認知症の「問題行動(行動心理症状)」にはどんなものがある?具体例と対応方法を解説
認知症による「問題行動」という言葉は現在は、表現として正しくないとされ、「行動心理症状」と呼ばれることをご存知でしょうか?この記事では、認知症の方が示す行動心理症状について詳しく解説し、具体的な種類や対応方法についてご紹介します。
認知症の中核症状と問題行動(行動心理症状)の関連
認知症の方に関わっている方が「問題行動」と検索しているようです。それだけ困っている方が多いということかと思います。
しかし「問題行動」という言葉は、間違えた認識のもとで使われていた過去の言葉を、現在もまだ誤解をしている人が使い続けていることで、根強く残ってしまっている言葉です。
今回の記事は、それでも検索されるが故にあえて「問題行動」という言葉をタイトルに使っていることをご了承ください。
認知症は、いったん成熟した脳組織が何らかの原因によって損傷し、記憶や認知機能の低下により、1人で生活できないことが継続している状態の総称です。
認知症の原因となる疾患によって出てくる症状は異なりますが、原因疾患そのものによって直接起こる短期の記憶障害や理解・判断力の低下などの症状を、中核症状(または認知機能障害)といいます。
認知症の人に表れる症状のうち、行動と心理に関するものを行動心理症状(BPSD)と呼んでいます。BPSDとは「Behavioral and Psychorogical Symptoms Dementia」の略です。
認知症は人格が変化してしまう病気と思われていた時代には、行動心理症状のことを「問題行動」と呼んでいました。認知症になると人格がおかしくなるのだと認識され、普通では考えられないような行動を起こし、それは周りの人にとっては問題のある行動のように映ることから、そのように言われていました。
しかし、行動心理症状はあくまでも本人を取り巻く環境や周りの人によって引き起こされており、それに至る理由があるということが分かってきました。行動心理症状は本人のSOSサインであるかもしれないですし、人格が正常だからこそ起こしている行動といえます。
認知症の問題行動(行動心理症状)の種類
認知症の行動心理症状は多岐にわたりますが、以下に、認知症の行動心理症状の代表的な種類とその要因について解説します。
不安や抑うつ
要因
年を重ねていくことで目や耳が衰えると同様に、認知機能が低下することは自然なことです。かつ認知症によってさらなる認知機能の低下が加わるとすれば、聞かれたことに対してすぐに答えることが難しくなることもあります。
しかし、あくまでも即座に答えられないだけであり、考えたり答えようとしたりしていることも多々あります。そんなときに周りの人が「この人は認知症で人格がおかしくなったからレスポンスがないんだ」と決めつけてきたら、どのような想いになるでしょうか?きっと憤ったり、悲しくなるのではないでしょうか?
また、せっかく答えようとしていたのに相手はその姿勢を無視して、さらに次の質問を被せてこられたらどうでしょうか?同時に二つの情報を処理することはさらに難しいことですから、より混乱してしまうことは想像に難くありません。
この状況を見て、相手は余計に「この人は認知症で人格がおかしくなったから何も答えられなくなった」と判断し、それが周りにいる家族や友人、介護施設のスタッフ全員からそのように誤解され続けてしまったとしたら、おそらく正常な人であれば心を壊してしまうのではないでしょうか?
