高齢者と上手にコミュニケーションを行うポイントは?相手に寄り添う会話のコツについて解説
「あなたは初めてお会いする方に、自ら積極的に声を掛けたり、コミュニケーションをとることは得意ですか?」という問いに「苦手です」と答える方が圧倒的に多いようです。この苦手意識はどこからきているのでしょう。
小学生の国語の授業を思い出してください。教科書を「読む」、ノートに漢字を「書く」、みんなの前で「話す」ということはやった記憶があると思いますが、「聞く」ということに関して学んだ記憶はありますか?
コミュニケーションには、主に「読む・書く・話す・聞く」という4つの手段があります。この中で「聞く」つまり「人の話の聞き方」を学ぶ機会が、あまり多くはなかったのではないでしょうか。(現在の小学校の学習指導要領には「聞く」授業が載っています)
しかし、特に高齢者とのコミュニケーションにおいては、「聞く」ことが最も大切なのです。
- 「話し上手」より「聴き上手」
- 高齢者とのコミュニケーションのときに大切なこと
- 高齢者との会話で押さえておきたいコツ・ポイント
- 高齢者とのコミュニケーションのコツ 7か条
- 「非言語コミュニケーション」の重要性
- コミュニケーションの効果
- まとめ
「話し上手」より「聞き上手」
まずは、介護現場で私が実際に目にした、コミュニケーションに関する事例をご紹介します。
【事例】高齢者施設で介護実習を行っている学生Bさんに、「利用者Aさんとコミュニケーションをとってみてください」と伝えました。Aさんはアルツハイマー型認知症で、耳は聞こえますが、理解力が低下しており、会話のキャッチボールはあまりできません。実習生Bさんは、車いすに乗っているAさんの隣に座り、話し始めました。
実習生B「Aさん、おはようございます、私は〇〇学校のBと申します」
Aさん「…」(振り向くが何も言わない)
実習生B「Aさんはおいくつですか?」
Aさん「92歳かな」(小さな声で答える)
実習生B「92歳ですか」(メモをとる)
Aさん「…」
実習生「ご出身はどちらですか?」
Aさん「新潟です」(小さな声で答える)
実習生B「新潟ですか」(メモをとる)
Aさん「…」
実習生B「好きな食べ物は何ですか?」
このようなやり取りが10分ほど続きました。実習生はひたすら質問をして、帰ってきた返事をメモする…まるで事情聴取のようでした。これでは、コミュニケーションとはいえません。
介護現場で、特に認知症の方や言語障がい等のある方など、会話がうまくできない方、あまり積極的にお話をしてくださらない方に対しては、どうしてもこちら側から「話さなきゃ」と思いがちですが、それは逆です。実は話すことよりも聞くことの方が大切なのです。
介護職員は、高齢者に直接関わる対人援助職です。コミュニケーションが苦手な方は、「上手く話せないから介護職に向いていない」と思いがちですが、介護の現場では話し上手よりも聞き上手であることが重要です。最初から完璧なコミュニケーションを目指さず、少しずつ関わりを深めて信頼関係を築けるように意識してみましょう。
そして、「きく」という漢字は二つあるのをご存じですか?「聞く」と「聴く」。二つの漢字の意味は少し違います。「聞く」は、電車の音、街中の人の話し声など耳に入ってくる音を漠然と聞くことを意味し、英語では「hear」と訳します。一方、「聴く」は、意識を集中し、相手の言葉に耳と心を傾けて聴くことを意味し、英語では「listen」と訳します。私たち介護職員は、「良い聴き手になること」が大切です。
高齢者とのコミュニケーションのときに大切なこと
①傾聴 | 高齢者の言葉をただ「聞く」のではなく、相手の話に注意深く耳を傾け、その奥にある気持ちを汲み取りながら「聴く」ことです。高齢者が自分の思いや意見を伝える際に、話を中断せずに静かに聞くことが重要です。 |
②受容 | 高齢者の言葉や感情を否定も肯定もせず、ありのままに受け入れることです。時には意見の違いや感情の表現に対しても寛容であることが大切です。 |
③共感 | 高齢者の立場に立って、高齢者が感じる喜びや悲しみ、困難などを理解し、高齢者の感情に温かく寄り添うことです。 |
