外国人介護人材の受け入れ|現状や課題について解説
日本のさまざまな業界で人手不足が叫ばれています。そのなかでも特に深刻なのが介護業界です。日本は2025年に団塊の世代が75歳を迎えます。これは国民のおよそ5人に1人が後期高齢者となる計算で、ますます介護業界において人材の確保が必須となります。
しかし、介護業界は一般的に給与水準が低く、体力的にもハードなどの印象があり、人材確保が難しい事業所も存在します。そこで期待されているのが、外国人の介護業界への受け入れです。今回は外国人の介護人材に関して、現状や課題を紹介します。
外国人介護職員の受け入れ状況
日本の介護業界で外国人介護職員の受け入れが進む背景は、人手不足と高齢化に伴う需要増加です。人手不足であっても、高品質かつ適切な介護サービスを提供するため、外国人介護人材の受け入れが必要となっています。特定技能ビザの導入や多様性強化が目指され、介護施設などで外国人介護職員が活躍するケースが増加しています。
日本において、外国人が介護現場で働くには在留資格が必要です。一口に在留資格と言っても、EPA介護福祉士候補者・在留資格「介護」・技能実習・特定技能の4つに区分されます。厚生労働省がおこなった統計では、2023年時点の介護分野で働く外国人の在留者数は約4万人となっています。
参照:厚生労働省「介護分野における外国人の受入実績等」
以下4つのどの在留資格でも取得要件があります。
- EPA介護福祉士候補者
- 在留資格「介護」
- 技能実習
- 特定技能費用
EPA介護福祉士候補者
EPA介護福祉士候補者は、EPA(経済連携協定)に基づき、介護施設で就労と研修をしつつ介護福祉士取得を目指す外国人を指します。2008年から全国の介護施設で受け入れを開始、2023年1月1日時点で、受け入れ実績は約3,260人。老健や特養、グループホームなどさまざまな施設で受け入れが可能です。
一方で、EPAは即戦力になる実力が必要で、入国対象者への条件が厳しく、受け入れ人数の制限も。事業者は候補生しか採用できず、負担する費用も比較的高価なのが難点です。
在留資格「介護」
在留資格「介護」は、介護福祉士養成校を卒業し、すでに介護福祉士を取得している人が該当します。日本語能力、知識や技術が一定水準あるので、即戦力として期待されます。しかし、この在留資格「介護」を持つ外国人の数は、2022年6月末時点で5,340人ほどです。
技能実習
技能実習は人材育成による、発展途上国への技術提供が目的の在留資格です。受け入れには、詳細な要件が定められています。在留者数は2022年6月末時点で約15,000人となっています。
特定技能
特定技能は、日本における労働力確保のための在留資格です。介護分野での在留者数は、2023年1月末の速報値で17,070人ほどです。2024年3月までに6万人の受け入れを目指しています。
参照:厚生労働省「介護分野における外国人の受入実績等」
在留資格により可能な作業が異なる
外国人介護職員の在留資格は4つですが、それぞれできる作業が異なります。施設で外国人介護職員に、どの作業についてもらいたいかを明確にする必要があります。資格ごとに就業可能な作業を知っておきましょう。
EPA介護福祉士候補者
日本での介護福祉士資格の取得を目的とするのが、EPA介護福祉候補者です。EPAとは経済交流や連携のために結ぶ協定で、2018年時点で18か国と結びついています。介護福祉士試験に合格した場合は永続的に働くことができますが、4年間以内に試験に受からない場合は、帰国しなければなりません。勤務時間中に学習時間の提供を含めた、介護福祉士資格取得のためのサポートが必要です。
EPA介護福祉士候補者は、単独での夜勤や服薬介助はできません。
在留資格「介護」
国家資格の介護福祉士を持っているということもあり、単独での夜勤や服薬介助が可能です。加えて、施設形態の制限もありません。即戦力として期待できますが、介護福祉士の国家試験合格のハードルの高さから該当する外国人は多くなく、採用は難しいでしょう。
技能実習
就労を目的とせず、あくまで自国への技術や知識を移転するための在留資格のため、単独での夜勤は不可です。服薬介助や訪問系サービスの従事もできません。日本語能力試験は、N4~N3程度のレベルで、滞在期間は最長5年です。
