介護施設向け 感染症研修ガイド:研修資料準備から実施まで解説

高齢者や基礎疾患を持つ利用者が多い介護現場では、感染症への適切な対応が求められます。
このコラムでは、介護施設における感染症研修の重要性から具体的な実施方法まで、実践的な内容を解説します。法人内での研修に役立つ内容だけでなく、職員の負担を軽減する外部研修の活用方法についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
1.感染症研修の重要性と目的
介護施設には、感染症が広がりやすい環境的特性が見られます。入居者の多くは高齢者であることから、免疫機能が低下していることが多く、基礎疾患を抱えているため、感染症に罹患すると重症化しやすい傾向があります。さらに、要介護状態にある高齢者への食事介助や排泄介助など密接な介護は日常的に避けることは難しく、共有スペースでの集団生活も感染拡大のリスクを高めています。
このような状況のなか、介護施設で感染症が発生することは、利用者の健康と生命を脅かすだけでなく、職員の欠勤や施設の一時閉鎖など、経営面でのダメージも深刻となり得ます。そのため、日頃からの感染予防策の実施と適切な対応体制の構築が不可欠と言えるのです。
感染症研修の目的と期待される効果
介護施設における感染症研修の最大の目的は、職員一人ひとりが感染症に関する正しい知識を身につけ、日常業務の中で確実に実践できるようにすることです。
研修を通じて、標準予防策の徹底、感染症発生時の迅速な初動対応、職員間での情報共有と連携体制の強化について身につけます。そうすることで、感染症対策や感染症の拡大を最小限に抑えることが可能になり、利用者とその家族の安心感が高まり、施設への信頼構築にもつながります。
制度による研修の義務化
介護保険法に基づく運営基準では、2024年4月から全ての介護サービス事業所において、感染症の蔓延に関する対策の強化が義務付けられました。
具体的には、感染症対策に関する委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練の実施です。研修については、年1回以上の定期的な実施が求められており、新規採用時にも実施することが推求められています。また、研修を実施した際の実施記録は行政の実地指導の際にも確認される重要な書類となり、確実に記録を残す必要があります。
2.感染症対策研修の内容
介護施設における、感染症の蔓延防止の防止には,職員全員が基礎知識を習得し、感染防止策を確実に実施することが不可欠です。
基本的な感染症の知識
感染症対策には、基礎的な知識を理解しておかなければなりません。
感染症には症状が出る前から感染力を持つものや、無償であった絵も他人に感染させるものもあります。そのため、全ての血液、体液、排泄物などを「感染の可能性かあるもの」として取り扱い、感染症の有無にかかわらず予防策を講じる標準予防策(スタンダードプリコーション)の考え方を浸透させることが重要です。
また、感染が成り立つ3つの要素(感染源、感染経路、感受性宿主)を理解させます。この3要素のうち1つでも断ち切ることができれば、感染を防ぐことができます。感染症対策を実施する上で、なぜその対策が必要なのかの理解が重要となるのです。
感染経路についての知識も必要です。介護現場で特に注意すべき感染経路には、接触感染、飛沫感染、空気感染があります。それぞれの感染症について、潜伏期間、主な症状、感染力の強さなどの特徴を押さえておくことで、早期発見と適切な対応が可能になります。
具体的な対策と手順
感染症対策の基本は手指衛生です。流水と石鹸を使用した手洗いは30秒以上かけて丁寧に行い、アルコール消毒は完全に乾くまで擦り込む必要があります。ひとつのケアが終了すれば、次のケアに移る前に必ず手洗い又はアルコール消毒を正しく行う必要があります。
個人防護具(PPE)の正しい使用も重要です。マスク、手袋、エプロンなどを状況に応じて適切に選択し、正しい順序で着脱することで、自分自身と利用者の両方を守ることができるからです。
また、環境整備として、ドアノブや手すりなど高頻度に接触する面の重点的な消毒と適切な換気も欠かせません。いつ、どのような方法で、誰が環境整備を行うのか、感染症が発生した際の対応手順など、明確にマニュアル化しておくことで、迅速かつ的確な対応が可能になります。
感染防止策については、頭で理解していても正しい方法で行えない、実施されていなければ意味がありません。そのため、座学だけでなく実地研修を行うことが望まれます。
手指衛生の実地研修
座学で手洗いの重要性を説明するだけでな、実際に手を洗ってもらう実地研修が効果的です。この時、蛍光塗料やブラックライトを使った手洗いチェッカーを活用すると、洗い残しが視覚的に確認でき、自分の手洗いの癖に気づくことができます。てチェッカーでの結果をもとに、指の間、爪の周り、手首など、洗い残しやすい部位の洗い方を重点的に指導しましょう。また、手洗いのタイミング(ケア前後、トイレ後、食事前など)については、具体的な場面を提示して説明することも重要です。
個人防護具の着脱訓練
PPEの着脱は、間違った手順で行うと汚染を広げてしまう危険があります。まずは動画やデモンストレーションで正しい手順を見せ、その後、職員に実際に着脱してもらうようにします。特にPPEの脱ぐ順序と、脱ぐ際に表面を触らないようにするなどを繰り返し練習することが大切です。着脱訓練では、グループやペアになって互いにチェックし合うことで、理解を深めることができます。
環境整備の実践研修
消毒薬を使った環境整備に関しては、消毒薬の種類と適切な濃度、消毒方法を実際の現場で指導すると理解しやすいです。ドアノブ、手すり、スイッチ、テーブルなど、高頻度に接触する部分がどこにあるかを職員と一緒に確認し、消毒の優先順位を共有しましょう。また、消毒時の拭き方(一方向に拭く、面を変えて使う)や、消毒後の接触時間(消毒薬が効果を発揮するまでの時間)についても実演を交えて説明するようにします。
