介護施設の人員配置基準とは?計算方法や介護報酬改定による緩和の内容など徹底解説

介護施設掲載日: 2024.04.18(更新日: 2024.04.18)
3人の介護職員が微笑んでいる様子

高齢化社会が到来して以来、エッセンシャルワーカーと呼ばれる分野は常に人手不足です。介護業界では「介護を必要とする世代の人口」がどんどん増加している一方で、その「担い手」の世代は減少の一途をたどっています。

このような中で、介護施設の人員配置基準は社会の変化に合わせて、定期的に改定が行われています。今回は、介護施設に関する人員配置基準の解説と、実際に働く人へのインタビューをお伝えします。

介護施設の職員配置基準とは?

人員配置基準とは、介護施設の利用者数に応じて配置すべきスタッフ数の基準を指す用語です。

人員配置基準は介護保険法に基づいており、現場で起こりうる想定外のトラブルや万が一事故などが発生しても、早めの発見と迅速な対応ができるよう、最低限の人員配置が設定されています。

しかしながら、この人員配置基準を満たして入れば安心というものではありません。知識や経験、その施設の特性などによって、適切な人員配置は異なります。介護現場では、常に最適化を考えていかなければいけないのです。

施設形態別の人員配置基準

介護施設の人員配置基準は、施設の種類によって配置すべき人材の人数が異なります。介護施設の種類とは、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、デイサービス、訪問介護などがそれにあたります。

ここでいう人員とは、生活全般のサポートや食事や排せつ、入浴、掃除などを担当する「介護職員」、入居者の健康管理を行う「看護職員」、利用者や家族からの相談受付、医療機関との連絡調整などを担当する「生活相談員」、入居者のリハビリをサポートする「機能訓練指導員」、介護ケアプランを作成する「介護支援専門員」などです。

常に議論となっているのが人手不足の問題です。これにより人員配置基準の段階的比率緩和に向かっています。

現在の人員配置基準をしっかり理解し施設を運用することが、今後の改正に向けた対策にもなるでしょう。

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホームでの介護スタッフの配置は、入居者3人につき1人以上で、他にも常勤・専従といった規定が設けられています。介護職員の場合、職員数は常勤換算で、スタッフは原則専従です。ただし業務に支障がない場合に限って、機能訓練指導員などとの兼務が可能となります。

さらに従来型とユニット型を併設している施設の場合、介護スタッフは専従者人員となるので、注意が必要です。

職種人員配置基準
施設管理者1人(社会福祉事業に2年以上従事した者のみ)
介護職員入居者3人につき常勤1人以上
看護職員入居者3人につき常勤1人以上
医師入居者の健康管理や療養上の指導に必要な人数
生活相談員入居者100人につき常勤1人以上
(社会福祉主事、社会福祉事業に 2年以上従事した者のみ)
機能訓練指導員1人以上
栄養士1人以上(入所定員40名未満で一定条件を満たす場合は不要)

介護老人保健施設

介護老人保健施設(老健)とは、主に医療ケアやリハビリを必要とする要介護者が入居できる施設です。

人員配置基準は、介護職員か看護職員が入居者3人に対して1人以上となっており、うち看護職員は7分の2程度を確保する必要があります。特別養護老人ホームと比較して、医療寄りの配置になっています。

職種人員配置基準
施設管理者1人
介護職員または看護職員合計数が入居者3人に対して1人以上、うち看護は7分の2程度を確保
医師常勤1人以上 入居者100人までは1人
支援相談員入居者100人までは1人、それを超えると追加
機能訓練指導員理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のいずれかが入居者100人に対して1人以上
栄養士入居者100人以上の場合、1人以上
介護支援専門員入居者100人までは1人、それを超えると追加

有料老人ホーム

有料老人ホームは要介護者や要支援者など、介護が必要な利用者に向けたサービスを提供する施設です。有料老人ホームには介護型と在宅型があり、それぞれ受け入れられる入居者の基準が異なりますので注意しましょう。

介護付き有料老人ホーム

職種人員配置基準
施設管理者1人
介護職員または看護職員合計数が要介護の入居者3人に対して1人以上
※要支援者は10人に対して1人。看護職員の数は入居者30名までは1人(入居者50名増ごとに1人追加)
生活相談員入居者100人までは1人、それを超えると追加
機能訓練指導員、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士いずれかが1人以上
計画作成担当者入居者100人までは1人、それを超えると追加

