入所系サービスのBCP策定に関するポイントを徹底解説!

介護報酬・加算掲載日: 2023.07.04(更新日: 2023.12.05)

介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅など入所系サービスにおけるBCP(業務継続計画)は、自然災害や感染症まん延等の緊急事態においても、入所者に必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を構築するために重要となります。

BCPは、大地震や火災発生等の防災計画・避難計画と同様に、施設内で生活している入所者や職員の安全確保、そして介護サービスの提供を継続するために必要なものです。

本記事では、緊急事態が発生した際に利用者や職員の安全を確保し、事業継続・早期復旧を目指すための、入所系サービスのBCPの関するポイントを解説していきます。

介護事業所でBCP策定が義務化

全国各地で自然災害による甚大な被害が起こり、介護施設の被害も毎年のように報告されています。また新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、介護施設にとって業務継続の大きな脅威となりました。

2021年4月の介護報酬改定で介護事業者のBCPの策定が義務化され、すべての介護事業者にBCPの策定だけでなく、研修、訓練(シミュレーション)の実施等が義務付けられました。

BCPを策定することで緊急時にどのようなリスクがあるのか、どのように対処する必要があるのかなど、緊急時に業務を継続することへの障害を認識することができます。それにより、実際の災害が発生した時のリスクや損害を最小限に抑えながら、介護サービスの継続・復旧を可能にしていきます。

24時間365日入所者が生活する入所系サービスでは、在宅で生活している利用者を対象にした通所系サービスや訪問系サービスに比べて、盛り込む内容や想定しておくべきことの範囲が広くなります。それだけに、BCP策定はポイントを押さえて、必要なことを漏れなく落とし込んでおくことが重要です。

しかし、検討するべきことが広範囲にわたるため、BCPの策定に二の足を踏んでいる事業所が多いのも事実です。難しく考えすぎず、以下のポイントを参考に、効率よくBCP策定をスタートしていくと良いでしょう。

本記事では、入所系サービスのBCPにスポットをあてて解説していきます。介護事業所全般や各施設形態におけるBCP策定の概要・メリットなどの解説は、以下の記事で確認してください。

入所系サービスにおけるBCP対策のポイント

入所系サービスのBCPは、施設の形態や規模、入所者の介護度や状況などにより、それぞれの施設で全く異なったものになります。そのため、BCPを策定したら終わりではなく、その内容について各施設でしっかりと検証を行い、緊急事態に備えることが大切です。

また、自然災害と感染症では内容に違いがあります。緊急時の行動は平時にどれだけ対策をしていたかがカギになると言っても過言ではありません。入所系サービスのBCPを策定する際には、厚生労働省が提供している業務継続のガイドラインや業務継続計画のひな形を参考にしながら、それぞれのポイントを踏まえて準備をしておくようにしましょう。

参考:厚労省発行新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドラインをもとに筆者再編

感染症に関するBCP対策

感染症のBCPを策定する際のポイントは以下のようなものが挙げられます。

平時の対応

①関係者との情報共有と役割分担、組織体制の構築

入所系サービスでは、感染(疑い)者が発生した時に情報共有や対応の指示、関係機関への報告・連携など、多くの連絡が必要になります。情報伝達を誰が・どのタイミングで・どこに・何を連絡するのかを一覧にまとめておくと、漏れなく報告することができます。

全体の意思決定者や各業務の担当者を決めておき、関係者の連絡先、連絡フローの整理をしておくことも重要です。入所系サービスで感染(疑い)者が発生した場合は、居室の移動やサービス内容の変更を必要とする場合も少なくありません。施設全体で統率の取れた動きができるように、意思決定者や担当者を決めておく必要があります。

②感染防止に向けた取り組み

感染症の流行に関する最新の情報収集は重要です。政府や自治体等、どの媒体からの情報を収集するのか決めておき、デマや不確かな情報に左右されないようにします。また、日ごろから基本的な感染予防対策を徹底し、入所者や職員の体調管理、施設入館者の記録などの整備、連絡先の更新などを行っておきます。

③個人防護具、消毒薬等の備蓄

感染症の発生時に使用する防護具・消毒液等の確保が必要です。平時より個人防護具や消毒薬等の在庫量、保管場所を確認しておきます。

感染拡大により必要な量が調達できない場合があり、通常の調達先から確保できない場合に備えて、日頃より複数の業者と連携し、不足がないようにすることが重要です。国内での感染拡大により納品までに時間がかかることがあるため、日ごろの適切な管理が求められます。

