介護現場における多職種連携とは?その重要性とポイントについて詳しく解説

介護施設掲載日: 2025.02.12(更新日: 2025.02.12)
介護施設で勤務するスタッフたち

介護現場では、利用者一人ひとりの生活を支えるために、さまざまな専門職が関わっています。そのため、質の高いケアの提供には多職種連携が円滑に行われることが不可欠です。

本コラムでは、多職種連携の概要や重要性、関わる職種、連携による効果、実践のポイントなどについて詳しく解説します。

介護現場における多職種連携とは?

介護現場における多職種連携とは、介護職員、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、薬剤師、社会福祉士、ケアマネジャーなどが、それぞれの専門性を活かしながら協力し、利用者の生活や健康を支え、最適なケアを実施する体制のことです。

介護の現場では、利用者の状態やニーズが多岐にわたり、一つの職種だけでは適切に対応できないことが多くあります。例えば、施設に入所している利用者に対しては、以下のような職種が関わります。

  • 医師…定期的な診察や必要な処方
  • 看護師…日々の健康管理や服薬管理
  • 介護職員…日常生活の支援
  • 管理栄養士…適切な食事内容の考案
  • 理学療法士や作業療法士…身体機能の維持・向上

このように、様々な職種が専門性を活かして、利用者を支援しています。

また、在宅介護の場合でも多職種の連携が不可欠です。

  • 訪問介護員…日々の生活援助
  • 看護師…健康管理
  • リハビリ職…身体機能の維持をサポート
  • ケアマネジャー…適切なサービスを調整

このようにして、利用者が自宅で安全に生活を続けられるよう支援します。特に、訪問系サービスでは一人で訪問しサービス提供することがほとんどです。そのため、訪問時に気付いたことや、ご本人・家族から得た情報を速やかに共有する必要があります。

多職種連携の目的は、単なる介護の提供にとどまらず、利用者の生活の質(QOL)を向上させることです。身体機能の維持・向上、精神的な安定、社会的なつながりの維持など、多角的な視点で支援を行えるよう、各職種が互いの役割を理解し、適切に情報共有を行いながら、協力して支援を行うことが重要です。      

多職種連携の重要性

介護現場での多職種連携は、利用者に適切なケアを提供し、円滑な支援を行うために必要不可欠です。介護や医療の現場では、利用者の健康状態や身体の状況が日々変化することがあり、介護職員だけでは十分な対応が出来ません。各専門職間で十分な連携ができないと、情報の共有が不十分となり、必要な支援が適切なタイミングで提供できないリスクが起こりえます。

それだけでなく、多職種連携ができてないと、利用者の変化に気が付く機会を逃すことで早期対応が遅れ、身体機能の低下や健康状態の悪化を招く要因になりかねません。それぞれの職種で連携がないと、支援の方向にずれが生じ、利用者にとって最適なケアが提供されない危険性も考えられます。

情報共有の不足によって適切なサービスの調整がされない場合、必要以上の過剰な介入や支援の不足といった問題が発生するだけでなく、職種間の連携が取れないことでケアの重複や責任の不明確さが生じる恐れがあります。

また、利用者の意向が適切に反映されないことも、多職種連携が不足することによる課題として挙げられます。利用者の意思に基づいたケアの方針でない場合、利用者の希望に沿わない支援が行われることになり、満足度の低下や生活の質の低下につながる可能性があります。

このように、多職種連携が不足すると、利用者の健康や生活に悪影響を及ぼすだけでなく、職員の負担の増加やサービスの質の低下を引き起こす可能性があります。介護現場で多職種が適切に連携し、情報共有を行いながら支援を進めることが、利用者にとってもサービスを提供する側にとっても重要であると言えます。

多職種連携に関わる職種

介護現場における多職種連携では、それぞれの専門分野を持つ職種が協力し合い、役割分担をしながら支援を行うことが重要です。多職種連携に関わる主要な職種とその役割について見ていきましょう。

1. 介護職員

介護職員は、利用者の日常生活を支援する中心的な役割を担い、食事や入浴、排せつの介助、移動支援、着替えの補助、口腔ケアなど、利用者の身体的なケアを行います。また、認知症のある利用者に対しては、安心して過ごせる環境を整え、生活リズムを整えるための支援も行います。