このようにして、認知症の状態にある方は不安が高まっていき、気持ちがふさぎ込んでしまい抑うつになってしまうことがあります。
対応方法
うつだからといって、抗うつ薬を過度に服用するのは避けたいところです。なぜならば、ストレスを感じる環境が残っている状態で抗うつ薬を飲んだとしても、根本的な改善にはなっておらず、症状が繰り返してしまうからです。
相手が認知症と診断されていたとしても、人格を尊重し、分かっていることや答えられることもたくさんあると理解したうえで、ひとりの人間として会話をしてください。そして、レスポンスが遅くとも、できることならば待ってあげてください。もし時間的に難しい状況でゆっくりと会話ができない状況だとすれば、決して蔑ろにしているわけでないことを表現してください。
徘徊
要因
「徘徊」という言葉は、あてもなく歩き回ることを指しますが、周りからは徘徊のように見えていても、本人からすれば理由があります。
例えば、外出しようと出かけたものの、アルツハイマー病の中核症状である短期記憶障害で、10分後には「なぜ出かけたのかを覚えていない」という状況になることがあります。
さらに、記憶が連続していないが故に今どこを歩いているのかも分からなくなってしまい、場所の見当がつきにくい見当識の障害も相まって、不安になります。
人格は正常であるからこそ、現状把握や状況分析するために、あちらこちらと歩き回っているのかもしれません。私たちも目隠しされて急に知らないところに放り出されたら、まずは状況分析のために周辺を探ったりしないでしょうか?これはごく普通の行動なのですが、認知症の方が行うと「あてもなく歩き回っている」と捉えられ、「徘徊の症状が出た」と表現されてしまうのです。
対応方法
歩いて出かけさせないよう、縛ったり閉じ込めたりということは極力しないでください。なぜならば、その人は尊厳あるひとりの人間だからです。
人格が正常なのに、無理やり閉じ込められたらどのような行動を起こすでしょうか?自暴自棄になったり、それこそ暴れたり、心を病んだりしてしまうでしょう。
出かけること自体を問題として捉えるのではなく、近所のスーパーや隣人に認知症について情報を伝え、理解を求めるということも一つの有効な手段になり得ます。本人が迷っていたら手を差し伸べてもらったり、仮に警察が保護したのであれば、それは警察と連携をしたということですから、それはそれで良いと思います。
認知症の状態は、老化していく中で誰にでもなり得ることです。それはお互い様で助け合うことで工夫できることも多くあります。
自治体によっては見守り合いの地域ネットワークやアプリを活用していたり、身元が分かりやすいカードを本人に持っておいてもらうなどの工夫をしているところもありますので、そういった取り組みを活用することも一つの手段です。
暴言や暴力
要因
みなさんは、どのようなときに暴言や暴力という行為を行いますか?元々暴力的な人でない限り、追い詰められたり、憤ったりしたときが多いのではないでしょうか。
暴言や暴力のように見える行動をしている認知症の状態の方がいたとしたら、「何がその方を追い詰めてしまったのか」に目を向けると、要因が見えてくるかもしれません。
よく見られるケースとして、その方のペースではなく、介助者のペースで物事をどんどん進めようすることで、本人を追い詰めてしまうことがあります。
老人ホームであれば、時間までに起床介助を完了させたいという介助者の焦りから、「もっと寝ていたい」という本人の気持ちに寄り添えずに無理やり着替えさせたり、寝起きの状態でどんどん服を脱がせたりなどしていくことで、認知症の状態にある方は恐怖や苛立ちを感じてしまうでしょう。そして、その負の感情が暴言や暴力に繋がってしまうケースもあります。
そのまま無理に介助を推し進めようとすれば、手を振り払うなど身を守る行動にも出るでしょう。その行動を、理不尽にも「暴力症状」と呼ばれてきた歴史が今も続いているのです。
対応方法
暴言や暴力という行為が、恐怖や不安から身を守るために行われているのにも関わらず、どのように収めようとするかを「対処方法」と呼ぶのであれば、それは非常に残念なことです。
一般的な人間関係であれば、そもそも一方的に理不尽なことを押し付けるということはしないはずです。まずはそれを理解していないと、興奮を抑える薬を処方するなど、ただの対症療法にしかなりません。
そうはいっても、業務として時間までに介助を終わらせなければならないというプレッシャーや疲れが募ることで、融通が利かなくなってしまうこともあるでしょう。私自身も現場で悩んでいた1人なので、その気持ちは非常に理解できます。
しかし、だからといって時間内にこちらのペースで思い通りに動かすということは、相手が人間である以上不可能なことなのです。