シミュレーション訓練
「利用者が嘔吐した」「職員が発熱した」などの具体的なシナリオを設定し、実際に対応を行う訓練を行います。誰が何をするかの役割分担や、誰に報告するかの報告体制の確認や、どの防護具を使うか、使用した物品をどう処理するかなど、一連の流れを実践することで、緊急時にも冷静に対応できる力がつきます。また、訓練後には必ず振り返りを行い、改善点を共有することが重要です。
研修で学んだ内容はマニュアルとして文書化し、いつでも確認できるようにしでおきましょう。文字だけでなくフローチャートや写真を多用し、分かりやすいマニュアルにするほか、訓練の様子を動画撮影しておくと教育用の資料にすることができます。作成したマニュアルは、各部署に配置し、定期的に読み合わせを行う機械を作り、実際の運用と相違がないか確認することも大切です。
これらの研修方法を組み合わせることで、単なる知識だけでなく実践力を身につけることができ、日常業務の中で自然に感染症対策が実施できる組織になります。
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3.効果的な研修方法と対象者
感染症研修を効果的に実施するためには、職員の理解度や実践力を高める工夫が必要です。
カリキュラム構成とテーマ例
効果的な感染症研修を行うには、基礎から応用まで段階的に学べるカリキュラムの構成にすることです。基礎編では感染症の基礎知識や標準予防策を、実践編では手洗い・消毒の実技や個人防護具の着脱訓練を行うようにします。応用編として、感染症発生時のシミュレーション訓練を実施するなど体系的なプログラムの工夫をすると良いでしょう。また、季節ごとに流行する感染症に合わせたテーマを設定すると、より実践的な学びにすることができます。
オンライン研修の利点と活用法
一度に職員が集まることが難しい介護施設では、時間と場所の制約を受けずに受講できるオンライン研修はメリットの大きい研修方法です。録画された研修動画は繰り返し視聴することができ、新人職員の教育にも活用できます。また、外部のeラーニングサービスを利用すれば、専門家が作成した質の高い教材で学習でき、法人内で研修を企画・実施する負担を大幅に軽減することができます。
外部の研修サービスを利用する場合は、介護業界に特化した内容を提供しているか、受講記録の発行が可能か、施設にあった内容にカスタマイズが可能かといった点を確認して研修業者を選定すると良いでしょう。
ただし、実技の習得にはオンライン研修だけでは不十分です。オンラインで知識を学び、施設内で実技訓練を行う「反転学習」を取り入れることで、効率的かつ効果的な研修の実現が可能になります。
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4.感染症研修のための準備
感染症研修を実施する際には、適切な資料を準備する必要があります。厚生労働省が作成している「介護施設・事業所における感染対策マニュアル」は、基本的な感染症対策から各感染症への具体的な対応方法まで網羅されており、厚生労働省のホームページから入手することが可能です。また、国立感染症研究所や日本環境感染学会などの専門機関が提供する資料も専門性の高い情報源として活用できます。
参考リンク:
介護施設・事業所における感染対策マニュアル(第3版)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf
国立感染症研究所 https://www.niid.jihs.go.jp/
日本環境感染学会 http://www.kankyokansen.org/
5.研修を通じた意識の向上
感染症対策で最も難しいのは、知識を日々の業務の中で確実に実践することです。そのためには、一人ひとりの意識改革は欠かせません。感染症が実際に発生した場合の影響を具体的にイメージしてもらうことで、感染予防の重要性が実感として理解できるようにしていきましょう。
また、指導的な視点だけでなく、「できていること」を認め合う文化づくりも重要です。感染症対策についての定期的な振り返りの機会を設けることで、形骸化を防ぎ、継続的な改善につなげていきましょう。
6.感染症研修に関するよくある質問
介護施設での感染症研修の受講対象者は?
感染症研修は、施設で働く全ての職員が対象です。介護職員、看護職員、栄養士、事務職員、清掃スタッフなど、職種や勤務形態に関わらず、全員が基本的な知識と技術を身につける必要があります。
研修の頻度はどのくらいが理想ですか?
年1回以上の定期的な研修実施が義務付けられていますが、理想をいえば、季節に応じたテーマを組み込めるように年2回程度の実施が望ましいです。施設内での実施が難しい場合には、外部研修への参加の機会も設けることで、最新の知識や他施設の事例を学ぶことができ、おすすめします。
6.まとめ
介護施設における感染症研修は、利用者の健康と生命を守るための重要な取り組みとなります。効果的な研修を実施するためには、基礎知識の習得から実技訓練まで、段階的なカリキュラムを構成するようにします。
法人内での研修企画・実施には多くの時間と労力が必要です。特に人員に余裕のない小規模事業所では、外部の研修サービスやeラーニングプラットフォームを活用することで、質を保ちながら効率的に研修を実施することができます。
重要なのは、研修を単なる義務として終わらせるのではなく、職員一人ひとりの意識改革につなげ、確実な感染症対策が実施できることです。感染症対策が日常業務の中で自然に実践される文化を育み、入居者にとって安全で安心できる施設づくりを実現させましょう。
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