従業員の介護離職を防ぐためには?企業ができる対策や取り組みについて解説

オンライン(動画)研修掲載日: 2024.12.27(更新日: 2024.12.27)
会社でセミナーを受けている様子

介護離職は、従業員と企業の両方にとって深刻な影響を及ぼす問題です。仕事と介護の両立が難しい環境が原因で、貴重な人材を失う企業も少なくありません。しかし、適切な制度や支援策を導入することで、離職を未然に防ぎ、従業員の働きがいを守ることできます。

このコラムでは、従業員の介護離職を防ぐために企業が行うべき具体的な取り組みや成功事例を紹介します。

介護離職の現状と問題点

現在の少子高齢化の日本社会において、介護と仕事の両立は避けて通れない課題です。しかし、これを支える仕組みがまだ十分とはいえず、親や身近な家族に介護が必要になった場合は、多くの従業員が離職を余儀なくされています。介護離職の現状と、それが引き起こす問題点を見ていきましょう。

近年、高齢化社会により仕事と介護の両立に悩む従業員が増加しています。厚生労働省の統計によると、毎年約10万人が親などの介護を理由に離職しています。これは企業の労働力不足を深刻化させ、国全体の生産性の低下にも影響を与えかねない社会問題です。

介護離職者の多くは、40代から50代の働き盛りの世代に集中しています。この層は企業にとって重要な戦力であり、その世代の離職は大きな損失となります。また、個人にとっても離職することで経済的・精神的な負担が増大し、社会的孤立を招くリスクが高まります。これらの現状を放置すると、社会全体の労働力がさらに縮小し、日本経済の停滞を引き起こす恐れがあります。

今後も少子高齢化はまだまだ続きます。そのため、企業と社会が協力して具体的な対策を講じることが急務です。

介護離職は単なる個人の問題ではなく、組織全体の経営課題です。企業が従業員の介護負担を軽減する施策を取ることで、労働生産性を向上させると同時に、長期的な競争力の向上にも寄与するでしょう。逆に、その対策を後回しにすれば、将来的に経営に大きな問題を生じさせることになるのではないかと考えます。

介護離職が起こる原因と理由

なぜ多くの従業員が介護離職を選ばざるを得ないのでしょうか。その背景には、家庭環境や職場環境、制度の整備不足など様々な要因がありますが、介護離職の主な原因には以下のようなものがあります。

介護負担の増加

介護は時間的、身体的、精神的な負担が大きいものです。特に近距離介護の場合、仕事と介護を両立させなければいけない状況が日常的に発生します。

例えば、日中はフルタイムで働きながら、夜間には介護が必要な親の世話をしなければならない状況です。同居の場合だけでなく、近隣に住む親の家に寄って必要な介護を行ってから自宅に帰るという方もいます。このような生活が続くと、心身ともに疲弊し、仕事のパフォーマンスが低下することがあります。

また、遠距離介護の場合も、通院の介助や体調不良等による緊急時の対応などで、仕事を休まなければならない状況が発生します。それがストレスとなり、結果的に仕事を辞めざるを得なくなるケースもよく目にします。

支援制度の認知不足

多くの企業が介護休暇やフレックス勤務制度を導入していますが、その存在を知らない従業員は少なくありません。

例えば、ある従業員が家族の介護を理由に辞職を決意した際、退職後に初めて会社に支援制度があることを知ったという話をよく聞きます。このような情報不足は、制度が十分に活用されない原因の一つであり、大変もったいないことです。

自社で活用できる制度の周知を徹底し、従業員が適切なタイミングで利用できるようにすることが重要です。

職場の理解不足

介護を抱える従業員が職場で孤立している状況も少なくありません。

例えば、同僚や上司が介護の負担を十分に理解しておらず、「なぜ休むのか」「なぜ定時で帰るのか」といった偏見を持つことがあります。このような状況では、従業員は職場に居づらさを感じ、孤立してしまいがちです。たとえ周囲がそのように思っていなくても、申し訳ないという気持ちから居づらさを感じて、最終的に離職を選んでしまうことがあります。

家族内の役割分担の偏り

日本では、介護の担い手が一人に集中する傾向があります。特に、女性が介護の主要な担い手となる場合が多く、仕事との両立が困難になる原因となっています。また、親族間でのコミュニケーションが不足している家庭では、介護の責任が特定の家族に集中しやすくなります。家族全体での話し合いを促し、役割分担を適切に行うことが重要です。

私の経験上、介護負担を抱える従業員の多くは、自分一人で全てを抱え込む傾向があります。これは「周囲に迷惑をかけたくない」という心理が働いているためです。しかし、仕事と介護を両立するためには、職場や家族、地域社会の協力、公的な介護保険制度の活用が不可欠です。企業はもちろん、従業員自身もオープンな姿勢で支援を求めることが大切だと考えます。

介護離職によるデメリット

介護離職が従業員や企業に与える影響は非常に深刻で、個人の生活やキャリアの損失だけでなく、企業全体の生産性や経営効率にも大きな悪影響を及ぼします。具体的なデメリットには以下のようなものがあります。