④計画を実行できるようBCPの周知・研修、訓練

感染(疑い)者が発生した場合でも、入所者・利用者に対して必要な各種サービスが継続的に提供されることが重要です。緊急時に慌てず冷静に対応できるよう、何をするかについて整理し、平時から訓練(シミュレーション)を行っておきます。

作成したBCPに基づき、危機発生時において迅速に行動が出来るよう周知し、BCPの内容に沿った訓練(シミュレーション)を行っておく必要があります。

⑤BCPの検証・見直し

研修、訓練(シミュレーション)の実施により見えてきた課題を分析し、対応策を検討、BCPに反映していきます。

また、感染症に関する最新の知見等を踏まえ、定期的に見直すことが重要です。BCPには、いつ、どのような訓練や見直しを行うのかを具体的に記載しておきましょう。

感染(疑い)者が発生した場合の対応

①入所者の体調管理

日頃から入所者の体調管理を実施し、感染の兆候がないかを確認しておくことが大切です。 また、入所者だけでなく、施設への訪問者等の健康状態も確認し、何かあった時に連絡がとれるようにしておきましょう。

②初動対応

感染疑い者が発生した場合は、管理者等への報告や各部署への情報共有、施設内外の関連機関に連絡を行い、指示を仰ぎます。

また、感染疑い者や濃厚接触者の特定、体調不良者の状況の調査を行い、保健所の指示のもと検査や医療機関の受診を行います。検査結果が出るまでは、他の入所者等との接触により感染が広がらないように留意し、どのような対応をするのか取り決めをしておく必要があります。

感染拡大防止体制の確立

①保健所との連携

保健所の指示に従い、感染(疑い)者を個室に移動し、感染が広がらないようにします。個室での対応が困難な場合には、当該入所者にマスクの着用を行い、ベッドの周囲を仕切るなど、対応の検討が必要です。

感染(疑い)者の利用した共有スペースの消毒や掃除を行う時には、感染症の種類によって効果のある消毒薬を使用する必要があります。そのため、厚労省から発出された情報や保健所の指示に従い、消毒や掃除を実施します。

②濃厚接触者への対応

入所者や職員の濃厚接触者の特定と症状の確認を実施します。入所者の場合は、原則として個室に移動し健康観察を行います。交差感染が起こらないように担当者や職員の移動ルート、物品の持ち出しなどのルールを決めておく必要があります。

③ゾーニング・コホーティング

感染(疑い)者とその他の入所者のケアを行う職員を分けることで、感染の拡大を防止します。

施設やユニット内を清潔エリアと不潔エリアに区域を分け、入所者や職員が往来することを避けて感染が拡大しないようにするゾーニングや、感染者をグループとしてまとめて、同じスタッフがケアにあたることで感染の拡大を防止するコホーティング(隔離)の手段を行うことが一般的です。これらを実施するには、勤務体制の変更や職員の確保についての検討が必要です。

④職員確保

職員が感染者や濃厚接触者になること等により、勤務できる職員の数が減少することがあります。

ゾーニングやコホーティングで交差感染を防止するためには、職員の確保が重要です。濃厚接触者の状況や勤務可能な職員の人数を考慮し、併設事業所からの応援体制、サービスの継続のために必要な職員数、緊急事態において優先または休止する業務などの指標を決めておき、必要なケアが継続できる体制を整えておきます。

自施設や法人内で職員の確保が困難な場合は、関係団体や都道府県等へ応援の要請を行います。速やかに職員の状況を把握し、早急に応援依頼できるようにすることが大切です。

⑤個人防護具、消毒薬等の確保

感染症が発生した場合は、入所者の状況や濃厚接触者の人数等から、今後の個人防護具や消毒等の必要量を計算し、不足がないように調達しておきます。

⑥情報共有

保健所等の関係機関から問い合わせがあった場合に状況がわかるよう、感染者の情報や症状、濃厚接触者についての情報等を時系列にまとめられるようにしておきます。また、保健所や行政からの指示事項なども時系列にまとめ、職員と共有できるようにしておきます。

感染症が発生した場合には、施設や法人内の職員・入所者・家族・自治体や保健所・関連業者などと情報共有を行っていく必要があります。日ごろから、どこに・誰が・どの様な情報共有を行うのかを整理しておくことが大切です。