特定技能
就労が目的の在留資格なので、夜勤はひとりで対応可能です。服薬介助も可能ですが、訪問系サービスに従事はできません。最長5年間滞在できます。特定技能を取得するためには、介護技能評価試験・介護日本語評価試験への合格が条件です。さらに国際交流基金基礎テスト合格か日本語能力試験N4以上の保持が必要です。
外国人介護職員に関する課題と解決策
外国人介護職員を受け入れたいと考えているものの、言葉の壁や生活習慣の違いなどの問題もあって躊躇する施設も多いかもしれません。外国人の介護職員を受け入れるにあたって、課題としては大きく分けて以下の4つが挙げられます。
- 言葉の壁
- 費用の問題
- 定着率
- 受け手の抵抗感
それぞれの視点ごとに、ポイントと解決策について見ていきましょう。
言葉の壁
当然ながら、外国人を受け入れる際に一番ネックになるのが、言葉の問題です。介護に関する専門用語が理解できなければ、業務にも支障が出てしまいます。そうなると、介護を受ける高齢者や同僚の日本人スタッフとのコミュニケーション不足に繋がり、円滑な介護の提供ができなくなる恐れも。
それでは、具体的にどのような対策をとれば、外国人介護職員と言葉の壁にぶつからずに済むのでしょうか。
外国人介護職員の日本語能力を知る
外国人の日本語能力を図る指標として、日本語能力試験があります。レベルはN1~N5の5つあり、N1が最も難しくN5が最も易しいレベルです。このレベルは在留資格にも用いられ、レベルに達していないと資格取得できない場合もあります。外国人介護職員の日本語能力を確認し、理解できること・できないことを認識することが、相互理解の第一歩です。
絵や写真などを交えてコミュニケーションを図る
専門用語や熟練した知識が必要になる場面も多い介護業界において、言葉だけで教えるのは難しいケースも多いでしょう。絵や写真、動画など、言葉以外のコミュニケーションツールも積極的に活用したほうが円滑に進む場合もあります。
曖昧な言葉は避ける
日本人が使いがちな言葉に「大丈夫」があります。外国人からすると、「YES」なのか「NO」なのか、分からず戸惑うことも。日本人が行いがちな「文脈の前後を読み取る」「その場の雰囲気で判断する」などは難しいので、「YES」なのか「NO」なのかはっきりとした表現を心がけることが必要です。曖昧な表現での意思疎通は、事故やクレームにつながることもあります。
費用の問題
外国人介護職員を行け入れるにあたって、気になるのが費用の問題です。居住場所の確保、生活用品の支給、管理団体への依頼料など、日本人を雇うよりも割高になるのは否めません。こうした費用の問題にあたって、国や地方公共団体が補助金や助成金でサポートを行っています。一例をご紹介しますので、参考にしてください。
厚労省の「人材開発支援援助成金」
介護分野に限った助成金ではありませんが、条件を満たすことで助成金を受けることが可能です。
>>詳しくはこちら
埼玉県の「外国人介護職員が長く働ける、魅力ある埼玉介護の促進補助金」
施設への補助を行っています。対象者は、留学生や、技能実習生、1号特定技能外国人です。
>>詳しくはこちら
定着性
介護業界は、低賃金や体力勝負なところがネックとなり、職員が定着しにくいという面があります。外国人介護職員をせっかく雇っても、すぐ辞めてしまっては、困りますよね。定着率を上げるにはどのようなことが必要なのでしょうか。
満足できる就労条件を提示する
日本人スタッフと同様に、明確な就労条件にすることで、仕事に対しての責任感を持って働いてもらいやすくなります。
就労における支援を手厚くする
日本語の能力を上げるための講習会や、スキルアップのためのフォローを行うことで、作業効率も上がることでしょう。また定期的に困りごとなどをヒアリングする機会などを設けることで、意思疎通のすれ違いなどを防ぎ、定着に繋げることができます。
受け手の抵抗感
いくら制度があるからといっても、介護を受ける利用者や、一緒に働く同僚らが、抵抗感なく受け入れられるかどうかはまた別の問題です。手厚いサポートが必要であると外国人介護職員ばかりに目を向けていたら、日本人スタッフに負担がかかります。さらに利用者の中には、外国人というだけで壁を作ってしまう方もいるかもしれません。その対処法を見てみましょう。
