医療的ケア研修とは?内容・対象者・受講メリットをわかりやすく解説

スキルアップ,介護ペディア,介護報酬・加算,介護資格掲載日: 2025.10.15(更新日: 2025.10.15)
医療的ケア研修とは?内容・対象者・受講メリットをわかりやすく解説

介護現場では、喀痰吸引や経管栄養といった医療的ケアを必要とする利用者が年々増加しています。

こうした医療行為を介護職員が実施できるようにする資格の取得を可能にするのが「医療的ケア研修」です。本コラムでは、医療的ケア研修の制度内容、対象者、具体的なカリキュラム、受講するメリット、費用や期間などを詳しく解説します。

1.医療的ケア研修とは

医療的ケアを必要とする高齢者や障害者が増加するなか、介護現場では看護職員だけでなく、普段からケアに携わり、利用者のことをよく知る介護職員も一定の医療行為を実施できる体制が求められるようになりました。この社会的ニーズに応えるために創設されたのが医療的ケア研修制度です。

医療的ケアの定義

医療的ケアとは、日常生活を送る上で必要となる医療行為のうち介護職員等が実施できるものを指し、具体的には、喀痰吸引と経管栄養です。

喀痰吸引は、自力で痰を排出することが困難な方の気道から、チューブを使用して痰を吸引する行為です。口腔内吸引、鼻腔内内吸引、気管カニューレ内部の吸引の3種類があり、呼吸を楽にして誤嚥性肺炎を予防する重要なケアです。しかし、適切に実施されなければ、粘膜損傷や低酸素状態を引き起こすリスクがあるため、正確な知識と技術が求められます。

経管栄養は、口から食事を摂取することが困難な方に対して、チューブを通じて栄養剤を胃や腸に直接注入する手技のことです。注入する部位によって、胃ろう(PEG)、腸ろう、経鼻経管栄養などの種類があります。経管栄養は、栄養状態の維持による生命に直結するケアであり、注入速度の管理や感染予防など細心の注意を払って実施しなければなりません。

介護保険法・障害者総合支援法に基づく研修制度

医療的ケア研修は、2012年4月に施行された「社会福祉士及び介護福祉士法」の改正に基づいて制度化され、介護福祉士と一定の研修を受けた介護職員等は医師の指示のもと、喀痰吸引等の医療的ケアを実施することが法的に認められることになりました。また、この制度の対象は、介護保険法に基づくサービスだけでなく、障害者総合支援法に基づくサービスも含まれます。

法的な位置づけ(介護職員でも実施可能になる背景)

喀痰吸引や経管栄養は医師法により医療行為とされ、医師や看護師等の医療職だけが実施できる行為でした。しかし、我が国における高齢化や医療技術の進歩により、日常的に医療的ケアを必要とする高齢者や障害者が増加したことで、在宅や施設において看護職員のみでは対応することが困難となり、実質的には介護職員が医療的ケアを実施せざるを得ない状況でした。このように、法的な位置づけが不明確でありながら多くの介護施設や在宅等で実施されている課題を解消するため、利用者の安全を確保しながら必要なケアを適切に提供できる体制を整備する必要があり、法改正が行われたという背景があります。

2.医療的ケア研修の種類と内容

認知症研修の目的と法的背景

医療的ケア研修は、「基本研修」と「実地研修」の二段階で構成されています。

介護福祉士実践者研修では、「基本研修」の部分を履修します。
医療的ケアの実施を目的として、資格取得を希望する場合は、別途「実地研修」を受講する必要があります。

基本研修(講義・演習)

基本研修は、医療的ケアを安全に実施するための基礎知識と基本技術を修得する段階です。講義による理論の学習と、演習による技術の練習で構成されています。

講義時間は50時間が標準とされており、法制度と倫理、感染予防と安全管理、健康状態の観察方法を中心に学びます。

喀痰吸引に関する専門知識として、呼吸器の解剖生理や吸引が必要な状態の判断、各吸引方法(口腔・鼻腔・気管カニューレ内部)の特性と実施手順を学び演習に望みます。

経管栄養に関しては、消化器の解剖生理、経管栄養の種類(胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養)とそれぞれの特徴、栄養剤の管理の仕方、実施時の注意点などを習得します。