①の「傾聴」は、目を見て話を聞いたり、相づちを打ったり、うなずいたりすることで、自分が理解していることを示すことも大切です。これら「傾聴の技術」については、後ほど「傾聴のポイントとは」で詳しく解説いたします。
では、②「受容」して、③「共感」するとは、具体的にどのような対応でしょう?例として、朝食を食べた30分後の、利用者と介護職員の会話を見てみましょう。
利用者「私、まだご飯食べてないんだけど」
職員「何言ってるんですか、さっき食べてましたよ、もう忘れたんですか!」
もちろん、このような対応はよくありません。相手のおっしゃっていることを否定してしまっています。「受容と共感」つまり、朝食を食べたことを忘れてしまっている認知症高齢者のお話を、否定をしないで温かく寄り添うとはどのような対応でしょうか。
利用者「私、まだご飯食べてないんだけど」
職員「そうですか、まだ召し上がっていなかったんですね、お腹すきましたね、困りましたね」
相手の言葉に寄り添うと、上記のような対応になります。しかし、「すぐにご飯を持ってきます」と2度も3度も朝食をお出しするわけにはいきません。
ここから先は、認知症の利用者に対する個別対応になります。例えば、用意していたお菓子をお出しして「食事の準備をしていますので、これを召し上がってお待ちください」とお伝えし、しばらくすると、訴えを忘れてしまうこともあります。まずは否定をせず、相手の不安な気持ちにきちんと寄り添いましょう。
これらの「コミュニケーションの三原則」を守りながら、高齢者とのコミュニケーションをお互いの信頼と尊重の上で築くことが大切です。相手の話を理解し感じることで、高齢者との関係をより深めていくことができるでしょう。
高齢者との会話で押さえておきたいコツ・ポイント
先ほどお伝えした通り、傾聴は、高齢者が自分自身を尊重されていると感じることができる重要な方法です。
高齢者は、自分の経験や思いを大切にされることを望んでいます。傾聴を通じて、私たちは高齢者の話を真剣に受け止め、意見や感情を尊重する姿勢を示すことができます。
また、高齢者は、自分自身の生活経験や知識を通じて、深い洞察力や知恵を持っています。高齢者の話を注意深く聞くことで、その中に潜む意味や教訓を理解することができます。傾聴を通じて得られる洞察は、高齢者とのコミュニケーションをより豊かにし、双方にとって価値のある交流を生み出します。
傾聴の技術のポイントは以下の通りです。
同じ目線で目を見てうなずく
相手の目を見て話し、目線も同じ高さにしましょう。
相手が話しているときは、肯定的な反応をします。できるかぎり笑顔で、相手の目を見てうなずくことで、相手に関心があることや、話をしっかり聞いていることを態度で示しましょう。首をコクリと動かすだけではなく、しっかりと上下に振って、分かりやすくうなずきましょう。
あいづちを打つ
「そうですね」「なるほど」「それでどうしたんですか?」「私もそう思います」「面白いですね」といった合いの手のことですが、それだけで「あなたの話を理解していますし、興味がありますよ」という意思表示になります。自分の話に興味関心があることが分かれば、相手は話しやすくなります。
共感をするオウム返し
人間は誰しも自分のことを分かって欲しいという気持ちがあります。その気持ちを分かっていますよという反応をすることは、聞き上手になるために最も大事なことです。
相手の話の語尾を繰り返しつつ、共感しているというメッセージを伝えれば、自分が共感していることを相手に伝えられるとともに相手に話を促すこともできます。
例えばこのような対応です。
利用者「私、昔、駅前のお蕎麦屋さんによく行ったわ」
職員「あそこのお蕎麦屋さん、行かれたことあるんですねえ」
関心を示す質問をする
しっかり話を聞いたあとは、相手が話しやすい質問をしてあげると、会話は信じられないほどの広がりを見せるものです。
例えば、「それでどうなったんですか?」「その時どうしたんですか?」等の質問は答えやすいですし、話を進めたり広げたりできます。
利用者「私、昔、駅前のお蕎麦屋さんによく行ったわ」
職員「あそこのお蕎麦屋さん、天ぷらそばとか、山菜そばが有名ですけど、何がお好きなんですか?」
相手の話の邪魔をしない
人の話を聞いていていると、助言をしたくなったり、つい自分の話を始めてしまいたくなることは誰でもありますが、これは逆効果です。
利用者「私、昔、駅前のお蕎麦屋さんによく言ったわ」