さらに、介護職員は利用者と最も長い時間を共にするため、小さな体調変化や心理的な変化にも気づきやすい立場にあります。そのため、介護職員の観察力と報告は、多職種連携を円滑に進めるために不可欠な要素となります。

訪問介護では、訪問介護員とサービス提供責任者の連携も重要になります。

2. 看護師

看護師は、利用者の健康管理を担当し、医療的ケアを提供する役割を担います。バイタルサイン(血圧、脈拍、体温など)の測定を行い、利用者の健康状態を日々観察します。また、医師の指示のもとで処置や投薬管理を行い、利用者が適切な医療を受けられるようサポートします。

また、急変時の対応や介護職員や家族への健康管理の指導も看護師の重要な役割です。このように、看護師は、医療と介護の橋渡し役として、多職種連携の中で中心的な役割を果たしています。

3. 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士

リハビリ専門職である理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)は、利用者の身体機能や認知機能の向上を支援します。それぞれの役割は以下の通りです。

・理学療法士(PT):歩行訓練や関節可動域の維持・改善を目的とした運動療法を行い、転倒予防や自立支援をサポートします。

・作業療法士(OT):日常生活動作(ADL)の向上を目的に、着替えや食事動作などの訓練を行い、生活の質を向上させます。

・言語聴覚士(ST):嚥下(えんげ)機能の低下がある利用者に対し、誤嚥(ごえん)を防ぐためのトレーニングや、コミュニケーション支援を行います。

4. 医師

医師は、診察や治療方針の決定を行い、適切な医療を提供します。また、病気や持病の管理、急変時の対応を行い、必要に応じて入院や専門的な治療へとつなげます。

5.相談員

入所施設や通所系サービスの生活相談員や医療ソーシャルワーカーなどは、利用者や家族の意向を尊重しながら、適切な支援につなげる調整役として重要な役割を担っています。利用者の生活や介護に関する悩みを把握し、必要な情報提供や助言を行うことで、不安を解消しながら円滑に支援できるようにするだけでなく、利用者の意思決定を支援し、必要なサポートを行います。このように、相談員は多職種とご本人・家族との橋渡し役となります。

6. ケアマネジャー

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、利用者に最適な介護サービスを調整する役割を担います。利用者の状況やニーズを把握したうえでケアプランを作成します。

ケアマネジャーは、多職種との調整役としても重要な存在です。例えば、利用者の健康状態が変化した際には、看護師や医師と相談しながら、必要な介護サービスの見直しを行います。また、家族とも連携し、在宅介護の支援策を提案することもあります。

7. 管理栄養士

管理栄養士は、利用者の栄養管理を担当し、適切な食事を提供することで健康維持をサポートします。特に、高齢者は低栄養や誤嚥のリスクが高いため、個々の状態に応じた栄養計画を立てることが重要です。

また、管理栄養士は、食事だけでなく水分補給の重要性についても指導を行い、脱水症状を防ぐための対策を講じることもあります。介護職員や看護師と協力しながら、食事の提供方法や摂取状況を確認し、利用者にとって最適な栄養管理を実現します。

このように、多職種が連携することで、利用者一人ひとりに適したケアを提供し、生活の質を向上させることが可能になります。それぞれの職種が持つ専門性を活かしながら、チームとして協働することが、介護の現場において非常に重要なポイントと言えるでしょう。

多職種連携の効果

介護現場において、多職種が連携することは、利用者にとって以下のようなメリットをもたらします。それぞれの専門職が持つ知識や技術を組み合わせることで、より質の高いケアを提供できるだけでなく、介護事故のリスクを減らし、家族との信頼関係を築くことにもつながります。

