認知症の方とのコミュニケーション方法とは?大切にすべきポイントを事例付きで解説

スキルアップ掲載日: 2023.11.07(更新日: 2023.12.05)
笑顔を向ける高齢者と介護スタッフ

「認知症の方とのコミュニケーションは難しい」「どのように接したら良いのか分からない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか?

本記事では、認知症の方と接する際のコミュニケーションのポイントや手法、逆に悪気なくコミュニケーションを悪化させてしまう落とし穴について解説していきます。

認知症という言葉で一括りにしてしまう、という落とし穴

そもそも「認知症の方とのコミュニケーション」という言葉を使ってしまっている時点で、実はコミュニケーションを悪化させてしまう要因を作っているという視点が大切になります。

認知症とは、いったん成熟した脳組織が何らかの原因によって損傷され、記憶や認知機能等の低下により継続して日常生活に支障をきたす状態を言います。

よく誤解されていることなのですが、認知症と言う病名はありません。

原因疾患によって認知症の種類は異なり、症状も全く異なります。「認知症の方」と一括りにしている時点で、例えば「男性の方」「女性の方」と一括りにしていることと同じになります。

仮に「男性(女性)なので、当然○○ができますよね?」というような発言をする人がいたとしたら、どのように思われるでしょうか?

女性と一口に言っても、人によってパーソナリティは全く異なります。「女性だから〜」と一つの枠に当てはめて決めつけている時点で、適切なコミュニケーションをとることが難しくなり、信頼をなくしてしまうことにも繋がりかねません。

認知症の定義と主な種類・症状

認知症と一口にいっても、原因疾患によって80種類以上の種類があります。

ここでは3大認知症と呼ばれている「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」について、解説します。

アルツハイマー型認知症

例えば、認知症の原因疾患がアルツハイマー病であれば、アルツハイマー型認知症という名称になります。

アルツハイマー病は、脳が少しづつ萎縮していく病気です。脳の場所で言うと最初に損傷する場所は海馬という箇所になります。

海馬の役割は5分前・10分前の記憶を一時的に保持しておく場所ですので、ここが損傷することで、例えば10分前に初めて会って挨拶をした人の名前を覚えていないという短期の記憶障害が起こります。

しかし、海馬の役割はあくまでも短期の記憶の保持ですから、昔から知っている家族の名前や、昔からしている料理の仕方、包丁の使い方などがいきなりできなくなるわけではありません。

仮に10分前のことを覚えていないとしても、それは悪気があって覚えていないわけではありません。短期の記憶を保持する機能が損傷していることによる障害なのです。

障害に関しては、頑張ればどうにかできるものではありません。このような特徴を理解していないと、「さっき言ったばかりでしょ!」とイライラしてしまうことになります。

腕を損傷している人は、投げられたボールをキャッチすることはできませんが、それに対して「頑張ってボールをキャッチしなさい」と言う人はいないでしょう。

アルツハイマー病による短期の記憶障害は目には見えない障害だからこそ、知識を持っていないと、コミュニケーションをとる際に理不尽な言葉をかけてしまうことに繋がる可能性があるのです。

レビー小体型認知症

レビー小体という物質が大脳皮質に溜まることで認知機能に支障をきたしていれば、レビー小体型認知症ということになります。

レビー小体型認知症は、アルツハイマー病とはまた違った症状が現れます。症状は人によって異なりますが、例えば幻視といって、子供や虫など、実際にはないものが見えたりします。幻視は非常にくっきりと見えて、幻とは見分けがつかないこともあります。実際には存在しないとしても、それは悪気があって嘘を言っているというわけではありません。

脳血管性認知症

脳梗塞等の脳血管疾患を原因として脳組織が損傷した結果日常生活に支障をきたしていれば、脳血管性認知症ということになります。脳血管といってもどこの部位を損傷するかで、症状は人によって異なります。

例えば、損傷した箇所が言語を司る場所であれば言語障害が起きますし、記憶に関係する場所が損傷していれば記憶障害が起きることとなります。

そのほかにも原因疾患は80種類以上あるため割愛しますが、大切な点は、認知症と一括りにしないということです。原因疾患や程度によって、症状も困りごとも人によって大きく異なるという点を理解しておくことが、認知症の理解において大切なポイントになります。

認知症ケアの技術は効果的なのか

介護業界では、認知症の方とのコミュニケーション技法の一つとして例えばバリデーションやユマニチュードという認知症ケアの手法があります。

バリデーションは、1963年にアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・ファイルによって創始され、認知症の方が感じている世界を否定せずに寄り添い、共感することを原則としています。

また、ユマニチュードは、フランスの体育学の専門家が1970年代に考案した方法です。「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を基本として、その人自身の能力を引き出すことを重視しています。

