認知症の方の服薬拒否に対する効果的な対応策と薬剤師との連携

スキルアップ掲載日: 2024.02.29(更新日: 2024.02.29)
認知症の状態にある高齢者女性

介護施設において、認知症の方に処方されている薬を拒否されてしまったという経験がある介護職の方は多いのではないでしょうか。

適切な服薬を行えないことによりご本人の健康を危険にさらす可能性がありますし、結果としてご本人だけでなく、ケアを提供する家族や介護従事者にもストレスを与えます。

この記事では、服薬を拒否する認知症の方に効果的な支援を行うための対応策と、その際にポイントとなる薬剤師との連携について解説いたします。

服薬介助に関する困りごと

認知症の方の服薬介助に関する困りごとには、一般的な服薬管理の課題と認知症特有の課題があります。

服薬管理の一般的な課題

  • 服薬スケジュール
    多くの認知症の方は、高齢者であるがゆえに複数の疾患を抱えていることも往々にしてあります。多くの種類の薬を異なる時間に服用する必要があり、これを管理することが困難となる場合があります。
  • 副作用
    服用する薬の副作用がご本人にとって負担となり、服薬に対する拒否感を強めていることも少なくありません。
  • 情報の不足
    ご本人や介護者が薬の正しい服用方法や重要性について十分に理解していないことがあります。
  • コミュニケーションの障壁
    介護者と認知症の方ご本人のコミュニケーション不足が、誤解や服薬拒否を招くことがあります。

認知症特有の困りごと

  • 記憶障害
    認知症による記憶障害は、服薬すべき時間や薬の種類、また食後薬が必要な際に肝心の食事をしたことを覚えていないなど、本人の認識のズレを生じさせ、服薬の拒否へとつながる要因となります。
  • 理解力の低下
    指示を理解し、それに従う能力が低下している場合もあるため、服薬が難しくなることがあります。
  • 識別の問題
    薬を識別することが難しく、間違った薬を服用したり、適切な時に服用しないということが起きます。
  • 抵抗と拒否
    認知症の状態の方は、状況によっては全く別のことで混乱しているタイミングもあり、連動して薬を服用することに抵抗を感じることがあります。

これらの課題に対処するためには、薬を一包化して管理を単純化する、副作用を最小限に抑える、認知症のご本人と介護者に対する教育を強化し、ご本人とのコミュニケーションを改善するなどの対策をしていくことが重要です。認知症の方には特に個別のアプローチが必要で、その方の状態やニーズを考慮した服薬支援を行う必要があります。

服薬拒否の原因や理由

認知症の方の服薬拒否の原因や理由は、認知機能の障害に起因するものと、薬に対する心理的反応に分けられます。以下にそれぞれの要因をまとめます。

認知機能の障害による原因

  • 記憶障害
    認知症の進行により、薬を飲むべき時を忘れたり、すでに薬を飲んだと誤って記憶していることがあります。これは服薬スケジュールの混乱を引き起こし、拒否行動に繋がることがあります。
  • 判断力の低下
    認知症の方の中には、自己の健康状態や治療の必要性を正しく判断できなくなっているということもあります。その結果、薬を服用することの重要性を認識できず、拒否することがあります。

薬に対する心理的反応による原因

  • 不安や偏見
    人によっては薬を飲むことに対して不安を感じたり、薬に対する根拠のない恐怖や偏見を持っていることがあります。これは特に、過去に薬物療法に関する悪い経験があったり、その方にとって影響力の大きい方やテレビなどから得た情報によって、そのような考えを持たれている場合に見られます。
  • 副作用による不快感
    多くの薬には副作用が伴い、特に高齢者ではこれがより顕著になりがちです。吐き気、めまい、消化不良などの副作用は、薬を拒否させる大きな要因となります。

これらの原因を理解することは、認知症の方に適切な支援を提供し、服薬拒否の問題を解決するうえでとても重要です。対応策には、症状に合わせたコミュニケーション、薬の利点と必要性についての教育、薬剤の副作用を緩和する方法の提案、そして何よりも患者との信頼関係の構築が含まれます。