住宅型有料老人ホーム

職種人員配置基準
施設管理者1人
介護職員必要数
看護職員必要数
生活相談員必要数
機能訓練指導員なし
介護支援専門員なし

住宅型の有料老人ホームは、ある程度自分のことができる介護度の低い人の利用が想定されているため、人員配置に関する基準は特に設けられていません。施設が提供するサービスに対して、適切な人員配置ができていれば良いとされるためです。

サービス付き高齢者向け住宅

サービス付き高齢者向け住宅は略してサ高住とされ、安否確認などの介護サービスがついた賃貸住宅のことです。

サ高住には2つのタイプがあります。1つは「一般型」といい、介護の必要がない、または要介護度の低い高齢者が住む住宅を指します。食事の提供・介護・家事・健康管理などは行いません。

人員配置基準は「社会福祉法人、医療法人、指定居宅サービス事業所等の職員、医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、介護職員初任者研修を修了した者」のいずれかが1人以上、日中常駐することです。

ただし、利用者の了解を得たうえで、条件を満たせば常駐は不要となります。

もう1つ「介護型」です。こちらは介護サービスを提供しているため、有料老人ホームに該当し、特定施設入居者介護の指定施設です。一般型サ高住の人員基準よりも細かく設定され、中でも状況把握サービス及び生活相談サービスの提供が定められています。

一般型

職種人員配置基準
社会福祉法人、医療法人、指定居宅サービス事業所等の職員、医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、介護職員初任者研修を修了した者日中1人以上

介護型

職種人員配置基準
管理者1人(兼務可)
生活相談員  要介護者等100人に1人
看護・介護職員要支援者10人に1人 要介護者3人に看護・介護職員1人
※看護職員は要介護者等が30人まで1人、30人を超える場合は50人ごとに1人
※夜間帯の職員は1人以上
機能訓練指導員1人以上(兼務可)
計画作成担当者介護支援専門員1人以上(兼務可)
※要介護者等100人1が標準

グループホーム

グループホームは認知症を対象にした少人数の介護施設のことをいい、それに伴って、スタッフも認知症介護に関する知識を有した人員を配置しています。グループホームは原則2ユニットが最大で、1ユニット5~9名とされています。

職種人員配置基準
施設代表者1人(認知症の介護従事経験者のみ)※厚生労働省が定める認知症対応型サービス事業開設者研修を修了していること
施設管理者1ユニット(5~9人)ごとに1人(3年以上の認知症介護従事経験者のみ)※厚生労働大臣が定める研修を修了した者が常勤専従
介護職員 入居者3人に対し1人以上
計画作成担当者ユニットごとに1人(最低1人は介護支援専門員)

デイサービス

デイサービスとは要介護状態の利用者が通い、入浴、排せつ、食事などといったケアや機能訓練を行い、生活機能の維持や向上を目指す日帰りのサービスを行う通所介護の施設です。利用者が10名以上のデイサービスに関して人員配置基準が設けられています。

職種人員配置基準
施設管理者1人
介護職員利用者15人までは1人以上
(利用者16人以上の場合、15名を超える分を5で割った数+1人)
看護職員1人以上
生活相談員1人以上
機能訓練指導員1人以上

訪問介護

訪問介護は、要介護1以上の認定を受けている利用者を対象に、ヘルパーが生活援助や身体介護などを行う施設です。

職種人員配置基準
訪問介護員常勤換算で2.5人以上
管理者常勤で1人
サービス提供責任者訪問介護員等のうち、利用者の数40人に対して1人以上(原則として常勤専従だが、一部非常勤職員でも可)
※以下の要件をすべて満たす場合には、利用者50人につき1人
①常勤のサービス提供責任者を3人以上配置
②サービス提供責任者の業務に主として従事する者を1人以上配置
③サービス提供責任者が行う業務が効率的に行われている場合

なお、訪問介護における常勤管理者は管理職務に従事する役職ですが、業務に支障がなければサービス提供責任者との兼任が可能です。

介護施設における人員配置の計算方法と注意点

先述した通り、人員配置の人員とは、基本的に常勤のスタッフとして計算されています。非常勤のスタッフに関しては、「その働き方を常勤として考えた場合」という計算をします。これが常勤換算です。

