デイサービスの送迎研修で使える、送迎マニュアルと交通事故対応

デイサービスやデイケアにとって、送迎業務は利用者の皆様にサービスを届けるための生命線です。しかし、送迎中は事故や車両トラブル、不測の事態など、様々なリスクが発生しやすいものです。
送迎を担当する職員は、ご高齢の方の命を預かっているという重大な責任を自覚し、定められたマニュアルを厳守、同時に研修で学びを深めることが求められます。今回用意させていただいた内容をもとに、自施設のマニュアルを作成いただければと思います。
1. 送迎業務の基本:徹底事項と禁止事項
🔹 送迎時の徹底事項
- 高齢者への配慮:急な動きによるケガ防止のため、急発進、急停止、大きく重心が移動する速度域でのカーブは避ける。
- 安全最優先の運転:到着時間よりも安全を意識した運転を心がける。
- 基本義務:後部座席もシートベルトを必ず着用。車いすの固定も確実に。細い道でのすれ違いは必ず止まって待機する。
- 体調管理:体調不良や服薬により運転に不安がある場合は、必ず上長に報告・相談し、運転を代わってもらうなどの対応をとる。
🚫 送迎時の禁止事項
- 飲酒:前日夜遅くまでの飲酒を控え、毎朝のアルコールチェックを欠かさず行い、基準値(0.15mg/L)超えた場合は運転不可。
- 喫煙:休憩時間(喫煙所のみ)以外の業務時間中は禁止。
- 運転中の携帯・スマホ使用:緊急以外は使用禁止。施設・利用者に電話をかける際は必ず安全な場所に停車してから行う。
- 業務以外での送迎車の使用:私的な使用は原則禁止。例外については上長の承認を得ること。
- 送迎範囲外での立ち寄り:送迎範囲は「自宅から施設まで」。送迎途中の寄り道は丁寧にお断りする。
- 車両の傷・不具合・異変の未報告:小さな接触事故や車両の不具合も、重大事故につながる可能性があるため必ず報告する。
2. 送迎前の確実な準備と車両点検
出発前の準備と車両チェックは、事故を未然に防ぐための重要なステップです。
項目 | 確認内容 |
事前確認 | アルコールチェック、送迎表の確認(送迎時間・順路)、初めての利用者宅の地図確認。 |
携行品 | 運転免許証、送迎表、運行日誌、鍵、ボールペン、携帯電話、必要に応じて踏み台や車椅子。 |
車両チェック | ガソリン残量、タイヤの空気圧、ブレーキランプ、破損部分、車内の忘れ物・ゴミ・車椅子の乗りっぱなしがないか。 |
3. 安全な乗降介助の手順とマナー
利用者の身体状況に合わせた適切な介助と、快適な移動のための配慮が求められます。
介助の種類 | ポイント |
乗車(歩行) | 良い方の足(健側)から乗車を促す。必要に応じて踏み台を使用。 |
降車(歩行) | 弱い方の足(患側)から降車を促す。必要に応じて踏み台を使用。 |
車椅子 | リフト使用時は車椅子を確実に固定する(最重要)。姿勢が不安定な方にはクッション等で補助し、補助員も検討する。 |
マナー | 明るく爽やかな挨拶を心がける。体調や服薬、鍵の施錠など、必要な事項を乗車前に確認する。 |
車内環境 | 冬場や夏場は、事前に冷暖房をつけ、快適に乗っていただけるよう配慮する。 |
情報共有 | 送迎時の利用者との会話や気づきは、必ず他のスタッフに引き継ぐ。 |
4. 中停車・待機場所のルール徹底
安全かつスムーズな送迎のため、駐停車・待機場所は利用者・ご家族と事前に打ち合わせを行います。
- 安全と配慮:待機場所は、安全面に配慮し、駐車場や歩行者の邪魔にならない場所を選ぶ。
- 法令遵守:駐車禁止区域や駐停車禁止区域では絶対に待機しない。特に、交差点や横断歩道から5m以内、バス停から10m以内は駐停車禁止。
5. 万が一の際の対応(事故発生時)
人命を最優先に行動し、勝手な判断で事を進めないことが重要です。
- ドライブレコーダー停止:容量不足で事故直後の映像が消えるのを防ぐため、すぐに録画を止める。
- 負傷者の確認:怪我人がいる場合は、すぐに救急車を要請する。
- 施設へ連絡:上司の指示に従う。
- 警察へ連絡:他の車両等との接触事故の場合は必ず警察を呼び、当事者同士での処理は絶対に行わない。
- 情報確認:相手方の氏名、住所、勤務先、保険会社を確認する。
事故直後に避けるべき行動
・現場を離れること
人身事故の場合、「軽傷だから」と判断して現場を離れるとひき逃げとみなされることがあります。
どんな軽微な事故でも、必ず警察へ連絡しましょう。
・当事者間でその場解決をしないこと
必ず保険会社を通じて対応。どのような場合でも、施設へ連絡し上司の指示を仰ぐこと。
事故後の対応
事故後は、次の8項目を順に確認・実施します。
- 負傷者の救護
- 危険防止措置(車を安全な場所へ移動するなど)
- 救急車・警察への連絡
- 事業所への連絡・報告(状況・怪我・車両状態など)
- 相手情報の確認(氏名・住所・電話番号・車種・ナンバー)
- 連絡先の交換(施設の連絡先を相手に渡す)
- 損傷箇所の撮影(車両や周囲の損傷を写真で残す)
- 事故報告書の作成と提出
停車中の車・物への接触事故の対応
万が一、停車中の車や壁などに接触してしまった場合も、必ず警察へ届け出ましょう。
そのうえで以下を実施します。
- 所有者情報の確認(氏名・住所・電話番号など)
- 連絡先の交換
- 事業所への連絡
- 損傷箇所の撮影
- 事故報告書の作成と提出
6. 運行を支える「日常的な点検」の義務
道路運送車両法に基づき、送迎車は日常的に点検することが義務付けられています。日頃から以下の15項目を目視等で確認し、安全な運行に努めましょう。
部位 | 点検項目(計15項目) |
エンジンルーム (5項目) | ブレーキ液、冷却水、エンジンオイル、バッテリー液、ウィンドウウォッシャー液の量。 |
車の周り (4項目) | ランプ類の点灯・点滅、亀裂・損傷、タイヤの空気圧、タイヤの溝の深さ。 |
運転席 (6項目) | エンジンのかかり具合、ウォッシャー液の噴射状態、ワイパーの拭き取り能力、ブレーキの踏みしろと利き具合、駐車ブレーキの引きしろ、エンジンの低速・加速状態。 |
まとめ
送迎中の重大事故は近年増加しており、人命に関わる業務であることを再認識しなければなりません。このマニュアルを活用し、職員への周知徹底と定期的な研修を行うことで、安全意識を高め、質の高い介護サービスを提供していきましょう。