これらの手法は私自身も学びましたし、その学びは非常に有意義であったと思っています。しかし、このようなケア技法は、表面的な技法の部分だけを切り取って使い方を間違えてしまうと、コミュニケーションを著しく阻害してしまうことにもなりかねないので、注意が必要です。

これらの手法を効果がないと否定しているわけではありませんが、認知症ケアとして「何か絶対的な技術があるのではないか」「魔法のような解決法があるのではないか」という捉え方をしないでほしいということです。

なぜなら、そのような発想は、「この人は認知症だから人格がなくなってしまっている」という先入観からくる発想と紙一重だからです。誤った先入観から相手を物のように扱ってしまうと、その姿勢が相手に伝わっていることも少なくありません。相手が自分より2倍も3倍も生きている方であれば尚更、そのような浅はかな姿勢を見透かされていることもよくあります。

なぜそれがわかるかといえば、私自身も同じ失敗を犯し、反省している1人だからです。

例えば恋愛マニュアル本は世の中にたくさん存在しますが、その本を熟読して実践したとして、100%成功するでしょうか?おそらく、表面的なマニュアルとして活用したとしても、必ずしもうまくいかないことを、皆さん理解していると思います。

人間関係や信頼関係を作る方法に、万人共通のマニュアルは存在しません。「認知症という病気があり、病気によって人格が崩壊している。だからマニュアルが存在しその通りに対応することでその人は落ち着く。」「コミュニケーションをうまくとる認知症対応マニュアルがある」という視点を持っている時点で、このような偏見は言葉の温度感や表情等に顕著に表れ、相手には伝わります。

「この人は自分のことを偏見の目で見ている。自分の言葉に本当の意味で耳を傾けようとしてくれていない。」そのように思われている時点で、相手から心のシャッターは閉じられ、コミュニケーションはうまくいかず、信頼関係は構築できないままになると言えるでしょう。

もちろん、配慮したつもりが逆に傷つけてしまうということもあるかもしれません。しかし、人対人なのですから、100%うまくいく対応があると考えることの方が不自然ではないでしょうか?

認知症の方とのコミュニケーションのポイント①人格の崩壊ではないという視点

コミュニケーションをとりながら信頼関係を築くうえで、相手がどんな人かを勝手に決めつけてしまわない、ということは日常生活の中でも当たり前のことかと思います。

しかし認知症の方に対して偏見を持ち、決めつけてしまうことで、コミュニケーションを阻害しているケースはよく見受けられます。その最たる偏見が、「認知症は人格が崩壊している」という誤解です。

実際に老人ホームにいらした、80代のアルツハイマー型認知症の男性の例をお伝えします。

その方は入浴介助の時に暴れてしまい、介護職からは「Aさんは認知症だから暴力行為の問題行動(行動心理症状)がすごくて危ないから気をつけて」と言われていました。そのため3人がかりでお風呂まで引っ張っていくという対応をとっており、私自身も新人だったので、大変苦労したことを鮮明に覚えています。

しかし、Aさんの視点に立って考えた時に、この暴力行為という症状はAさんの人格の崩壊が原因ではなく、私を含めて周りのスタッフの偏見が原因であるということに気づきました。

お風呂介助の準備をする介護スタッフ

Aさんの立場になって考えた場合、お風呂に向かうまでのスタッフの対応は、どのように映るでしょうか?

アルツハイマー型認知症の特徴に、短期の記憶障害や見当識障害(時間、場所、人の検討がつきにくくなる症状)があります。

Aさんはそのとき「あれ?今何してるところだったかな?ここはどこ?今何時?」という気持ちだったかもしれません。そこへ人が近寄ってきて、急に「Aさんお風呂に行きましょう」と言われ、腕を掴まれます。

咄嗟に腕を振り払うと、このスタッフは周りの人を呼び始め、さらに2人のスタッフから横からも後ろからも体を抑えられます。そして「行きますよ!せーの!」の掛け声で無理やりどこかへ連れて行こうとしたため、身の危険を感じ全力で3人から逃げようともがきます。

しかし、この腕を振り払う、もがき逃げ出そうとするという行為を先輩たちから「Aさんは認知症だから暴力行為の症状が激しいから気をつけて。」と教わったのです。

もし自身が同じシチュエーションの当事者だった場合、暴れない人はいるでしょうか?