常勤換算の方法

常勤の職員の数+(非常勤職員の労働時間の合計÷常勤の職員の勤務するべき時間)=常勤換算人数

以下のパターンで計算してみましょう。

常勤スタッフA週50時間勤務
常勤スタッフB週50時間勤務
非常勤スタッフC週20時間勤務

これを式に当てはめると、2人+(20時間÷50時間)=2.4人

ここで出てきた数値がその施設の常勤換算人数となります。

常勤換算の注意点

介護施設では、常勤従業員とは別に非常勤の従業員も数多く働いています。人員配置に関しては、常勤を基準としているので、ただ単純に「スタッフの数を人員配置基準に合わせればいい」というものではありません。

そこで、すべてのスタッフを平準化するために、非常勤のスタッフは常勤のスタッフ1人あたりの仕事量に換算されたうえで計算されます。これを常勤換算といいます。介護施設で働くスタッフの平均人数を指す用語のひとつです。

常勤換算には、常勤と非常勤で休暇や兼務の扱い方が異なることを念頭に入れなければといけません。

有給休暇や出張は常勤のスタッフだと条件次第では勤務時間に含まれますが、非常勤は勤務時間に含まれません。

また、育児休暇や産後休暇は常勤のスタッフでも常勤換算には含まれません。しかし、就業規則で時短勤務の勤務時間が定められていたり、週30時間以上の時短勤務があったりする場合は常勤のスタッフとして計算できます。

複数の施設で兼務をしているスタッフも増えていますが、こういった場合も計算方法が複雑になりますので、あらかじめ確認が必要でしょう。

介護施設の人員配置基準は、入居者に良質なケアを提供する目的で義務付けられています。要介護状態であっても入居者が快適に生活できることに主眼が置かれているため、基準を満たさない場合は「入居者により良いサービスを提供できない」と判断されることになります。時には、介護施設に対して行政処分が行われることがあります。

6年以内に1度行われる施設の実施指導の際に、人員配置基準の違反が疑われた場合、行政から監査が入ります。そこで違反があると判断されると、事業の一時停止、新規入居者の受け入れ禁止、減算、指定取り消しなどの処分が下されます。

特に介護事業者の指定取り消しは非常に厳しい措置です。介護事業を行うには、都道府県知事からの指定が必要であり、一度取り消されると、再度の指定を受けるまでには5~10年の期間を要します。

事業停止はそこで働くスタッフの生活はもちろん、入居者にも多大な迷惑となります。人員確保と正しい常勤換算に注意をしていきましょう。

令和6年度介護報酬改定における人員配置基準緩和の内容

介護報酬は、現状に合わせて定期的に見直しを行ってきました。令和6年度は見直し、改定の年度になります。今回の改定における人員配置基準緩和の変更点は以下の通りです。

  • 外国人介護職員の人員配置基準の緩和
  • ローカルルールにおける人員基準緩和
  • 夜間の人員配置における緩和
  • 居宅介護支援における人員配置基準の緩和
  • 個別機能訓練加算の人員配置要件の緩和
  • 両立支援への配慮に伴う人員配置基準の緩和
  • 兼務範囲とテレワークに関する人員配置基準緩和

人口減少に伴い、介護の担い手世代も少なくなっています。。これまでも人手不足は介護現場の大きな課題でした。そこで「いかに少ない介護関連人員で、質の高い介護サービスを提供していくか」ということに主眼を置き、人員配置基準も緩和する方向に向かっています。

また、介護ロボットやICT(情報通信技術)など、テクノロジーの活用が必要不可欠となってきています。たとえば、介護老人保健施設とグループホームや特定施設(ユニット型を除く介護保険施設)における人員配置基準の深夜帯の緩和要件では、全利用者に見守りセンサーの導入や夜間職員全員のインカム着用など、ICTの使用が義務付けられています。この要件を満たした場合に限り、1日当たりの配置人員数が現行の2人以上から1.6人以上に緩和されることとなります。

また居宅介護支援では、利用者数のうち要支援者の数については、要支援者の人数×2分の1の換算となっていましたが、改定後は3分の1での換算となります。さらに介護支援専門員1人当たりの取り扱い件数が、35から44に変わります。

