介護現場で増えるカスタマーハラスメント 実態と対応策を解説

介護ペディア,介護施設掲載日: 2026.04.27(更新日: 2026.04.27)
男性に強く叱責される女性

近年、介護現場では「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれる問題が深刻化しています。利用者や家族からの暴言・暴力・理不尽な要求によって、介護職員が心身に大きなダメージを受け、離職につながるケースも少なくありません。

本稿では、介護現場におけるカスハラの現状と実態から、発生要因、具体的な対応策、再発防止に向けた組織的な取り組みなどについて解説します。管理職として現場を守り、職員が安心して働き続けられる環境をつくるためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。

介護現場におけるカスハラの実態

介護現場におけるカスハラは、日常業務の中でさまざまな形で発生する可能性があり、職員の心身に大きな負担を与えています。たとえば、次のような事例があります。

  • 介護中に利用者が職員に対して暴力を振るう
  • 利用者が職員に対して、「役立たず」「辞めろ」などの暴言を日常的に浴びせる
  • 利用者が特定の職員の身体を触る、性的な発言を繰り返す
  • 特定の職員でないと対応を拒否し、他の職員を受け入れない
  • 契約外のサービス(掃除・買い物など)を当然のように要求する
  • 家族が、「訴えるぞ」「市に言うぞ」と職員を威圧する
  • 家族からのクレーム電話が長時間に及び、それが何度も繰り返される

こうした状況が続けば、職員は確実に疲弊していきます。実際にカスハラにより1~2割の職員がけがや体調不良を経験し、職員の2~4割が、「仕事を辞めたい」と感じているという報告もあります。カスハラを放置すれば、職員の休職や離職につながり、結果として、現場全体の負担増加やサービスの質の低下を招きます。

だからこそ重要なのは「現場で何が起きているのか」を正しく捉え、「どう対応すればよいのか」を事前に学んでおくことです。 

【事例】「関わり続けることが正解ではない」と判断できたケース 

ここでは、ケアマネジャーのAさんの研修で学んだ内容が実際の現場で活かされた事例をご紹介します。

【事例】
Aさんは、ある利用者を担当することになりました。その利用者は、以前から職員の中では「頑固で対応が難しい方」と認識されており対応に苦慮していたケースでした。

職員の電話対応への不満が繰り返され、「電話の仕方が悪い」「用件が伝わっていない」といった指摘が何度も入っていました。一方で、こちらから連絡しても電話に出ない、折り返しもない状況。やがて「担当を変えてほしい」との要望があり、管理者であるAさんが対応することになりました。

初回訪問から強い緊張感がありました。インターホンを鳴らしても反応がなく、やむを得ず入室して声をかけたところ、

「その態度は何なんだ!」「なんで目を合わせないんだ!」と、強い口調で指摘されました。

高齢男性が怒っているイラスト

Aさんはその瞬間「これまで経験したことのないタイプの方だ」と感じたといいます。

何がきっかけで怒りが強まるのか分からない。場の空気は常に張り詰めており、一つの言葉で関係が崩れる可能性がある。内心では戸惑いや緊張、そして「どう対応すればいいのか」という迷いもありました。

Aさんがとった対応策とは

Aさんが意識したのは、研修で学んだ「同じ土俵に乗らない」という原則でした。

イラストで「同じ土俵に乗らない3つの法則』を表現

謝罪はしながらも一定の距離を保ち、冷静に対応することを意識しました。

しかし、状況はすぐには変わりませんでした。何を伝えても怒りは収まらず、一方的に責められる時間が続きます。「正直、つらい」と感じる場面もあったといいます。
それでも対応を続ける中で、Aさんの中に一つの見立てが浮かびました。
「この方は、強い孤独や不安を抱えているのではないか?」
同時に、もう一つの視点も生まれました。
「この関わりが続いたとき、うちの事業所はどうなるのだろう?」

職員の疲弊、時間の圧迫、他利用者への影響…。それらを総合的に考えた結果、「関わり続けることだけが正解ではない」と判断しました。そして、関係を維持する方向ではなく、「トラブルなく関係を終える」という方針へと切り替えました。

他事業所への変更という選択肢を提示し、対立を生むことなく穏やかに関係を整理。最終的には利用者側も納得し事業所変更となりました。

解決の糸口となったのはカスハラやクレーム対応の研修

この事例が示しているのは、カスハラ対応において、「関係を維持し続けること」だけが正解ではないということです。

そしてもう一つ、非常に重要なポイントがあります。それは、この対応が「偶然できた」のではなく、研修の学びによる成果だったという点です。
Aさんは、この対応を行う前に、クレーム対応・カスハラ対応の研修でロールプレイを経験していました。カスハラ対策において、研修でのロールプレイは現場での対応力を大きく左右する要素と言っても過言ではありません。