たしかに記憶障害や見当識障害はアルツハイマー病による症状(中核症状)かもしれませんが、暴力行為(行動心理症状)を行ったのは、決して人格が崩壊しているからではありません。中核症状を正しく理解していない周りの人間がAさんの気持ちを無視してコミュニケーションをとったことが原因であり、むしろ人格が正常だから暴れたわけです。

私自身は多くの認知症の状態にある方と接する中で、この暴力と呼ばれる行為を「症状」と呼んでおり、その症状への対応方法を「技術」と呼ぶのには違和感があります。このような視点そのものが、コミュニケーションを円滑にする大切なポイントとなります。

認知症の方とのコミュニケーションのポイント②相手のペースを大切にする

実際には、この方への声の掛け方としては、近づく際に驚かせないことや、状況の説明をすることで混乱を防げる場合があります。

例えば、以下のような対応が挙げられます。

  • まずは遠目から視界に入ることでこちらの存在に気づいてもらうように意識し、それからゆっくりと近づく
  • 上から目線からだと圧迫感があるので目線を合わせて、名前や立場など自己紹介をする
  • 今の時間を時計を見せながら伝える
  • 今いる場所がお風呂に入るサービスを使える施設であることを説明する
  • これからお風呂に入るサービスを利用してもらおうと思っていることを伝える

このように相手のペースを大切にして近づき、情報を焦らずに整理することで、相手も落ち着いた状態でお風呂に行くことができるでしょう。

ただし、ここまでお伝えした通り、一つ一つの動作をマニュアルとして覚える必要はありません。このような手順で声をかけたとしても、その時の状況や心理状態、その方の状態等によっては有効でないことも多々あります。

できることは、「どんな行動がマニュアルとして正解なのだろうか」という発想ではなく、「自分が相手の立場だったらどのように近づいてきて、声をかけてもらいたいだろうか」と想像した上で行動や発言をするという一点です。

それは思いやりであり、特別な技術ではありませんし、唯一の答えもありません。そしてそれをしたからといってうまくいくとは限りません。人間関係なのですから、うまくいかないことがあっても当然です。人によって何が正解かも違ってくるでしょう。

そのため、唯一無二のマニュアルを求めるのではなく、疾患等があればその症状の特徴を理解した上で、一人の人間として最大限思いやりを持って接してください。そして、その時の最善を尽くすという、自然な行為をしてほしいのです。

認知症の方とのコミュニケーションのポイント③感情記憶を意識した関わり

最善を尽くしてもその場でうまくいかないのであれば、結局意味がないのではないかと考える方もいるかも知れませんが、それは違います。

なぜならば、認知症の状態だとしても感情の記憶は積み重なるからです。さっきのやりとり自体を記憶として保持できていない方だとしても、さっきのやり取りで感じた感情は残るのです。

雑な扱いを受け続けていれば嫌な気持ちは積み重なっていき、不安や嫌悪感へと発展します。そして、負の信頼関係が構築され、さらにお風呂には行きたくないと思われてしまうでしょう。

逆に、丁寧に接した結果、その時にはお風呂には行けず、やり取りそのものも覚えていなくとも、「なんとなく好感の持てる対応だった」という印象や安心感というプラスの感情や記憶は残り、そして積み重なるのです。

毎回その方に寄り添った対応を重ねていれば、短期の記憶障害がある方であれば名前を覚えることはできなくとも、「この人は安心感がある。」という信頼関係は築けるのです。信頼関係が築けていれば、本人の不安な気持ちが完全になくなっておらず、お風呂へ行くことに納得できていないとしても「この人は何となく安心感があるから、一緒に行っても良いかな」と思ってもらえれば、スムーズな入浴介助にもつながります。

このような信頼関係の構築や崩壊は、私たちの日常の中で起きていることと、何ら変わりません。

まとめ

認知症の方にはどのようにコミュニケーションをとることが正解なのだろうか?やってはいけないことは何だろうか?と考えてしまう気持ちは非常によくわかります。しかし、そのように考えている時点で、実は認知症というものを正しく理解できていないかもしれません。

認知症といっても人によって種類も困りごとも異なります。認知症という一括りの言葉に惑わされず、それぞれの症状の特徴に配慮した上で、同じ心ある人間として関わってほしいのです。つまり、100%うまくいく技術やマニュアルなどないですし、100%やってはいけない対応もないということです。

でも人間同士だからこそ、イライラもするし、相手を傷つけてしまうことも当然あるでしょう。それはある意味自然なことです。どんなに仲の良い家族や友達でも、時にはイライラしたり、喧嘩もするのではないでしょうか?

ですから、もしコミュニケーションがうまくいかなかったとしても、良かれと思ったことが裏目に出て怒らせてしまったとしても、取り返しがつかないわけではありません。その場合はぜひ、後で謝ってください。いつもの日常生活でも、大切な人とのコミュニケーションでは、そのようにしているのではないでしょうか?

どのような認知症の状態である方でも、感情の記憶は積み重なります。たしかに相手が何に対して謝っているのか、内容はもしかしたら記憶に残っていないということもあるかも知れません。しかし、この人は真摯に自分に向き合ってくれているという姿勢はしっかり伝わるし、その感情は積み重なるのです。

意識すべきことは、魔法のような解決策を求めることではなく、相手との信頼関係をコツコツと積み重ねることなのではないでしょうか。

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  • 福祉事務所ランタン代表

    木村 誠

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