  1. 利用者のQOLの向上
    多職種が連携することで、利用者の身体的・精神的な健康を総合的にサポートすることができます。
  2. 介護の質の向上
    各職種が情報を共有しながら連携することで、より個別性の高いケアプランの作成が可能になります。
  3. 介護事故のリスク低減
    介護現場には、転倒、誤薬、誤嚥、感染症など、さまざまなリスクが存在します。多職種が連携し、それぞれの専門知識を活かした情報共有を円滑に行うことで、これらの事故を未然に防ぎ、利用者が安心して生活できる環境の整備ができます。
  4. 家族との信頼関係の向上
    家族にとって、要介護者の健康状態や日常生活の様子が把握しづらいことは、大きな不安要素となります。しかし、多職種が連携し、適切な情報共有を行うことができると、家族の不安を軽減することができます。こうすることで安心して介護を任せられる関係性が構築でき、利用者と家族の両方にとってより良い介護につながります。
  5. 地域包括ケアの推進
    わが国では、高齢化が進む中で、在宅医療・介護を支える体制の整備が急務とされています。多職種連携は、地域包括ケアシステムにおいて必要なサービスを途切れることなく提供し、利用者が住み慣れた地域で自分らしく生活するために重要な位置づけを担っています。

多職種連携のポイントとは

多職種連携では、各職種が異なる視点を持ち、それぞれ大事にしているポイントが異なるため、共通の理解を得るのが困難なことがあります。また、複数の事業所や組織がサービス提供を実施する場合、情報共有の困難さが課題になることがあります。

多職種連携を成功させるためには、各職種がそれぞれの専門性を活かしつつ、スムーズに協力できる環境を整えることが重要です。

ここでは、多職種連携を効果的に行うための具体的なポイントについて解説します。

情報共有の徹底

多職種連携において最も重要なのが、情報の適切な共有です。利用者の健康状態や日々のケア内容に関する情報を、職種を超えてスムーズに共有することで、より統合的な支援が可能になります。

例えば、介護職員が「最近、利用者の食事量が減ってきている」と気づき、それを看護師や管理栄養士に速やかに伝えるとします。すると、管理栄養士が栄養バランスを見直し、言語聴覚士(ST)が嚥下機能の評価を行うことができます。また、食事内容の変更やリハビリの介入ができるように、ケアマネジャーがケアプランを見直すことにつながります。

定期的な会議の実施

多職種が円滑に連携するためには、定期的なカンファレンスやミーティングを実施し、意見交換を活発に行うことが有効です。

介護現場では、利用者の状態が日々変化するため、関係者間で定期的に情報を共有し、ケアの方針を見直すことが不可欠です。例えば、月に1回の定例カンファレンスを設け、医師、看護師、介護職員、リハビリ職、ケアマネジャー、管理栄養士などが利用者ごとの状況を報告し合うことで、最適なケアプランに修正することができます。

役割分担の明確化

多職種連携を円滑に進めるためには、それぞれの職種の役割を明確にし、責任の所在をはっきりさせることが重要です。役割分担が明確になっていないと、業務の重複や責任の押し付け合いが発生し、連携がうまくいかなくなる可能性があります。そのため、職種ごとの業務範囲を明確にし、チーム全体で共通認識を持つことが重要です。

利用者・家族との連携

多職種連携は、専門職間だけでなく、利用者やその家族との連携も重要です。利用者本人の希望や家族の意向を尊重しながらケアを行うことで、より満足度の高いサービスを提供することができます。頻回に面会することが難しい家族には、定期的に電話などを通じて、近況をお伝えし、不安に感じていることはないかなどを聞く機会を持ちましょう。

多職種連携を行う時の注意点

多職種連携を円滑に進めるためには、各職種が協力し合いながらも、連携における課題やリスクを理解し、適切に対応することが重要です。ここでは、多職種連携を行う際に注意すべきポイントと具体策について解説します。

情報共有の質と正確性を確保する

情報共有は多職種連携の基本ですが、情報が不十分だったり、誤った内容が伝わったりすると、利用者へのケアに影響を及ぼす可能性があります。そのため、以下の点に注意が必要です。

主観的な情報ではなく、客観的な事実を共有する

例えば、「利用者の調子が悪そう」ではなく、「食事量がいつもの半分になった」「歩行時にふらつきが見られる」といった具体的な情報を伝えることで、他職種が適切な判断をしやすくなります。

情報の伝達ミスを防ぐために統一した記録を活用する

口頭での申し送りだけでは伝達漏れが起こる可能性があるため、電子カルテや介護記録など、全職種がアクセスできるシステムを活用して記録し、情報を統一することが重要です。