実際の現場では、初めて遭遇する場面にどう対応するかが問われます。事前に体験しているかどうかで対応の質は大きく変わります。カスハラの場面が、「初めて遭遇する未知の出来事」から、「一度見たことのある光景」へと変わる。この違いは非常に大きいものです。

ロールプレイでは、利用者役と職員役の両方を体験します。これにより、職員としての対応の練習ができるだけでなくカスハラをする側の心理や背景も理解できるようになります。また、強い怒りや理不尽な要求に触れることで、その場の圧力や雰囲気に慣れることができます。その結果、実際の現場でカスハラに直面したときにも、「これは研修でやった場面だ」と認識でき冷静に対処しやすくなります。

さらにAさんは、以前の研修で「怒りの分析」についても学んでいました。怒りを“そのまま受け止める対象”ではなく、“背景を理解する対象”として捉えられるようになることは、対応の質を大きく変えます。

【このケースのポイント】
このケースのように、研修での学びは、実際の現場での判断と対応に大きく影響します。実際に研修の場では、こうした場面を想定したロールプレイを通じて現場でそのまま使える対応を身につけていきます。
クレームやカスハラへの対応を現場任せにしていると、いずれは大きなトラブルとして表面化します。だからこそ、組織として学び、備えておくことが不可欠です。

介護現場におけるカスハラへの対応策

1.職員の安全を守る具体策

カスハラへの対応で最も重要なのは、「職員の安全と尊厳を守ることは事業所の責任である」という認識です。

① その場で線を引く
カスハラが発生した際には、「その要求はお受けできません」と明確に伝えることが大切です。黙って耐えることは、相手に「この程度なら許される」と受け取られ、エスカレートを招くことがあります。

②職員一人で抱え込まない
暴言や暴力のリスクがあるケースでは、職員が一人で抱え込まない体制を整えることが重要です。施設系サービスでは複数名で対応することを原則とし、一人にしない仕組みをつくることが求められます。一方で、訪問系サービスでは、物理的に複数名対応が難しい場面も多くあります。そのため、担当者の変更をためらわずに行います。事業所側が主体的に担当の交代や調整を行い、特定の職員に負担が集中しないよう配慮することが重要です。

③ 記録を徹底する
「発生日時」「場所」「言動の内容」「対応者」などを客観的に記録します。これは後の検討や法的対応の基礎資料になります。誰でも同じように記録できるようフォーマットを統一しておくと有効です。

④ 報告・引き継ぎの基準を明確にする
現場職員が一人で抱え込まないよう、どの段階で上司や管理職に報告し、対応を引き継ぐのかを明確にしておくことが重要です。

2.組織全体で対応する仕組みをつくる

カスハラ対応は、個々の職員の対応スキルも必要ですが、それだけで解決できる問題ではありません。組織としての方針と仕組みを整えることが不可欠です。

①カスハラ対策方針の策定と周知
事業所として、「カスハラを許さない」という姿勢を文書化し、職員・利用者・家族に明確に示すことが重要です。

②管理職によるバックアップ体制の構築
職員は、「困ったときには組織が守ってくれる」と感じられることが、安心して対応するための土台になります。この安心感があるからこそ、職員は萎縮することなく勇気をもって適切な対応をとることができます。

③定期的な振り返りの場を設ける
困難事例を共有し、チームで検討する機会を持つことが重要です。こうした取り組みは、次に起こりうるカスハラの早期発見や未然防止にもつながります。

3.早めの法的相談も視野に入れる 

カスハラが深刻化した場合には、早い段階で法律の専門家に相談することも重要です。弁護士に相談することは、必ずしも訴訟を意味するわけではありません。法的にどのような対応が可能かを把握したうえで、現実的な選択肢を持つことが目的です。専門家が関わることで、利用者や家族の言動が落ち着く場合もあります。

クレームとカスハラの見分け方

カスハラ対策を進めるうえで、管理職が悩みやすいのが、「正当なクレーム」と「カスハラ」の区別です。両者を混同すると、改善すべき指摘を見落としたり、反対に理不尽な要求に応じ続けてしまったりする恐れがあります。