また、感染症の発生時期には家族等の面会後制限されるため、代替策としてどのような取り組みをするのかを検討し、入所者や家族と共有しておく必要があります。

⑦業務内容の調整

施設内で感染症が発生した場合、感染防止対策を行いつつ、限られた職員でサービス提供を継続する必要があることを想定しなければなりません。

入所系のサービスは、施設の種類により対応する部署や内容に違いがあります。可能な限り通常通りのサービスやケアの提供を行うことを念頭に、職員の出勤状況に応じて対応できるよう、部署ごとに業務の優先順位を整理しておくことが重要です。

⑧過重労働・メンタルヘルス対応

職員が感染や濃厚接触者になることで出勤できなくなると、一部の職員に負担がかかるリスクがあります。職員の不足が見込まれるときは、早めに応援の要請を行い、連続勤務や長時間労働を避ける対応が必要になります。

感染への不安や長時間労働などによりメンタルヘルスの不調をきたさないように、相談窓口や心のケアを行う体制を整えておきます。

⑨情報発信

関係機関や地域、マスコミ等への公表をどのタイミングで実施するのかを決めておきます。公表内容は、入所者、家族、職員のプライバシーに配慮し、マスコミ対応が必要な場合は対応者を決め、発信内容が統一されるようにします。

自然災害に関するBCP対策

入所系サービスでは、自然災害の発生時にも業務を継続し、入所者の健康と安全を守らなければなりません。例えば、大地震や洪水などで施設が被災するようなことがあると、自施設内でサービス提供を継続するだけでなく、安全の確保のために避難をする場合もあります。

どのような環境でも入所者にとって必要なサービス提供ができるように、事前の検討や準備を進めておくことが必要です。

以下に、 入所系サービスにおける自然災害発生時の対応フローチャートを示します。 このフローチャートに沿って各施設に必要な項目をBCPに落とし込んでいきましょう。

参考:厚労省発行自然災害発生時の業務継続ガイドラインをもとに筆者再編

この際、入所系サービスの自然災害BCPの策定のポイントは、以下のようになります。

正確な情報集約と判断ができる体制を構築する

災害発生時には迅速に対応することが必要になります。よって、平時と緊急時の情報収集の方法や、その情報を共有するための情報伝達フローなどを構築しておくことがポイントになります。

そのためには、法人または施設の意思決定者を決めておくこと、各業務の担当者を決め、誰が何をするかを明確にしておくことが必要です。また、関係者の連絡先や連絡フローの整理・更新を定期的に行わなければなりません。

職員は、意思決定者の方針に基づき基本方針にのっとった行動をすることも重要です。 そのため、基本方針はなるべく具体的に、職員が判断に迷わないように書いておくことが必要になります。

自然災害への事前対策と事前準備

自然災害はいつ、どのような災害がどのくらいの規模で起こるかは予測することができません。そのため、災害発生が予測できる自然災害に対しては、事前に対策を打っておくことが最も重要です。

自拠点にどのような自然災害のリスクがあるかは、ハザードマップ等を用いて調べておくことができます。また、被害想定については自治体が被害想定を設定している場合があります。それぞれの自治体のホームページなどで確認しておくとよいでしょう。

設備や機器など、整備や新たに購入が必要な物に関しては費用計画をしっかりと立て、早急に事前対策を行うことが大切です。

被災時には人命安全を最優先に考え、適切な初動対応ができることが最も重要です。避難が必要な場合に逃げ遅れてしまうことがないよう、指示がなくても勤務者が判断できるようなルールの策定が重要になります。

初動対応では利用者・職員の安否確認や安全の確保を行い、建物や設備の被害を点検することで、業務の継続ができるか否かの判断を行う必要があります。また、入所系サービスでは、被災時でもサービスの提供を継続しなければなりません。必要な職員数を参集するためのシフト組みを、誰がどのタイミングで行うのかを明確にしておく必要があります。

しかし、あらかじめ担当者を決めていても、その担当者が被災し連絡が取れない等の事態も考えられます。あらゆる状況を想定し、どのような状況であってもBCPに沿った対応ができるように、代替者を決めておくことも重要です。

業務の優先順位を整理

施設や地域の被災状況によっては職員が出勤できなかったり、設備の破損やライフラインの停止などの理由で、通常のサービス提供ができない場合があります。そのため、限られた人員や設備で、入所者にとって必要なサービス提供を行う必要があります。