従業員側のデメリット

経済的損失

介護離職後の収入減少は従業員の生活基盤に直結します。一度離職すると、再就職は容易ではなく、再就職時に望む収入水準を確保することが難しくなり、結果として生活水準が大きく低下する恐れがあります。そうなると、長期的な貯金計画や住宅ローンの返済が困難になる場合もあり、介助者自身のライフプランに大きなマイナスとなります。

キャリアの停滞

離職することで、スキルアップやキャリア形成の機会を失い、転職市場で不利になることが考えられます。特に、特定の専門分野でのキャリアを築いていた場合、そのブランクが転職活動で大きな障壁となり、キャリア形成をあきらめなければならなくなるケースも多いです。

精神的負担

介護そのものが大きな精神的負担となる中で、離職の選択は「仕事を失った」という喪失感をもたらします。また、離職により社会との繋がりが絶たれたと感じ、孤独感を感じることもよく見られます。介護による身体的な負担に加え、この二重の負担が生じることにより、従業員の心身の健康が悪化するリスクが高まります。

※介護と仕事に関する従業員向けコラムについてもぜひご参考ください。
介護と仕事の両立は可能?両立するための方法や支援制度をご紹介

企業側のデメリット

労働力の損失

経験豊富な従業員が離職することで、業務の停滞やプロジェクトの進行が遅れるリスクがあります。例えば、専門知識を持つ社員が退職した場合、代替要員の育成には時間とコストがかかります。それをカバーするために他の社員の負担が増加します。

採用コストの増加

新たな人材を確保するために発生する採用活動のコストは、予想以上に高額になる場合があります。特に、予定していなかった退職により、急遽人材の補充が必要になる場合や、高いスキルセットを持つ従業員の代替が難しい場合、このコストは企業経営に負担を与えることになります。

企業イメージの低下

介護と仕事を両立するための従業員支援が不十分であると見られることで、外部からの企業評価が下がります。結果として、新規採用活動における応募者数の減少や、既存社員の離職意欲の増加につながる可能性があります。

企業にとって従業員が介護離職に追い込まれない環境を整えることは、単なる「義務」ではなく「投資」として捉えるべきです。利用しやすい施策を導入することで、離職を防ぐだけでなく、社内外の評価を向上させ、結果的に企業の競争力を高めることにつながります。特に、介護と仕事の両立への施策は中長期的な視点での計画が必要であり、これには企業の担当者がしっかりとした知識を持っておくことが重要です。

企業担当者の方々は、自社の実際の課題とその解決策について深く学ぶ必要があります。知識を習得することに対して、従業員満足度と企業の持続可能性を大きく向上させる第一歩と考えられるかが、将来的な企業の生き残りに大きな影響を与えるでしょう。

企業が取り組むべき介護離職防止策

介護離職を防ぐためには、企業が積極的に取り組むべき支援策があります。ここでは、具体的な対策とその実施方法について解説します。従業員の声に耳を傾け、柔軟な働き方を推進することが重要です。

離職防止の支援策に関する徹底周知

介護休暇制度

介護休暇制度は介護を必要とする家族がいる従業員に、一定期間の休暇を与える制度です。短期間でも介護に専念できる環境を提供することで、介護の体制を整えて、従業員の負担を軽減することが目的です。また、制度が整っている企業は、従業員の離職率が低下し、企業の魅力向上にも寄与します。従業員にとっても企業にとってもメリットの大きい制度であると言えます。

時短勤務やフレックス勤務制度

従業員が柔軟に勤務時間を調整できる制度があれば、介護の時間に合わせて出社時間を遅らせたり、早退することが可能です。特に早朝や夜間帯は希望通りのヘルパーの手配ができないことも多いため、時短勤務やフレックス勤務により、仕事と介護の両立が実現しやすくなります。

在宅勤務の導入

自宅で仕事ができる環境を整備することで、従業員が移動時間を削減し、その分を介護に充てることができます。必ずしもフルリモートでの業務にしなくても、週に何日は在宅勤務ができる環境を整備することは、特に緊急時や日常的な介護業務を行う従業員にとって、大きな助けとなります。

これらの制度を、従業員に有効に活用してもらうためにわかりやすく説明する資料を配布し、定期的な説明会を実施することで、制度の利用率を向上させましょう。

自社の制度や働き方の見直し

従業員が柔軟に働ける環境を整えるためには、今の制度を見直し、以下の取り組みをすることが必要です。

職務分担の見直し

介護を抱える従業員の業務量を減らし、他のチームメンバーがフォローする体制を構築します。これにより、介護を理由とした離職を防ぐだけでなく、チーム全体の結束力を高めることにもつながります。

チームでのフォロー体制の構築

従業員が介護の負担を感じずに働けるよう、チーム内で業務を共有する仕組みを作ります。また、管理職が積極的に従業員をサポートする姿勢を示すことで、安心感を提供します。

