためには、できるだけ早く具体的な計画を策定しなければなりません。
ケアマネジャーは介護を必要とする高齢者が在宅生活を送る上で必要不可欠な存在であり、居宅介護支援事業所における業務継続計画は、利用者の安全と在宅生活の継続に直結するものです。利用者や家族、職員の安心と安全を確保するために、まだ策定ができていない事業所はすぐにでも行動に移しましょう。
本記事では、居宅介護支援事業所のBCPにスポットをあてて解説していきます。介護事業所全般や各施設形態におけるBCP策定の概要・メリットなどの解説は、以下の記事で確認してください。
- 介護事業所のBCP(事業継続計画)策定が義務化!いつから?内容は?ポイントを徹底解説
- 通所系サービスのBCP策定に関するポイントを徹底解説!
- 入所系サービスのBCP策定に関するポイントを徹底解説!
- 訪問介護サービスのBCP策定に関するポイントを徹底解説!
居宅介護支援事業所におけるBCP対策のポイント
居宅介護支援事業所における業務継続計画は、感染症や自然災害などの緊急事態が起こった時でも、利用者の状況を把握できる体制を構築し、必要な連絡調整を行うことで在宅生活が継続出来るようにするために重要です。
業務継続計画は必ずしも感染症と自然災害に分けて作成する必要はありません。しかし、業務継続計画の策定に慣れていない人は、最初は別々に分けて考えた方がわかりやすいでしょう。
ここでは、感染症と自然災害のふたつの側面から、居宅介護支援事業所における業務継続計画策定のポイントを解説します。緊急事態に対応するには、事前の対策と適切な対応が不可欠です。ケアマネジャーとしての責任を果たせるように事前準備を万全にしておきましょう。
感染症に関するBCP対策
居宅介護支援事業所における感染症発生時の業務継続計画は、利用者や職員の安全を最優先に考え、スムーズな支援を継続するために必要なことを検討します。以下で、居宅介護支援事業所における感染症発生時の業務継続計画のポイントを詳しく解説します。
1.感染拡大防止に向けた取り組み
- 基礎疾患を持つ高齢者等は、感染症に罹患しやすく、重症化しやすいため、ケアマネジャーが感染を広げないように注意が必要です。利用者宅への訪問時や事業所内での、感染リスクの評価と感染予防対策の実施を確認しましょう。
- 手洗いや咳エチケット、適切なマスクの着用、消毒について等の感染予防策を職員が徹底します。
- 感染症はウイルスや細菌の種類によって対応方法が異なります。感染症に関する最新情報やガイドラインに目を通し、必要に応じて対策を見直します。専門機関や地域の保健所との連携を図り、感染拡大予防に向けた情報共有を行います。
2.職員の教育と情報共有
- 職員に対して感染症の正しい知識と手順を提供し、定期的な研修を実施します。感染症の症状や感染拡大リスクの把握、適切な対応策の確認を行いましょう。
- 職員間の情報共有を円滑に行うため、連絡手段や連絡体制を整備しておきます。迅速なコミュニケーションと適切な情報伝達が行われるように、必要に応じて事業所内の連絡ツールを検討しましょう。
3.テレワークやICT機器の導入
- 感染症の蔓延期は、人と接することで感染のリスクが高まります。職場で職員が接触することによる感染リスクを低減するために、テレワークの導入やオンラインでのケアプランの調整や相談ができる体制を検討しましょう。
- 在宅勤務など職員の柔軟な勤務形態を取り入れるだけでなく、サービス担当者会議や利用者、サービス事業所との面談等がリモートサービスで実施できる体制を検討し、感染リスクを低減しながら支援を継続できるようにしましょう。
- テレワークやリモートワークの適切な実施ができるように、必要な機器やツールを準備しておきます。機器やツールの使用方法については、マニュアルの作成や定期的な研修等を実施することによりスムーズな運用ができるようにしておきましょう。
4.外部との連携と情報共有
- 地域の保健所や医療機関との連携を強化することで感染情報や対策の情報交換を行い、事業所の職員に感染者が発生した時の対応を確認しておきましょう。
- 利用者やその家族、地域の関係機関との円滑な連携を図り、情報共有を行います。厚労省や行政等のホームページ、発信などを定期的にチェックし、感染症に関する重要な情報や指示を取得・共有することで、適切な対応を実施します。
5.事業所内の感染対策