利用者や日本人スタッフへ向けての説明
外国人介護職員を受け入れる際に、注意事項や起こりうる事態などを丁寧に説明することが大切です。国柄によって常識なども違いのあるケースもあるので、事前の学習機会なども必要となります。
また、利用者には、どのような人が来るのかも含め、詳細を伝えることも必要でしょう。
日本人と公平な扱いをする
外国人介護士だからと言って、特別待遇や、腫れ物のような扱いをするのではなく、日本人介護士と公平に扱うことも重要です。
他の業界の成功事例から学ぶ
日本においては、介護業界のみならず、建設業、製造業といった分野でも、外国人労働者が増えています。外国人がどのように活躍できているのか、他の業界の外国人職員の成功例を見てみましょう。
観光業界
新型コロナウイルスが落ち着き、外国人観光客が戻りつつある日本において、外国人の職員がいることで強みとなるのが観光業界です。観光地にあるホテルや飲食店のスタッフ、現地を案内する添乗員、ドライバーなど、旅行会社では重宝される存在になっています。
情報通信業
情報通信の分野において、外国人の活躍が目覚ましく、社内規定で英語が使用されている会社もあるほどです。グローバルな発展を目指す会社にとって、外国人の存在は強みになります。
外国人介護職員の採用方法
介護業界で外国人介護職員を採用したいと考えた際に、受け入れる側はどのような採用活動をすればよいのでしょうか。日本で外国人を採用する際には、在留資格によってその方法が異なります。以下にそれぞれの採用方法をまとめましたので、ご覧ください。
EPA介護福祉士候補者
EPA介護福祉士候補者は、介護福祉士の取得を目指す外国人のビザです。現在日本では、インドネシアやフィリピンなどの国から、人材の受け入れを行っています。就労が目的のビザではありませんが、国家試験に合格した際には、在留資格の変更が可能な点も注目されています。受け入れまでの簡単な流れは下記のようになります。
- JICWELSへ求人申請
- JICWELSが受入れ希望機関の確認
- 求人登録が認められたら職業紹介契約と受入れ支援契約の締結
- JICWELSによる現地面接・受入れ希望機関による現地説明会
- 受入れ機関とEPA介護福祉士候補生希望者を引き合わせ
- 雇用契約締結
- 日本語・介護導入研修を行う
- 受入れ施設における就労・研修
参照:公益社団 国際厚生事業団「2023年度受入れ版 EPAに基づく介護福祉士候補者受入れの手引き」
在留資格「介護」
在留資格「介護」とは、介護福祉士養成校の学校の卒業生や、他の在留資格から変更された人を指します。介護福祉士の資格がある外国人が、介護職として働くための就労在留資格です。この在留資格を取得するには、4つの条件をクリアする必要があります。また、在留資格「介護」になるためには、3つの方法があります。
条件
- 介護福祉士の国家資格取得者であること
- 日本の介護施設に雇用されていること
- 施設での業務内容が介護又は介護指導であること
- 日本人スタッフと同様の報酬を受けていること
方法
- 外国人が留学ビザで入国。介護福祉士養成施設で2年間就学後、介護福祉士を取得し、在留資格「介護」に切り替えて雇用。
- 特定技能など他の在留資格で入国。3年の実務経験や研修を修了後、介護福祉士取得後、新たに雇用契約を締結し、ビザを在留資格「介護」に切り変えて雇用。
- すでに介護福祉士の資格がある外国人と雇用契約を結び、在留資格「介護」ビザを発行。
参照:出入国在留管理庁「在留資格「介護」」
技能実習
発展途上国への技術移転を行う制度で、日本の労働力の確保を目的としたものではありません。技能実習は、最長5年間と期間が定められています。受け入れする方法は以下の2つです。
企業単独型
- 日本の受け入れ企業や施設が、外国の現地法人や取引企業などの職員を受け入れて、技能実習を行う方法です。
- 受け入れ企業が外国の企業等と雇用契約を結ぶ
- 受け入れ企業が外国人技能実習機構へ、技能実習計画書を作成・申請
- 外国人技能実習機構が実習生計画を認定