演習では、講義で学んだ知識を基に、人体シミュレーターを使用して実際の技術を練習します。指導看護師の指導のもと、繰り返し練習を行うことで、確実な手技を身につけていきます。

喀痰吸引の演習では、口腔内吸引、鼻腔内吸引、気管カニューレ内部の吸引それぞれについて、経管栄養の演習では、胃ろう(または腸ろう)と経鼻経管栄養について、各5回以上の実施が必要であり、併せて規定の項目を全てクリア出来ないと演習の修了と認められません。

実地研修

実地研修では、実地研修指導者研修を修了した指導看護師の指導のもと、実際の患者や施設の入所者に対して医療的ケアを行います。

基本研修の演習で使用した人体シミュレーターと実際の人体に対するケアには大きな違いがあります。対象者一人ひとりの身体状況、障害の程度、コミュニケーション能力などはそれぞれ違い、その人に合わせた配慮や工夫が必要です。

また、実地研修では、手技の正確性だけでなく、対象者の状態観察、異常の早期発見、適切な報告と記録など、総合的な実践力が評価されます。対象者の表情や呼吸状態などの変化をも逃さず、必要に応じて速やかに看護職員に報告する判断力も重要です。

喀痰吸引については口腔内10回以上、鼻腔内20回以上、気管カニューレ内部20回以上の実施が必要です。経管栄養については、胃ろうまたは腸ろう20回以上、経鼻経管栄養20回以上の実施が求められます。第一号研修の場合、5つの行為すべて、第二号研修では取得を希望する医療的ケアの項目についての実地研修が必要です。そのため、1日で既定の回数が実施できず、研修が複数日にわたる場合もあります。

3.医療的ケア研修を受けるメリット

医療的ケア研修を受講することは、介護職員、施設運営、利用者にとって多くのメリットをもたらします。

介護職員としてできる業務が広がる

医療的ケア研修をし、所定の手続きをすることで、従来は看護職員でなければできなかった喀痰吸引や経管栄養を、介護職員が実施できるようになります。
利用者のニーズに即座に応えられることで、ケアの質が向上し、介護職員としての自信とやりがいにもつながるでしょう。また、医療的ケアの知識を持つことで看護職員との連携がスムーズになり、チームケアの一員としてより専門的な視点でのケアが可能になります。

医療ニーズが高い利用者の受け入れが可能に

医療的ケアが実施できる職員が複数いることで、受け入れ可能な利用者の幅を広げられることは施設や事業所にとって大きなメリットです。
特別養護老人ホームやグループホームでは、医療依存度の高い入所希望者や施設での看取りが可能になり、住み慣れた環境での生活の継続が可能になります。また、訪問介護では在宅生活を支え、家族の介護負担の軽減に貢献できます。

キャリアアップ・就職での優位性

医療的ケア研修の資格を持つ介護職員は介護業界で高く評価され、就職活動では大きなアピールポイントになります。特に介護施設では、資格手当の支給や、現場でのリーダーや主任への登用でも有利に働くことも多く、介護職員にとって医療的ケアの知識と経験は大きな強みです。

施設としてのサービス提供範囲が拡大

施設経営の観点では、医療的ケア研修修了者の育成がサービス提供範囲の拡大と経営の安定化につながります。24時間体制での安全なケア提供が可能になることで、看護職員の負担の軽減と定着率の向上にも寄与し、「医療的ケアが必要になっても安心して利用できる施設」という信頼感は、利用者や家族、地域の医療機関からの紹介増加につながり、長期的な経営安定化に貢献します。職員のスキルアップを支援する施設として認知されることで、人材確保でも有利に働き、質の高い人材確保と離職率低下という好循環を生み出します。

4.医療的ケア研修の費用・期間・受講方法

医療的ケア研修の費用、期間、受講方法は、研修機関によって条件が異なりますので、自分の状況に合った研修を選びましょう。

費用相場(数万円程度、自治体補助の有無)

医療的ケア研修の受講料は、第一号研修で5万円から10万円程度、第二号研修で4万円から8万円程度、第三号研修で3万円から6万円程度が相場です。受講料には、通常テキスト代や演習時の消耗品代、修了証明書の発行費用が含まれますが、実地研修に関わる費用や交通費は別途必要な場合があります。