職員「いや、あそこより、隣駅の蕎麦屋の方が絶対美味しいですよ。海老の天ぷらがサクサクで…」
これは悪い例です。人間は誰かに話をすることで気持ちをすっきりさせたいという欲求がありますから、まずは相手の話を最後までしっかり聞きましょう。
傾聴は信頼関係の構築に欠かせません。高齢者との信頼関係が築けると、よりオープンなコミュニケーションが可能になります。信頼関係がある場合、高齢者はより率直な気持ちや問題を打ち明けることができ、私たちもそれに基づいてサポートやアドバイスを提供することができます。
要するに、傾聴は高齢者への尊重や理解を示すだけでなく、彼らの心の健康や幸福感にも寄与する重要なスキルです。傾聴を通じて、高齢者とのコミュニケーションを深め、より良い関係を築くことができます。
「コミュニケーションが苦手」という意識をお持ちの方も多いかもしれませんが、傾聴は技術です。訓練すれば身に付きます。介護現場で意識して使ってみてください。
高齢者とのコミュニケーションのコツ 7か条
介護職員にとって、高齢者とのコミュニケーションは欠かすことのできないものです。基本的な挨拶だけでなく、動作をうながすための声かけなど、さまざまな場面で言語コミュニケーションが必要になります。
高齢者とのコミュニケーションで、気を付けなければいけない具体的な7つのポイントをご紹介します。
ゆっくりと話す
高齢者は聴力や認知機能が低下している場合もあるため、はっきりと話すことが大切です。急いで話さないようにし、相手が理解しやすいように配慮しましょう。
適切な話し方としては、「低い声・ゆっくり」と言われています。なぜなら、高齢者は「高い声・早口」が聞き取りにくいからです。聞き取りづらそうにされていれば、話し方を変えてみる試みも必要です。
簡潔にまとめる
高齢者に何かを伝えたいとき、長い話は避けたほうが賢明です。長い説明や複雑な内容は理解しにくいことがあります。必要な情報をシンプルかつ明確に伝えることで、高齢者が迷わず理解できるようにしましょう。
話が長すぎると、結局なにが言いたいのか理解されず、意思疎通が取りにくくなってしまいます。
また、複数の質問や要求を同時にすることは避けましょう。一度に一つのことに集中することで、相手が理解しやすくなります。
忍耐強く接する
高齢者とのコミュニケーションは時間をかけることが必要な場合があります。忍耐強く接し、相手が話すのを待ち、理解しようとする姿勢を持つことが重要です。相手から返事がなくても、やわらかな表情で、高齢者の言葉を待ってみましょう。高齢者の隣に座り、一緒に景色を眺めながら言葉を待つのもいいでしょう。
沈黙が続くとどうしても不安になってしまいますが、人は相対しているときに必ず何か喋っているわけではありません。無理に話そうとせず、お互いの「会話のペース」を確認し合い、穏やかな沈黙の時間を共有して寄り添うことが大切です。
思いやりのある質問をする
適切な質問をすることで、相手の関心や思いを引き出すことができます。相手の興味や体調に合わせ、思いやりを持って質問をすることが大切です。
「はい」「いいえ」で答える閉ざされた質問(クローズドクエスチョン)ではなく、「参加してみていかがでしたか?」のように、開かれた質問(オープンクエスチョン)をしてみましょう。このような質問であれば、高齢者は感じたことを自由に答えることができますし、話が広がりやすくなります。
笑顔で接する
笑顔はコミュニケーションを円滑にする効果があります。高齢者とのコミュニケーションでは、穏やかで友好的な態度で接することが大切です。
高齢者と接するとき、特に話をするときは相手の目を見ることを意識してください。また、優しい表情で口角を上げて話すようにしてください。
怒った顔や疲れた表情で対応すると、相手も気分が良くありません。相談事や世間話なども「この人には話しかけづらいな」と思われてしまうでしょう。
介護現場はどうしても忙しくバタバタしがちで余裕が持てない時もあると思いますが、忙しさは顔に出さず、常に明るい表情でいることを心がけましょう。笑顔は「あなたを受け入れています」というメッセージです。
話題を選ぶ
ポジティブな話題や思い出について話すことで、相手の気分が明るくなり、会話が盛り上がることがあります。ネガティブな話題や不快な思い出に触れることは避けましょう。