- 事業所内での感染対策の体制を整えます。事業所への訪問の制限を行い、不要な接触がないようにします。また、健康管理、適切な換気・消毒、掃除など、感染予防のための対策を実施します。
- マスクや使い捨ての手袋、ガウン、フェイスシールドなど必要な個人防護具(PPE)、消毒薬の備蓄や使用方法のシミュレーションなど、感染予防のための具体的な対策を実施します。
以上が、感染症発生時の業務継続計画のポイントです。
感染症の発生に備え、適切な対策と迅速な対応を行うには、事前準備と計画の策定、研修・訓練(シミュレーション)が不可欠です。また、定期的に見直すことで、継続的な改善を行い、対策を強化しておくことが重要です。
地域で感染症の流行が見られる場合、利用者に対しては以下のような対応が必要になります。
- 居宅サービス事業所と連携をとりながら、利用者の状況確認を行います。
- 利用者の健康状態を定期的に確認し、感染リスクの高い利用者に対しては適切なケアプランになるように見直しが必要です。
- 利用者や家族、サービス事業所とのコミュニケーションを密にし、健康状態の変化やリスクの回避に対応する体制を整えます。
- 利用者や介護者が感染した時に、どのように在宅生活を支えていくかを利用者、家族、サービス事業者と検討しておきます。
- 通所サービスや短期入所サービスなどで感染者が発生すると、サービスを休止することがあります。このような場合、利用者への影響や代替サービスを検討する必要があり、本人、家族、サービス事業者との連絡調整が必要になります。
- 利用者に感染が疑われるような症状が生じた際に、適切な行動や通院ができるよう、関係機関との連携など、必要に応じて対応を実施します。
自然災害に関するBCP対策
自然災害は、地域において多くの被災者を出す可能性があります。そのため、ケアマネジャーは自分の身の安全を確保しながら、利用者の安否確認や避難の進め方などを検討しなければなりません。
しかし、在宅で生活している利用者の心身の状況や家族の状況はそれぞれに異なっています。そのため、ケアマネジャーがひとりひとりの確認を行うことは容易ではなく、事前に具体的な方法を居宅介護支援事業所の業務継続計画に含めて、利用者の在宅生活継続のための準備をしておく必要があります。
自然災害のBCPの策定は、厚生労働省老健局が作成した「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」にある自然災害(地震・水害等)BCPのフローチャートに上がっている内容を参考に、対応策を検討すると良いでしょう。また、居宅介護支援においては、以下のような内容を具体的にしておくことが求められます。
1.緊急連絡体制の確立
- 災害時において、職員間の連絡や情報共有を円滑に行うため、緊急連絡体制を確立しておきます。連絡体制や職員間の連絡頻度を明確化し、円滑なコミュニケーションと協力体制が取れるようにしておきます。
- 災害発生時に、職員の自宅が被災する、交通機関が麻痺し通勤できないなど、ケアマネジャーが業務を行えない状況に陥ることがあります。利用者への支援が実施されないことを避けるために、事業所に来れない場合や連絡が取れない場合の対応を決めておくことも重要です。
2.バックアップ体制の確立
- 利用者のケアプランや医療情報、その他の情報を介護ソフト等のシステムで管理している場合は、バックアップを定期的に取得・更新しましょう。データの保管場所やアクセス方法を確認し、停電等の際にはポータブル電源などを用いて、災害時にも情報にアクセスできるようにします。
3.対応拠点の確保
- 居宅介護支援事業所が被災し、その場での事業の継続が困難な場合は、代替の拠点の確保が必要になります。法人内の他の施設・事業所との連携を図ったり、ケアマネジャーが在宅勤務を行ったりすることで、利用者へのサービスが中断されないようにしなければなりません。
- 小規模の居宅介護支援事業所などでは、自拠点の事業継続が困難と判断される場合に備えて、他の居宅介護支援事業所や居宅サービス事業所、地域の関係機関などと事前に協議・検討をしておく必要があります。
- 利用者が避難所に避難した場合でも、利用者の状況に応じて必要な介護サービスが提供できるように、サービス事業所との連絡・調整を行いましょう。
4.災害時の対応訓練