有給休暇の取得推進

有給休暇を取りやすい職場環境を整えることで、従業員が介護に必要な時間を確保しやすくなります。特に、取得率が低い場合は、管理職が積極的に利用を促すことが効果的です。

以上これらの取り組みをしていくと良いでしょう。特に、管理職が率先して介護と仕事の両立をサポートする姿勢を示すことが効果的です。これにより、従業員が安心して働ける環境を実現でき、お互い様の企業風土が従業員の働きやすさにつながるでしょう。

介護離職に関するセミナー実施

外部の専門家を招き、管理職や人事職員、従業員に向けて介護に関する知識や制度の活用法を学ぶセミナーを実施しましょう。

セミナーでは、介護サービスの種類や利用方法、介護施設の選び方についての情報提供が役立ちます。また、他社で行われている具体的な成功事例を共有することで、従業員の意識向上にもつながります。

相談窓口の設置

社内に介護と仕事の両立に関する相談窓口を設置し、介護に関する悩みを気軽に話せる環境を整えることも重要です。企業の制度だけでなく介護に関する情報の提供や介護保険について専門的な相談が気軽にできるようにすると良いでしょう。そのため、社外の介護と制度についての知見を持った産業ケアマネジャーと契約することも効果的です。

従業員同士が互いに支え合う文化を醸成することで、介護負担の軽減につながります。

介護支援策は単なる福利厚生ではなく、企業の競争力を高めるための戦略的な取り組みです。特に、中小企業では他社との差別化要素として活用できるでしょう。

介護離職を防ぐための実践事例

実際に企業が取り組んで成功を収めた事例から学ぶことで、自社に適した介護離職防止策を見つけるヒントが得られます。ここでは、筆者が産業ケアマネとして関わったいくつかの成功事例をご紹介します。

事例1: A社の「介護コンシェルジュ制度」

A社では、介護に詳しい専門スタッフと契約し、必要時に従業員が気軽に相談できる環境を提供しています。この取り組みでは、介護保険の利用の仕方や介護休暇中に調整しておくことなどの具体的な提案を受けることができます。

介護が必要となった初期の段階から介護保険を有効に利用することのレクチャーが受けられるため、従業員がパニックになって退職を選択してしまうことがなくなり、離職率が大幅に低下しました。

事例2: B社の「リモート支援プログラム」

B社では、従業員が在宅勤務中に介護サービスを受けられる環境を整備しました。これにより、仕事と介護を両立できる従業員が増加しています。

普段はオンラインシステムを利用して、他の従業員とも会話ができるほか、週に1回は会社に出勤する必要がありますが、ヘルパーとデイサービスを利用することで無理なく出勤することを支援しています。また、介護サービスの利用料金の助成があるなど、従業員の負担の軽減につながるような工夫がされています。

事例3: C社の「介護休暇の柔軟運用」

C社では、従業員の介護ニーズに合わせて休暇取得の方法を周知するだけでなく、独自に自由度を高め、利用率が向上しました。結果として、従業員の満足度も向上しています。

これらの事例は、企業が従業員に寄り添い、柔軟な支援を行うことで、介護離職を防ぐ成功例として注目されています。このような取り組みを参考に、自社でも同様の施策を検討すると良いでしょう。

また、成功事例を見ると、企業規模や業種を問わず実現可能な施策が多いことがわかるのではないでしょうか。大切なのは、従業員のニーズを的確に把握し、それに応じた施策を柔軟に実施することだと考えます。

介護離職を防ぐことは、従業員の生活を守るだけでなく、企業の成長にもつながる重要な課題です。従業員一人ひとりが安心して働ける環境を整えるために、企業は制度の整備や周知、そして具体的な支援策の実施に取り組む必要があるのです。具体的な実践事例を参考にしながら、自社に合った取り組みを進めていきましょう。

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(一般社員向け)

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受講者の声として「受講前は不安だったが、セミナーで得た知識を活用し、社内での対応力が飛躍的に向上した」といった感想も寄せられています。

専門性の高いセミナーを受講し企業の体制を整備することで、介護離職を防ぐだけでなく、企業の生産性を向上させ、従業員の満足度を高めることが可能です。ぜひ、より良い職場環境の実現に向けた準備を始めて欲しいと思います。

セミナーへの参加についての詳細は、ツクイスタッフの公式サイトをご覧ください。
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まとめ

介護離職は従業員と企業双方に深刻な影響を与える問題ですが、その予防策は存在しており、企業が積極的に取り組むことで、従業員の安心と働きがいを守ることができ、生産性の向上や企業のイメージアップにもつなげることができます。

ぜひこのコラムをきっかけに、みなさんの企業の介護離職対策を強化してください。行動を起こすことで、職場全体がより働きやすい環境に進化するきっかけとなるでしょう。

  • 合同会社カサージュ代表/主任介護支援専門員/
    BCAO認定事業継続管理者/産業ケアマネジャー

    寺岡 純子

    経歴詳細を見る

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