高齢者との会話では、相手の興味や経験に関連する話題を選ぶことが大切です。感心を引く話題を見つけて、共通の話題でコミュニケーションを進めましょう。
例えば、若いころの思い出話、以前していたお仕事のこと、家庭のこと、お子さんのことなどを聞いてみてはいかがでしょうか?プライベートな内容はデリケートな話の場合もあるので、様子をみながら聞いてみましょう。
高齢者の方から苦労話をされることもあります。そんなときはただひたすら傾聴し、相手側の気持ちに立ってお話しに耳を傾けましょう。また、お元気そうな方の場合、健康の秘訣を聞いてみてはいかがでしょうか?食事法や運動法などためになるお話もされると思います。ラジオ体操や習い事の話もオススメです。
座る位置を工夫する
相手がプレッシャーを感じないよう、座り方(位置)を工夫してみましょう。相手の斜め45度に座る位置が最適です。自然なアイコンタクトになり、リラックスできます。また、相手の隣に座るのもよいでしょう。寄り添って穏やかな雰囲気を作ることができます。
高齢者との距離については、特に「パーソナルスペース」を侵さないようにしましょう。パーソナルスペースとは、他者に近づかれて不快になる距離のことです。
介護職員は身体介助をする時に密着するため、「馴れ馴れしくなる」「言葉遣いが疎かになる」など、利用者との距離を間違えがちです。仕事に慣れて、馴れ馴れしい言葉で喋っていると、後で家族からクレームを頂くこともあります。仕事に慣れても、敬語を疎かにしないようにしましょう。
これらのポイントを心がけながら、高齢者とのコミュニケーションを進めていくことで、より良い関係を築くことができるでしょう。
「非言語コミュニケーション」の重要性
高齢になると年齢と共に聴覚や視覚、言語能力が低下するほか、認知症などで言葉によるコミュニケーションがうまく取れなくなる方もいます。そのため、高齢者とのコミュニケーションに苦手意識を持つ方もいらっしゃるでしょう。
しかし、アルバート・メラビアンという心理学者が提唱した心理学上の法則「メラビアンの法則」では、人と人とのコミュニケーションにおいて、言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%のウェイトで影響を与えると言われています。
つまり、日常生活の中では、非言語的コミュニケーションは言語的コミュニケーションよりも圧倒的に多いということです。
このように、コミュニケーションは言葉だけではなく、表情・身振り・仕草なども含まれます。言葉だけでは伝わらないこともあるので、言語以外の「非言語コミュニケーション」を意識してみてください。
非言語コミュニケーションとは、口頭や文字による言語を使わず、身体の動きや表情、ジェスチャー、タッチなどを通じて情報を伝える方法です。言葉や文章以外の要素を使って相手と意思疎通を図ることができます。
非言語コミュニケーションは、以下のような要素から成り立っています。
身体言語
ボディーランゲージと呼ばれる、「身振り手振り」のことです。身体の動きやポーズ、目線、手の仕草などを通じて感情や意図を表現します。
例えば、眉を動かす、指を指す、手を広げる、肩をすくめる、など、様々なジェスチャーがあります。
表情
非言語コミュニケーションでは、相手の状況に応じて表情を変えることも大切です。
喜び、悲しみ、驚き、怒りなどの感情をはっきりと表現し、伝えましょう。笑顔や眉の上げ下げ、目の大きさや輝きなどが重要な要素です。
高齢者と対話するときは、安心感を与える穏やかな笑顔が基本です。マスクをしていると表情が分かりづらいこともあるため、特に目元の表情を意識しましょう。会話の内容によっては、笑顔ではなく真剣な表情が適するため注意が必要です。
目線
相手の目を見つめたり、視線の動きを通じて関心や意思を伝えることができます。目線は相手とのコネクションを作り、相手に関心を持っていることを示すために重要です。
高齢者と対話するときには、視線を同じ高さに合わせるように意識します。特に、車いすに座っていたり、ベッドに横になったりしているときには腰を落として話しかけましょう。