判断の基準

正当なクレームとカスタマーハラスメントの違い(表)

正当なクレームには、誠実に向き合い改善につなげることが必要です。一方、カスハラについては、毅然とした態度で対応できない理由を明確に伝えることが求められます。

そして、これらを職員に理解してもらうことも管理職の大切な役割です。研修やミーティングの場で具体例を示し、「どこからがカスハラにあたるのか」「どの段階で報告すべきか」を共有することが有効です。

契約解除が検討されるケース

サービスを安全かつ適切に継続することが難しい場合には、契約解除が選択肢になります。

介護保険サービスでは、正当な理由なく利用者を拒否することはできませんが、たとえば次のようなケースでは、契約解除を検討すべき状況になり得ます。

  • 職員への身体的暴力が繰り返され、安全確保が困難な場合
  • 暴言や脅迫が常態化し、職員の就業継続に大きな支障が出ている場合
  • 合理的範囲を超えた要求が続き、改善が見込めない場合
  • 契約書や利用規約に定めたハラスメント条項に反している場合

ただし、契約解除にあたっては、慎重な手順を踏むことが必要です。口頭や書面での「注意・警告」「改善の機会の提示」「記録の蓄積」「関係機関との調整」などを経て、組織として判断することが求められます。

一方で、次のような場合には、直ちに契約解除とするのではなく、別の対応を検討する必要があります。

  • 一時的な感情的言動で、その後に謝罪や改善の意思がある場合
  • 認知症や精神疾患の症状に起因しており、医療的対応や環境調整で改善が期待できる場合
  • 事業所側の説明不足や対応の不備が背景にある場合

契約解除はあくまで最終手段です。その前にできることを丁寧に積み重ねることが、利用者保護と、職員保護の両面から重要です。

カスハラ防止のための具体的な取り組み

カスハラの発生を防ぐためには、事業所としての予防的な取り組みが欠かせません。あらかじめルールや方針を明確にし、利用者や家族にも共有しておくことで、トラブルの発生を抑えたりエスカレートを防いだりすることが可能になります。

1.カスハラ対策ポスターの掲示

事業所内の目につきやすい場所に、「当施設はカスタマーハラスメントに対して毅然と対応します」といった趣旨のポスターを掲示することは、一定の抑止力になります。

公的機関が作成した啓発物を活用する方法もありますし、施設独自の言葉で発信するのも有効です。利用者や家族に対して、「この事業所には明確なルールがある」と伝えることが大切です。

2.利用契約書の見直し

サービス利用契約書にハラスメント条項を盛り込むことは、非常に重要な予防策です。

たとえば、次のような内容を明記しておくことが考えられます。

  • ハラスメントの定義と具体例
  • ハラスメント発生時の事業所の対応
  • 改善が見られない場合には契約継続が難しくなる可能性があること

契約時には、条項をただ記載するだけでなく口頭でも丁寧に説明し、理解を得たうえで手続きを進めることが重要です。

3.指針と対応フローの明文化

事業所全体でカスハラ対応の基本方針を明文化し、全職員に共有しておくことが求められます。指針には、次のような要素を盛り込むと実用的です。

① 基本方針の宣言
職員の安全と尊厳を守ることを優先し、カスハラを容認しないという組織の姿勢を明示します。

② 具体例の提示
どのような言動がカスハラにあたるのか、職員が判断しやすいよう具体的に示します。

③ 対応フローの整理
誰が、いつ、どのように報告し、誰が判断するのかを明確にします。

カスタマーハラスメント対応フロー

カスタマーハラスメント対応フロー

4.職員向け研修の実施

カスハラ対策では、職員一人ひとりの対応力を高めることが欠かせません。現場で実際に活かせる研修としては、次のような内容を扱うことが効果的です。

  • カスハラの定義や現状、職員への影響を理解する
  • カスハラ対策の基本方針を共有する
  • カスハラが発生するきっかけや原因を理解する
  • 初期対応の考え方と具体的な行動を学ぶ
  • 適切な言葉遣いや伝え方を身につける
  • 対応時にしてはいけない行動を理解する

特に、ロールプレイを取り入れた研修は、現場で起こりうる場面を疑似体験できるため実際の対応場面でも冷静に対処しやすくなります。

5.マニュアルづくり

カスハラ対応マニュアルは、「誰が読んでも同じ対応ができる」ことを目指して作成する必要があります。

  • 現場職員・管理職・経営層それぞれの役割を明示する
  • 記録用紙やチェックリストを添付する
  • 法的対応が必要になった場合の連絡先や、手順を整理する
  • 定期的に見直し、更新する