職種間のコミュニケーションを円滑にする

多職種が関わる現場では、それぞれの職種が異なる専門知識や考え方を持っているため、コミュニケーションのズレが生じることがあります。

専門用語をわかりやすく伝える

医師や看護師、リハビリ専門職は、専門的な医療用語を使用しがちですが、介護職員や家族には理解しにくいこともあります。そのため、相手が理解しやすい言葉に置き換えて説明し、不明なところはないかを確認することが大切です。

意見を尊重し、否定的な態度をとらない

介護職員が報告した内容に、医師や看護師が詳細を聞くことなく「特に問題ない」と決めつけると、重要な変化を見逃す可能性があります。どの職種の意見も尊重し、意見を交換する姿勢を持ち、相手の意見を否定するときには納得できる説明をすることが大切です。

利用者・家族の意向を十分に反映する

多職種連携では、専門職同士の連携だけでなく、利用者本人や家族の意向をしっかりと把握し、それをケアプランに反映することが重要です。

利用者や家族の意向を確認する機会を設ける

例えば、医師が治療方針を決定する際や、ケアマネジャーがケアプランを作成する際に、利用者や家族の希望をしっかりと聞く機会を設けることが大切です。また、ご本人が心身の状態の変化に対し、どのような生き方を望んでいるのかを聞き取り話し合う機会を持つことも重要です。

ご本人以外の意見だけで決定しない

利用者が「できる限り自宅で生活したい」と希望しているのに、家族や専門職だけの判断で施設入所を勧めるようなケースは避けるべきです。利用者の意思を尊重し、最適な支援を行うことが求められます。

カンファレンスを形骸化しない

定期的なカンファレンスを実施し、多職種間での情報共有や意見交換を行うことが、多職種連携の成功につながります。しかし、カンファレンスが形骸化し、意見が十分に出されない場合もあります。カンファレンスの進行役は有意義な議論がされるようにしなければなりません。

•議題を明確にし、参加者全員が意見を出せる環境を作る

例えば、「Aさんの食事量が減っている」「夜間のBさんの転倒リスクが高い」というように具体的な議題を設定し、それぞれの職種がどのようなアプローチをすべきか話し合う場を設けます。

結論を明確にし、具体的な対応策を決定する

カンファレンスでは、情報共有ができたということで終わるのではなく、「食事形態を変更する」「1週間後に再評価する」など、具体的なアクションを決めることが重要です。

よくある質問

緊急時に迅速に情報共有を行うツールを教えてください。

緊急時に迅速に情報を共有するためには、各職種間で記録の統一や電子カルテの活用、連絡手段の整備などが挙げられます。

施設介護では、利用者ごとのケア記録を共通システムで管理し、全職種がアクセスできるようにすることが有用です。また、カンファレンスや申し送りの時間を設け、口頭でも情報交換を行うと、重要な情報が共有できます。

在宅介護では、記録のシステムを統一することは難しいので、チャットツールやアプリを活用し、リアルタイムでの情報共有ができるように工夫すると良いでしょう。

施設での定期的な会議ではどのようなことを話し合うのか、具体的な実施方法を教えてください。

以下のように定期的な会議を実施することで、情報の共有がスムーズになり、チーム全体で統一したケアを提供することが可能になります。

  • 週1回のショートミーティングで、日々のケアの確認を行う。
  • 月1回のカンファレンスで、利用者ごとのケアの方針やサービス内容を見直す。
  • 状況の変化があった際に臨時のミーティングを行い、緊急時の対応策を決定する。

まとめ

介護現場における多職種連携は、利用者に最適なケアを提供し、生活の質(QOL)を向上させるために欠かせません。介護職員、看護師、リハビリ専門職、医師、ケアマネジャー、管理栄養士など、各専門職が連携し、それぞれの知識や技術を活かすことで、利用者の健康維持や生活の支援を包括的に行うことが可能になります。

多職種連携を円滑に進めるためには、職種間のコミュニケーションを活発にし、互いの専門性を尊重しながら協力していくことが不可欠です。 介護現場において、より質の高いサービスを提供するために、日々の連携を意識しながら実践していきましょう。

  • 合同会社カサージュ代表/主任介護支援専門員/
    BCAO認定事業継続管理者/産業ケアマネジャー

    寺岡 純子

    経歴詳細を見る

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