ただし、熱心に話を聴こうとするあまり、高齢者をじっと見つめ続けるのは逆効果です。威圧的な印象を与えることもあるため注意が必要です。目線を合わせる時間は会話の半分ほどを心がけ、本人に意識が向いていることを伝えましょう。
音声
声の大きさ、高さ、速さ、リズム、強さなどを通じて、感情やメッセージを伝えることができます。音声のトーンは相手に対する態度や意図を表す重要な要素です。
「高齢者は耳が不自由だから…」と、いつも大きな声で話しかけてはいませんか?介護現場では、高齢者の状況に合わせて声のボリュームを調節する必要があります。その方によっては、小さな声で語りかけたほうが、話の内容に集中してくれる場合もあるのです。それぞれの身体状況を見極めながら、その場に応じた声の大きさで話すよう心がけましょう。
話すスピードも、忙しい介護現場では、ついつい話すスピードが速くなってしまいがちです。高齢者に思いを伝えたいときこそ、ゆっくりとした聞こえやすいスピードを意識しましょう。入浴や食事の声かけも急かすのではなく、「お風呂でさっぱりしませんか」「おいしいですよ」など、ゆっくりと話しかけることが大切です。
強さも、おだやかな口調を心がけます。特に、認知症の方には、相手を責めたり否定したりしない声かけが大切です。穏やかな口調と心でケアにあたることは、結果的に、介護職員の心理的負担の軽減にもつながります。
スキンシップ
相手との距離を近づける方法ですが、不用意に身体を触るのは注意が必要です。特に、頭や顔、臀部などはデリケートな部分です。比較的抵抗を感じにくいとされている肩や背中、手の甲などにやさしく触れてみましょう。
ただし、相手の表情をみながら、むやみに触れることは避けます。上から掴んだりすることのないように、高齢者と目線を合わせながらやさしく触れるように意識しましょう。
これらの非言語コミュニケーションの要素は、言葉と組み合わせて使われることもあります。相手とのコミュニケーションを円滑に進めるためには、非言語コミュニケーションも重要な要素であることを認識し、積極的に活用することが大切です。
特に介護では、言葉だけではない非言語コミュニケーションが重要視されます。ジェスチャーや身振り、表情など視覚的なサポートをすることで、コミュニケーションが円滑になり信頼関係が構築されるだけでなく、介護者の負担軽減にもつながるのです。
高齢者は心身に疾患を抱えている方が多く、体調面だけでなく精神面でも不安定になりがちです。介護職員は最も利用者の変化に気づきやすい立場です。そのことを意識し、ケア中はしっかり観察しましょう。ちょっとした行動や何気ない会話の中で情報収集することも介護職員に求められる役割です。
会話を通じて観察を行い、心理(気持ち)を把握することで、隠れたニーズを読み取ることができます。非言語コミュニケーションのポイントを身につけて、日々のより良いケアへと活かしていきましょう。
コミュニケーションの効果
介護現場で高齢者とうまくコミュニケーションをとることによって、多くの効果がもたらされます。以下にいくつかの例を挙げてみます。
信頼関係の構築
良好なコミュニケーションを通じて、高齢者との信頼関係を築くことができます。信頼関係があると、高齢者は自分の意見や感情をよりオープンに共有しやすくなるため、より良いケアにつなげることができます。
逆に信頼関係が崩れれば、介助した際に抵抗されることもあるでしょう。そのときに、転倒してしまい、事故に繋がる可能性もあります。
コミュニケーションとは、「自分が信頼できる存在である」ことを理解してもらうための表現でもあります。
心理的な安定感の提供
高齢者は皆、対話や関心を持たれることを望んでいます。適切なコミュニケーションを通じて、高齢者は自分自身を大切にされていると感じ、心理的な安定感を得ることができます。
高齢者が話す内容や表情、姿勢などから、本人の感じていることや思っていることを読み取りましょう。また、高齢者に対して積極的に関心を示し、話し相手として真剣に向き合うことも大切です。
健康状態の改善
良好なコミュニケーションは、高齢者の健康状態にも影響を与えます。心身の健康をサポートするために、高齢者のフィードバックを受け入れ、彼らのニーズや希望に応えることが重要です。
また、高齢者へ健康に関する情報を提供することで、彼らが自身の健康状態を正しく理解し、必要なケアや予防策を取ることができます。わかりやすく伝えるためには、専門用語を避け、具体的な例や図表を使用すると良いでしょう。