- 職員が災害時の対応を適切に行えるように、災害発生時の対応訓練を実施します。避難訓練や安否確認訓練、応急手当の訓練、連携先や居宅サービス事業所等との共同訓練等を実施し、ケアマネジャーとして災害への対応力を高めましょう。
5.BCPの検証・見直し
- 作成したBCPを職員や利用者、家族と共有し、内容を理解してもらっておく必要があります。
- BCPに沿って訓練を実施し、課題の洗い出しを行います。抽出された課題に対して対策を検討し、定期的に見直しを繰り返すことで、実効性のあるBCPになるようにしましょう。
居宅介護支援サービスは、基本的に事業所と利用者の居住している場所が離れています。そのため、利用者の安否確認が必要となり、場合によっては安全を確保するために避難を支援することも起こり得ます。利用者の安全な在宅生活の継続のため、以下のようなことを検討しておきます。
1.利用者の安否確認体制の整備
- 利用者への安否確認を行うための体制を整えます。独居や高齢者世帯、医療的ケアを実施しているなど、災害時に優先的に安否確認が必要な利用者をあらかじめ抽出しておきます。
- 事前に利用者やその家族との災害発生の安否確認の方法を相談し、合意を得ておきます。安否確認の方法は電話やメールなどの方法が考えられますが、地震などでは電話が通じなくなることがあるため、代替策も検討しておく必要があります。
- 上記については利用者台帳等に情報を記載し、職員間で共有できるようにしておきます。また、定期的に内容を精査し、情報を更新しておきましょう。
2.避難計画の策定
- 利用者が避難をする場合に備え、避難所や避難先の情報を事前に確認しておきます。利用者と合意を得た上で、利用者の状況や避難場所までの移動手段など、個別の状況に応じた避難計画を策定します。
- 避難先において介護サービスの提供が必要な場合は、居宅サービス事業所や関係機関等と連携しながら、必要なサービスが提供されるように調整が必要です。
3.代替サービスの検討
- 利用者の生活状況の変化や居宅サービス事業所等の事業の休止などがある場合、必要に応じて他の事業所への変更や、通所サービスから訪問サービスへのプラン変更が必要になります。そのためには、早期に利用者の状況把握と居宅サービスの実施状況の情報収集が必要です。
以上のようなことを居宅介護支援事業所の業務継続計画に含めることで、利用者の在宅生活を継続する支援が図れます。
自然災害はいつ起こるかわかりません。早急に業務継続計画の策定を進めて、自然災害に備えましょう。
居宅介護支援事業所からよくある質問
BCPとは何ですか?居宅介護支援事業所においてなぜ必要なのですか?
BCPとはBusiness Continuity Planの略称で業務計画等と訳されます。居宅介護支援事業所で感染症の発生や自然災害の被災など不測の事態が生じた時は、通常通りの業務を実施することが困難になると考えられます。
しかし、ケアマネジャーはそのような緊急事態でも、利用者の在宅生活の継続を支援する必要があります。そのため、必要な業務を中断することなく実施するための方法や対策を事前に検討し、その具体的な手順を示した計画書を作成しておく必要があります。
被害想定の仕方がわかりません。
被害想定は、大地震が起こった時の建物の倒壊リスクやライフラインの停止の状況等をまとめたものです。
事業所の所在地の市町村が、災害対策のために被害想定を設定している場合がありますので、ホームページで確認してみてください。
居宅介護支援事業所で感染症対策に特化したBCPを作る場合、具体的にどのような要素を入れるのかが参考になるものはありますか?
厚生労働省老健局が令和2年12月に発出したガイドラインを参考にしながら、居宅介護支援の業務を継続するために必要な項目を記載すると良いでしょう。
各事業所で不要と思われる項目は記載する必要はありませんが、居宅介護支援では職員が感染した場合の対応だけでなく、利用者や同居家族に感染の疑いが生じた場合にはサービス事業所へ報告し、濃厚接触者の特定を行ってもらう必要があります。
その際、サービス事業者が利用者へのサービスの提供を休止する場合があり、在宅生活の継続に支障をきたさないように代替策を検討する必要があります。
参考:厚労省発行新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドラインをもとに筆者再編
リモートワークやオンライン対応はBCPにどのように組み込まれるべきですか?