本当にその時間までに起こさなければいけないのか、必ずしも朝食を食べる必要があるのか、朝食後に服薬する薬があるのであれば薬の処方の仕方を医師や薬剤師に相談できないのか、相手の気持ち以上に優先しなければいけないことはどこまであるのか。
これらのテーマについて職場やチームで話し合う場を設け、オペレーションや関わり方自体を工夫することも必要なのではないかと考えます。
介護者が理解すべき問題行動(行動心理症状)の背景・理由
具体例として要因と対応方法を挙げてきましたが、全ての行動心理症状に通ずるのは「相手の気持ちを理解しようとしてみる」ことが最も重要であるということです。
不安や恐怖、悲しさなどに加え、本来の性格も加わって行動として表現されます。そのうえで理解しておくべきこと2つを解説します。
その方の疾患や障害
認知症だとすれば、その原因疾患は何か、そしてその原因疾患は中核症状としてどのような特徴があるのかを、知識として学ぶことがまずは大切です。
記憶障害がある方であれば、当然それがその方のストレスや不安の要因となっていますし、そこを理解せずにコミュニケーションをとることで、さらに本人を追い詰めることになってしまうでしょう。
逆に理解していれば、配慮をしたうえでコミュニケーションをとることができるため、お互いに余計なストレスを感じずに済みます。
その方の性格やライフストーリー
常識や価値観、使う言葉は人によって全く違います。相手の発する言葉や行為をすべて自分の常識に照らし合わせて、勝手におかしな行動や行為とみなしてしまうということが、介護現場でもよくあります。
例えば、トイレの便座への座り方は人によって向きが違ったり、寝る時の格好はパジャマを着たいという人もいれば、裸が楽だという人もいます。
プライバシー性の高いことは他人に見られることは通常ありませんが、介護されることになって初めてプライバシーな行為を公開することになります。そのときに介助者と介助される人とで常識や習慣が違った場合、本来であれば何の問題もない行為であるにも関わらず、介助者が「おかしな行動をとっている」と思い込んでしまい、介助される人の習慣すらも正そうとしてしまうのです。
本人からすれば、自分のやり方を無理やり変えさせられることでストレスとなり、そこから拗れていくことにもなるわけです。逆にその方にとっての習慣や趣味などに目を向け、理解しようとすることで、余計なすれ違いはなくなり、相手もストレスなく過ごすことができるでしょう。
認知症の方の問題行動(行動心理症状)への基本的な対応方法
対応方法として押さえておくべき重要なことは、「対応方法にそもそも正解はない」ということです。
相手は人格が変わってしまった得体の知れない何かではなく、多くのことを理解している1人の人間です。つまり、その方との関わりは「認知症ケア」という技術ではなく、障害特性に配慮したうえでの、対人コミュニケーションなのです。
人との関わり方に正解はありません。対人コミュニケーションのマニュアルを熟読したとしても、100%うまくいくことはないでしょう。
皆さんも普段から、相手との信頼関係やその日の体調、気分、その他諸々の状況を鑑みて、コミュニケーションの仕方を常に変えているはずです。
我々にできることは、一人ひとりの気持ちを思いやり、最善を尽くすことです。その結果うまくいくこともあれば、裏目に出て相手を怒らせてしますこともあります。
しかしそれは当然起こり得ますし、もし怒らせてしまったのであれば、素直に謝りましょう。この経験を経て乗り越えることで、相手との関係値はさらに高まり、お互い歩み寄ることができるしょう。その過程が全て人間関係です。
認知症という言葉に惑わされず、対応方法に正解があるのではないかという思考から脱却することが、非常に大切な要素となります。
相手の障害特性を踏まえたうえで気持ちを想像し、自分だったらどのように声をかけてほしいかを考え、発言や行動に移すということが、強いて言えば大切な「対応方法」ということになるかと思います。
まとめ
ここまで認知症の行動心理症状について具体的な種類と対応方法について説明してきました。
「問題行動」という表現は、あくまでも介助者が目にみえる表面的な見方を言葉にした、一方的で偏見に満ちた言葉です。
そのうえで
- 認知症の原因疾患や障害を理解し、ストレスや不安の要因を把握すること
- 認知症の方の性格やライフストーリーを理解し、自分とは異なる常識や習慣に目を向け理解すること
- 行動心理症状への対応方法に唯一の正解はなく、相手の気持ちを理解しようと努力すること
- もし失敗したとしても、謝罪や歩み寄りを通じて信頼関係を築くことが人間関係の基本であること
これらの視点を持つことによって、少しずつ信頼関係を築くことができます。そして結果的に、行動心理症状が減っていくことに繋がるでしょう。
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