社会的孤立の防止
コミュニケーションは、高齢者の社会的結びつきを促進する力を持っています。高齢者が他の人と交流し関わりを持つことは、孤立感を軽減し、生活の質を向上させる助けとなります。
地域の高齢者向けのサポートグループやボランティア活動など、社会的な交流の場を紹介することも有効です。これにより、高齢者同士のつながりや交流が生まれ、社会的孤立を軽減することができます。
情報の共有とニーズの発見
コミュニケーションを通じて、高齢者に対して健康や介護に関する情報を提供することができます。また、高齢者からの意見や経験も共有されるため、お互いに学び合う機会を持つことにも繋がります。。
高齢者と定期的に交流し、関係を築くことで、本人の日常生活や課題について深く知ることができます。話し合いの中で、新たなニーズや問題点が浮かび上がることもあるでしょう。
これらの効果は、高齢者の身体的、精神的、社会的な福祉を向上させることに繋がります。誠実で思いやりのあるコミュニケーションを心掛けることで、高齢者のケアの質を向上させ、より豊かな人間関係を築くことができます。
まとめ
朝の挨拶は、一日の始まりとなる大切な声かけです。お互いに気持ちよく一日をスタートできるように、相手の名前を呼んで、元気に挨拶をしましょう。
就寝時や帰宅時の挨拶も同様です。「今日は一日楽しかったな」と思ってもらえるように、最後まで気を抜かず、笑顔で挨拶することが大切です。
また、介護現場ではよく、高齢者やご家族様から「ありがとう」と言われることがあります。相手に感謝される仕事をしているということは、介護職員のモチベーションアップにもつながります。
その一方で、私たちから高齢者に対して、「ありがとう」と言える機会は多くありません。しかし、認知症や障がいなどの影響でできることが少なくなっている高齢者にも、できることがあるはずです。
介護施設等で下記の「お仕事」をやっていただくと、職員から高齢者に対して「ありがとう」と言えますし、コミュニケーションのきっかけにもなります。
家事系のお仕事 | ・タオルや洗濯物をたたむ ・ゴミ集めをする |
レク系のお仕事 | ・レクで使う小道具を作る ・レクの司会をしてもらう |
工作系のお仕事 | ・新聞広告でゴミ箱を作る ・裏紙でメモ用紙を作る |
裁縫系のお仕事 | ・レッグウォーマーを編む ・掃除用の雑巾を作る |
職員から「ありがとう」と言われた高齢者は、「私は人のために役に立っているんだ」「明日はもっとこんなことをやってみたいな」という気持ちが生まれます。「ありがとう」の言葉は高齢者の自立意欲を高めることに繋がります。お互いに「ありがとう」が言える介護現場を目指してください。
介護現場では、高齢者とのコミュニケーションが非常に重要です。特に認知症の高齢者は、時には混乱したり、不安になることがあります。
コミュニケーションの重要性やポイントを理解していれば、そのような状況を理解し、共感する能力を身につけることができます。これにより、高齢者とのコミュニケーションが円滑になり、コミュニケーションの質を向上させ、日常生活や心の健康に寄与することができます。
職員全体のコミュニケーション力を向上させるためには、研修を受講することもオススメです。専門家の研修を受講することで、コミュニケーションについての学びや理解がより深まるでしょう。
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参考文献
「高齢者介護のコミュニケーション研究」(石崎雅人)ミネルヴァ書房
「早引き介護の声かけ&コミュニケーション」金田 由美子(ナツメ社)
「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖」尾渡順子(翔泳社)
「介護職の為の接遇マナー」蜂谷英津子(介護労働安定センター)
「新しい認知症ケア介護編」三好春樹・東田勉(講談社)
「介護福祉士養成実務者研修テキスト」(長寿社会開発センター)
「介護職員初任者研修テキスト第2版」太田貞司・上原千寿子・白井孝子(中央法規)
「生活援助従事者研修59時間テキスト」堀田力・是枝祥子(中央法規)