- 地方入国管理官へ、実習生の就労に関する申請
- 地方入国管理官が許可を出す
- 外国人実習生が入国
団体監理型
- 受け入れ企業が監理団体を介して実習生を受け入れるもので、日本の多くの企業が、この方法をとっています。
- 受け入れ企業が監理団体と契約
- 監理団体が候補者を選定し、受け入れ企業が、面接を行い採用
- 受け入れ企業が外国人技能実習機構へ、技能実習計画書を作成・申請
- 外国人技能実習機構が実習生計画を認定
- 地方入国管理官へ、実習生の就労に関する申請
- 地方入国管理官が許可を出す
- 外国人実習生が入国後、監理団体の元で1ヶ月の講習を行う
参照:公益財団法人 国際人材協力機構「外国人技能実習制度とは」
特定技能
人手不足が顕著な分野において、即戦力となる外国人を受け入れるために作られたものが、特定技能です。特定技能には1号と2号があり、介護分野は「特定技能1号」に該当します。
特定技能制度における外国人の受け入れは、施設が直接採用活動を行うか、職業紹介機関を利用して採用活動を行うかのどちらかです。
日本国内に在留している外国人を採用する場合
- 採用予定の外国人が試験に合格又は技能実習2号を修了
- 特定技能外国人と雇用契約を締結
- 特定技能外国人の支援計画を策定
- 地方出入国在留管理局へ在留資格変更許可を申請
- 「特定技能1号」へ在留資格を変更し、就労開始
海外から来日する外国人を採用する場合
- 採用予定の外国人が試験に合格又は技能実習2号を修了
- 特定技能外国人と雇用契約を締結
- 特定技能外国人の支援計画を策定
- 地方出入国管理局に在留資格認定証明書交付申請を行う
- 在留資格認定証明書を受領し、受け入れ企業から外国人へ送付
- 在外公館へビザの申請し受領
- 入国後、就労開始
参照:出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
参照:法務省 出入国在留管理庁「雇用の流れ」
外国人介護職員の今後の展望
急激な少子高齢化が進み、労働人口は減少している一方で、介護の対象となる高齢者は年々増加しています。これまで以上に介護士が必要とされる日本の救世主として現れたのが、外国人介護士の存在です。それでは今後、外国人介護士にどのような展望があるのでしょうか。
日本が必要な外国人介護士の数
介護業界では、2019年当初、5年間で最大60,000人の受け入れを目標としていました。しかし、2023年度末までは新型コロナウイルスの影響による経済情勢などにより、2022年12月末時点で、当初の受け入れ目標人数の半分にも達していません。これでは、外国人介護士の受け入れが進んでいるとは言えません。
外国人が就労先として日本を選ばなくなる可能性も
一時は出稼ぎ先として人気の国であった日本ですが、現在は過酷な労働環境のわりに給与水準が上がらず、円安傾向も手伝い、外国人が日本を選ばなくなっているといいます。今後、発展途上国が経済的に成長していくと、数年後には日本に来る外国人がいなくってしまうかもしれません。そうならないためにも、外国人が安心して働ける給与水準を含めた改善が求められています。
まとめ
全国老施協が発表した、「令和4年度外国人介護人材に関する実態調査結果」では、外国人介護人材を、「受け入れている」が約42%。「受け入れていない」が約49%、「検討中」が約9%といった結果になりました。
さらに今後の外国人介護職員の受け入れに関して、「増やしたい」「現状を維持したい」が、80~90%程度でした。現在、外国人を「受け入れていない」「検討中」と回答した施設でも、約9割が、将来的な介護人材の不足に対し、不安を感じているという結果が顕著にあらわれたのも特徴です。これらのことから、外国人介護職員のニーズは今後も増えることが予想できます。
在留資格の違いがあっても、まずは相互に理解することが大切です。受け入れた外国人は、どんな習慣があるのか、言葉はどこまで理解できるのかなど知ることから始めてみましょう。施設利用者も含め、負担にならない程度に交流会を催すのも、相互理解への第一歩です。
参照:全国老施協「「令和4年度外国人介護人材に関する実態調査結果」を公表」