居宅介護支援では、リモートワークやオンラインでの体制が整っていれば、事業所での業務が困難になった場合に、事務所以外の場所で必要な業務の継続が可能になる場合もあります。
ただし、使用する機器の購入やネットワーク環境・データ保管場所等の環境整備、利用方法の教育等、計画的な準備が必要になり、コストもかかります。計画的に準備を進められるように、いつ、どのような準備をするのか、予算の計上を検討しておきましょう。
BCP策定において、スタッフや利用者の意見やフィードバックはどのように反映すべきですか?
BCPは作って終わりではなく、研修や訓練(シミュレーション)を通して策定したBCPが有効であるかを検証することが重要です。
課題や利用者・家族の意見を経営者やBCP策定者にフィードバックし、現場の意見を反映するよう定期的にBCPの見直しを行うようにしましょう。
BCPの実施時に予算や予備費用は必要ですか?必要な場合、どのように予算を計画すべきですか?
耐震や水害に対する対策のため、事業所の設備の整備、個人防護具(PPE)や衛生用品等の備蓄、ポータブル電源の確保など、環境整備や備品の購入が必要になります。
これらは、なるべく早急に整備することが必要ですが、重要度の高いものから計画的に予算を立てて準備を進めましょう。
居宅介護支援事業所のBCP策定において、他の事業所や関係機関との連携は重要ですか?具体的な連携方法はありますか?
自然災害や感染症等により、居宅介護支援事業所の業務の継続が困難になることが想定されます。
長期間にわたって休止が必要になる場合は、利用者の在宅生活の継続のため、他の事業所や関係機関に協力を仰ぎ、利用者を支援する必要があります。
他の事業所と連携する場合は、個人情報の取り扱いや業務委託の内容など詳細を決め、契約を締結することでトラブルを未然に防げるようにしなければなりません。
BCPの策定後、定期的な評価や見直しは必要ですか?どのような頻度で行うべきですか?
BCPを策定した後は、最新の動向を把握し、研修を通じて得られた疑問点や改善が必要な点、訓練の実施により明らかになった課題とその解決方法・対策等をBCPに反映させていきます。
このBCPの見直しは、訓練の実施に合わせて年1回は行いましょう。また、訓練等で明らかになった課題やBCPの見直した点については、管理者やBCP推進者より経営者・理事会に報告し、担当者だけでなく法人全体で取り組むことが重要です。
BCPの策定後、実際の災害や感染症発生時に実施するための演習・訓練は必要ですか?また、それにはどのような方法が効果的ですか?
BCPで策定した対策を実施し、業務継続力を向上するためには、すべての職員が確実に対応できるように日ごろからトレーニングをしておく必要があります。
BCPの訓練は以下のようなものが挙げられます。
- BCPの手順や避難場所への移動、備蓄や資源の確認をするウォークスルー
- 対策本部の設置
- 安否確認、参集訓練、初動訓練
- 個人防護具(PPE)の着用
など
これらの重要な項目を繰り返し反復し対応方法を身に着ける実動訓練、そして提示された条件へのイメージトレーニングを行う机上訓練等、いろいろな方法があります。参加者や組織の成熟度に応じて計画的に実施するようにしましょう。
令和3年度の介護報酬改定において、居宅介護支援事業所での訓練は年1回以上行うことが義務付けられました。この訓練では、業務継続計画に基づき事業所内の役割分担の確認、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等を行います。
ただし、感染症BCPの研修・訓練については、感染症の予防及びまん延の防止のための研修・訓練と一体的に実施しても差し支えないとされています。
まとめ
居宅介護支援事業所における業務継続計画の策定は、感染症や自然災害等の緊急事態が発生した際でも、利用者の在宅生活を継続するために不可欠です。
感染症に関する対策としては、感染拡大防止策の実施、事業所の職員の教育と情報共有、テレワークやICT機器の導入、利用者の状況確認やケアプランの見直しなどが重要です。
自然災害に関しては、利用者の安否確認体制の整備、避難計画の策定、緊急連絡体制の確立、バックアップ体制の確保などが必要です。また、定期的な災害時の対応訓練、業務継続計画の検証・見直しを行う必要があります。
これらのポイントを考慮しながら、居宅介護支援事業所の業務継続計画を策定し、利用者の在宅生活の継続と職員の安全確保の体制を整えましょう。
ツクイスタッフ研修サービスでは、居宅介護支援事業所に合わせたBCP関連の研修が可能です。集合研修やオンライン研修等、貴社の研修計画に合わせてご提案いたします。
>>ツクイスタッフの「BCP策定研修」についてはこちら