加えて、指定居宅介護事業所がケアプランデータ連携システムを利用したうえで事務職員を配置している場合には、介護支援専門員1人当たりの利用者数を49まで増やすことが可能になりました。

ICTなどの利用がどのくらい現場に即したものになるのか、現場スタッフの負担の軽減につながるのか、まだまだ見えない部分もあります。人員配置基準については、定期的に見直していく状況が今後も続きそうです。

参照:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について

介護現場の現状と改定の受け止め方について

介護現場からは常に「スタッフが足りない」という声を聞きます。そんな中で今回の人員配置基準の緩和に関して、実際に介護サービスを提供しているスタッフはどう見ているのでしょうか。

介護ヘルパーとして在宅介護に7年間関わった後、現在デイサービス施設に勤務するAさんと、介護福祉士として特別養護老人ホームに勤務し、その後介護支援専門員となったBさんに話を聞きました。

Aさん

在宅介護で働いているときは、1日に何件も回らなければならず、利用者としっかり向かい合えた実感を得るまでに経験が必要でした。もう少しじっくり話を聞いてあげられたら、要介護者の状態もより詳細に把握できるのではないかと感じることもありました。

経験を積むにしたがって、自分なりに効率的に動けるようになりましたが、それでも時間に追われ、「十分にサービスが提供できた」と感じたことはあまりありませんでした。

現在はデイサービスに移動し、たくさんの利用者がいる中でスペースや担当をやりくりすることで、なんとかトラブルもなく過ごせています。ただ、介護スタッフの連携には申し送りなどでは伝えきれないものがあり、経験の少ないスタッフが複数いる場合、人員が基準を満たしていても機能できない場合もあるのです。

常に人手不足で、それを肯定するような改正は不安しかありませんが、利用者のためには今まで以上に視野を広げるしかないのでしょう。正直不安が大きいですね。

Bさん

介護福祉士として施設で介護を行っているときも、現場スタッフの負担は重いと感じていました。国家資格を有しているといっても、福祉系大学を卒業してそのまま資格を取得したため、他のスタッフよりも圧倒的に現場経験が足りませんでした。

頭で分かっていても、現状対応ができないのです。学習したことと現場で起こることの違いに、毎日不安を抱えながらの長時間労働です。大学の同期でも何人も離職しています。

やはり人手不足による負担は大きいです。資格を取るために学んだことなどを現場で利用したくてもなかなかできない。私の場合は、先輩たちが職場でもフォローアップしてくれたので続けられましたし、介護支援専門員の勉強をする時間も確保できました。恵まれた職場でした。

介護支援専門員となったときも、現場の経験を生かして利用者にもスタッフにもあまり負担をかけずに済むプランを提供したいと考えていたのですが、実際はそのような余裕はありません。毎月のように新しい方が加わっていきます。

今後、データ連携や専属事務員さんがつくという話ですが、それで現場が楽になるとは思えません。これ以上担当の利用者さんが増える中で、適切なプランが考えられるのかと不安が残ります。そこは経験で切り抜けるしかないのでしょうね・・・。

人員配置基準の緩和によってサービスの質が下がることは絶対に避けなければいけないことです。スタッフもそれは理解していて、だからこそスタッフの負担増を心配しているのです。

ここで話を聞いたお二人は「経験を積むことである程度乗り越えられる」と話しますが、経験の浅いスタッフが混乱しないよう、フォローするシステム作りも必要でしょう。

まとめ

少子高齢化が進み始めて長い時間が経ちました。医療や食事などの改善によって、平均寿命が飛躍的に伸びる一方で、介護の担い手は減っていく一方です。

どんな業界でも今や人手不足。そんな中で肉体的にも精神的もきつい仕事と言われる介護業界ですが、以前は高かった離職率も徐々に下がってきています。

とはいえ、慢性的な人手不足が解消したわけではありません。人員配置基準の緩和に関しても、ただ緩和していくというだけではなく、外国人の登用やテクノロジーの利用など、代替できる可能性もしっかり含んでいます。

現場の生の声として重視されているのが「経験」の有無。この貴重な経験を必要なところに配置し、代替で可能なところは変えていく、といった能力配置が今後広がっていくことでしょう。

  • 株式会社MAST代表取締役

    岩見 俊哉

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