マニュアルは、作っただけでは機能しません。研修やミーティングなどで繰り返し確認し実際に使える状態にしておくことが大切です。

6.相談窓口の設置と運用

職員が安心して被害を相談できる窓口を設けることは、被害の潜在化を防ぐうえで重要です。運用にあたっては、次の点がポイントになります。

①相談しやすい雰囲気をつくる
「このくらいで相談してよいのか?」と迷わせないことが大切です。

②複数の相談ルートを設ける
直属の上司以外にも相談できる仕組みがあると安心感につながります。

③プライバシーを守る
相談内容の管理を徹底し、必要な範囲に限定して共有することが大切です。

④相談後のフォローを行う
相談を受けた後の対応状況まで確認し、相談した意味を感じられるようにします。

認知症や精神疾患に起因する言動への対応

認知症や精神疾患に起因する言動は、カスハラとは区別して捉える必要があります。一方で、どのような理由であっても職員の安全は守られなければなりません。理解と安全確保の両方の視点が求められます。

1.認知症による行動の理解

介護現場で難しいのは、認知症の症状として現れる攻撃的な言動への対応です。認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)の一つとして、怒りっぽさ、暴言、暴力、過剰な要求などが見られることがあります。

これらは本人の悪意に基づくものではなく、認知機能の低下や不安、混乱などが背景にある場合があります。認知症による言動かどうかを判断するうえで、まず重要なのは医師の見解です。その言動が認知症の症状によるものなのか、それとも、他の要因によるものなのかを医学的に確認することが、対応方針を考える出発点になります。

2.適切な対応方法の確立

認知症に由来する可能性がある言動に対しては、次のような対応が有効です。

① 冷静に対応する
職員側が感情的にならないことが重要です。相手の怒りや興奮に引きずられず、同じテンションで応じないように意識します。必要に応じて距離を取り、安全を確保します。

② コミュニケーションを工夫する
興奮しているときは、言葉による説明や指示を増やさないことも有効です。多くを説明するとかえって混乱が強まり、さらに興奮することがあります。短く分かりやすく伝える、指示や禁止を多用しないなどの工夫が求められます。

③ 情報共有と連携を行う
特定の職員に負担が偏らないよう、職員間で情報を共有し対応を統一します。また、医師・看護師・ケアマネジャーとも連携し多角的に状況を捉えることが重要です。

④ 物理的な安全を確保する
危険が想定される場合は、二人対応にする、危険物を周囲から取り除く、距離の取り方や立ち位置を工夫するなど、職員の安全を最優先に行動します。接触場面を最小限にすることも有効です。

カスハラに関する法律相談の流れ

事業所内の対応だけでは限界があると感じた場合は、弁護士への相談を早めに検討することが重要です。一般的な流れとしては、次のようになります。

①法律事務所や相談窓口に連絡する
②発生日時、内容、対応履歴、記録などを整理する
③どのような法的対応が可能か見解を確認する
④警告文書、交渉、契約解除などの方針を検討する

専門家に相談するメリット
・客観的な判断が得られる
どこまでがカスハラにあたるのか、法的観点から整理できます。
・相手への抑止力になる
弁護士名義の文書や専門的な助言が、相手の言動を抑えることがあります。
・事業所のリスク管理につながる
手順を踏んで対応することで、後の紛争リスクを減らすことにつながります。

まとめ

カスハラは、これまで介護現場で「ある程度は仕方がない」と受け止められてきた面もあります。しかし今は、個人の我慢に任せるのではなく、組織として向き合うべき重要課題として捉える必要があります。
こうした取り組みは、単に職員を守るためのものではありません。職員が安心して働ける環境があってこそ、利用者に安定したケアを提供し続けることができます。現場を守ることは、ケアの質を守ることにつながります。

まずは、自事業所の現状を把握することから始めてみてください。職員への聞き取りやマニュアルの確認など、小さな一歩で構いません。それが、現場を守る変化の起点になります。
そして重要なのは、「対応できる状態をつくること」です。カスハラ対応は知識だけでなく、経験と準備によって支えられます。研修やロールプレイを通じて、“いざというときに動ける現場”をつくることが、管理職の役割です。

カスハラは、適切に向き合えば、防ぎ、減らすことができます。現場を守る一歩を、ぜひ今日から踏み出してみてください。

  • 徳山オフィス 徳山 和宏

    徳山和宏

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