受講料は、勤務先の施設が費用を全額または一部負担してくれるケースが増えており、研修費用の全額補助や奨学金制度を設けている施設もあります。

国の助成金制度として、人材開発支援助成金を活用できます。訓練開始前に訓練計画届を労働局に提出するなど、事前の手続きが必要なため、施設の経営者や管理者の方は、最寄りのハローワークや労働局に早めに相談しましょう。

また、自治体独自の支援制度を設けている地域もあります。お住まいの都道府県や市町村の福祉担当部署に問い合わせることで、利用できる制度を確認できます。

期間(座学+演習+実地で数週間~数か月)

第一号研修の場合、通常2か月から6か月程度を要します。基本研修(講義・演習)は50時間あり、集中的に実施する場合は2週間から1か月程度、週末や夜間を利用する場合は1か月から3か月程度かかります。実地研修は、実習先の状況や研修生のスケジュールによって、最短で2週間程度、長い場合は3か月程度かかります。

受講方法(自治体主催、民間研修期間、オンライン対応の可否)

医療的ケア研修は、都道府県に登録された研修機関で受講しなければなりません。都道府県や市町村が主催する研修は受講料が比較的安価ですが、開講回数が限られている場合があります。民間の研修事業者は開講回数が多く、スケジュールの選択肢が豊富です。介護福祉士養成施設や看護学校などの教育機関、社会福祉法人や医療法人が自施設の職員向けに実施する研修もあります。

オンライン対応については、講義部分はeラーニングで実施できる研修機関が増えていますが、演習と実地研修は対面で実施することが法律で定められており、完全オンラインでの修了はできません。

研修機関を選ぶ際は、受講料だけでなく、スケジュールの柔軟性、実地研修のサポート体制、修了後のフォローアップ体制なども含めて、総合的に判断することをお勧めします。

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5.よくある質問

医療的ケア研修について、よくある質問とその回答をまとめました。

医療的ケア研修は義務ですか?

医療的ケア研修は義務ではありません。
介護福祉士実務者研修では、医療的ケアの基礎研修(講義・演習)が必須科目ですが、これだけでは医療的ケアの資格の取得にはなりません。しかし、介護職員が喀痰吸引や経管栄養を実施する場合は、研修の修了が法律で義務付けられており、研修を修了せずにこれらの医療的ケアを実施することは法的に認められていません。

実地研修は必要ですか?

介護福祉士実務者研修の医療的ケア研修では、実地研修は必須ではありません。介護福祉士実務者研修の資格取得後に医療的ケアを実施する予定がない場合は、実地研修は受講する必要はなく、医療的ケアを実施するための資格取得にはなりません。もし、資格取得後に喀痰吸引や経管栄養を実施する場合は、基礎研修の後に実地研修を受講し、「特定行為業務従事者」の認定を受ける必要があります。

介護職員初任者研修との違いは?

介護職員初任者研修と医療的ケア研修は、目的も内容も異なる別の研修です。医療的ケアを実施するために「喀痰吸引等研修」は無資格であっても受講可能ですが、介護の知識や技術を持っていることが望ましいです。そのため、無資格の方が医療的ケアを実施する場合は、介護職員初任者研修を取得後に喀痰吸引等研修を受講するか、介護福祉士実務者研修を受講し、医療的ケアの実地研修を受講することをおすすめします。

更新は必要ですか?

医療的ケア研修後に取得できる「認定特定行為業務従事者」の認定証には有効期限がなく、更新手続きは不要です。

6.まとめ|医療的ケア研修で介護職のキャリアを拡げよう

医療的ケア研修は、介護職員が、喀痰吸引や経管栄養といった医療行為を安全に実施できるようになるための専門研修です。

医療的ケアは、利用者の尊厳を守りながら、その方らしい生活を支えるための重要な専門的スキルです。専門性を高め、より質の高いケアを提供したいと考えている介護職員の皆さんや、職員のスキルアップを通じて施設や事業所の価値を高めたいと考えている経営者・管理者の皆さんにとって、医療的ケア研修への挑戦は、これからの介護現場を支える重要な一歩となるでしょう。

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  • 合同会社カサージュ代表/主任介護支援専門員/
    BCAO認定事業継続管理者/産業ケアマネジャー

    寺岡 純子

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