できる限り通常通りのサービス提供を行うことを基本としながらも、業務の優先順位を整理しておかなければなりません。どの業務を実施するのか、またそのためにはどのくらいの人員の参集が必要なのか、他部門の人員で実施することは可能なのかなどを、部門ごとに整理し共有しておきます。

また、ライフラインの停止等があった時の代替策を検討し、どの程度の代替が可能になるかも検証しておくようにします。

大地震等の災害時には、水道の停止だけでなく、下水が流せなくなる可能性があります。そのため、入所者や職員のトイレ対策も重要です。

簡易トイレの設置や、既存のトイレに凝固剤を用いた非常用トイレなど、入所者や職員の数に応じて準備をしておくようにします。いざという時にすぐに対応できるよう、簡易トイレの設置方法や処理方法を事前に周知しておくことも必要ですので、定期的に研修等に組み込みましょう。

このように、災害発生時に必要な設備や物品を洗い出し、備蓄をしておかなければなりません。災害発生後3日後には行政からの支援が届く目安と言われています。それまでの間、自力で生活と業務の継続ができるように必要な備品と必要数をリスト化し、計画的に備蓄を実施します。また、食品や医療品など賞味期限や使用期限があるものもあり、定期的にメンテナンスを行い、無駄のないようにする必要があります。

BCPの周知・研修・訓練

BCPは、策定するだけでは実際の場面で効果を発揮するとは言えません。自然災害発生時に迅速に行動ができるよう、職員や関係者全員に周知し、平常時から研修や訓練(シミュレーション)を行う必要があります。

訓練を通して策定したBCPに実効性があるのかどうかを検証し、課題があれば改善策を検討し、定期的にBCPの見直しを行うことが大切です。また、訓練は職員だけでなく、入所者や地域住民なども一緒に行うことで、地域ぐるみで実効性のあるBCPにすることが可能となります。

入所系サービスのBCP策定でよくある質問

優先業務の考え方と必要な職員数の算出方法がわからない

まずは、各時間帯のすべての業務の洗い出しを行い、優先度をつけていきます。
(1:休止可 2:一部休止可 3:実施など)。

次に、実施が必要な業務に必要な職員数を算出します。この際、業務ごとに必要な人数の算出が難しければ、勤務時間帯で算出する、またはユニットではなく施設全体で人数を考えるようにすると必要人数が算出しやすくなります。

これにより、最低限の職員数が算出され、それ以上の人数の参集が可能であった場合には、ライフライン等の状況を勘案しながら、優先業務の幅を広げてサービス提供を実施することになります。なお、この作業は実際にケアを提供する現場職員の意見を十分に反映する必要があります。

BCPと防災マニュアルの違いは何ですか?

A防災マニュアルは災害への対策をマニュアル化したものです。対してBCPは、自然災害を含めたさまざまなリスクに備えるために策定するものです。

BCPでは災害によるリスク以外にも、ライフラインの障害や設備の破損、資金の調達など業務継続に影響を及ぼす様々なトラブルを想定し、その中で業務を継続するための対策や事前準備を記しておくものです。

しかし、災害発生時の初動の対応などBCPと防災マニュアルで重複する内容もあります。その場合、BCPに防災マニュアルのどの部分を参照すればいいのかを明確にしておくようにしましょう。

まとめ

BCP(業務継続計画)は、自然災害や感染症まん延などの緊急事態においても、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を構築するために重要です。入所系サービスのBCPは、施設の形態や規模、入所者の介護度や状況などによりそれぞれ異なります。

感染症のBCPを策定する際のポイントとしては、平時の対応、感染(疑い)者が発生した場合の対応、感染拡大防止体制の確立などが挙げられます。また、自然災害のBCPを策定する際のポイントは、正確な情報集約と組織体制の構築、自然災害への事前対策と事前準備、業務の優先順位の整理、BCPの周知・研修・訓練などが挙げられます。

実効性のあるBCPにするためには、何度も検証や見直しが必要です。まずは完璧でではなくても良いので、厚生労働省老健局が作成した業務継続ガイドラインや業務継続計画のひな形を参考にしながら、BCP策定の取り組みの第一歩を踏み出すことが重要です。

ツクイスタッフ研修サービスでは、入所系サービスに合わせたBCP関連の研修が可能です。集合研修やオンライン研修等、貴社の研修計画に合わせてご提案いたします。

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  • 合同会社カサージュ代表/主任介護支援専門員/
    BCAO認定事業継続管理者/産業ケアマネジャー

    寺岡 純子

    経歴詳細を見る

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