患者が不安や懸念を表現できる環境を整え、副作用に対する適切な対策を講じることが、服薬拒否を減少させることにつながります。

対処法と工夫のポイント

認知症の方が服薬を拒否する場合、効果的なコミュニケーションと、その方の生活リズムや習慣に合わせた服薬方法を検討することが重要です。以下にそれらの対処法と工夫のポイントをまとめます。

認知症の方とのコミュニケーション技術

  • 分かりやすい説明
    認知機能の低下に伴い、同時に複数のことを理解したり、早いスピードの言葉を理解するということは苦手になっていることが多いため、複雑な医学用語を避け、シンプルで理解しやすい言葉を使って薬の重要性を説明します。
  • 繰り返し
    指示を繰り返して提供し、患者が情報を理解し記憶するのを助けます。
  • ビジュアルエイドの使用
    画像やイラストを用いて、薬の服用方法やスケジュールを示します。
  • 感情の共感
    その方の感情に共感し、安心感を提供することで、信頼関係を築き、服薬への協力を促します。

生活リズムや習慣に合わせた服薬促進の方法

  • ルーチンの構築
    その方の日常生活のパターンに服薬を組み込み、日々の習慣にします。
  • リマインダーシステム
    カレンダーやアラームを使用して、服薬時間を思い出してもらう環境を工夫します。
  • 服薬支援ツールの利用
    自動薬剤分配機やピルオーガナイザーを使用して、正しい薬を正しい時間に服用できるようにします。
  • 家族や介護者の関与
    家族や介護者が服薬の監督を行い、サポートします。

これらの対処法は、認知症の方に対する理解と忍耐を必要としますが、服薬管理を改善し、患者の健康と安全を促進するためには非常に重要です。

患者の自尊心と自律性を尊重しつつ、一貫性と継続性を持ってこれらのアプローチを実施することが、成功への鍵です。

薬剤師との連携と疑義照会

認知症の方の服薬拒否において、薬剤師との連携は非常に重要な要素です。また、その際に薬剤師が行う疑義照会について理解しておくことも重要ですので、以下にこれらのポイントをまとめます。

薬剤師との連携の重要性

  • 薬剤選択の最適化
    薬剤師は患者の状態、利便性、および薬剤の有効性を考慮して、最適な薬剤を選定する役目を負っています。例えば、認知症患者が錠剤の服用に困難を示す場合、口内崩壊薬(舌下や口腔内で速やかに溶ける薬)や貼り薬(皮膚から薬剤が吸収されるパッチ)といった代替の投与形態を提案することができます。
  • 服薬指導
    薬剤師は、ご本人や介護者に対して、薬剤の正しい使用方法や管理についての指導を行います。これにより、服薬拒否を減少させることができます。

疑義照会のプロセスとその利点

  • 疑義照会
    疑義照会は、医師の処方箋について、薬剤師が疑問や懸念を持った際に行われます。薬剤師は、薬の種類、用量、投与スケジュール、相互作用の可能性などについて、医師とコミュニケーションを取ります。
  • 利点
    このプロセスにより、医薬品の誤投与や患者への潜在的な危害を防ぐことができます。さらに、患者個々のニーズに合わせてカスタマイズされた服薬計画が作成され、治療の効果を最大化し、患者の生活の質を向上させることが可能になります。

総じて、薬剤師との綿密な連携と疑義照会のプロセスは、認知症の方の服薬拒否に対処するための治療計画を最適化するうえで、重要な役割を果たします。これにより、認知症の方自身の服薬におけるストレス・服薬拒否を減少させ、介護者の手間やストレスも軽減させることが期待されます。

介護施設での薬剤師との連携の例

老人ホームにおいて、実際に薬剤師との連携はどのように行われるのでしょうか?

薬剤師との連携は、介護支援専門員や看護師、施設長など、誰からアプローチしても問題ありません。それぞれの施設でルールについては確認していただければと思いますが、一番大切なことは、まずは介護職から情報発信をすることが求められる、ということです。

例えば、アルツハイマー型認知症の方に対して、医師からある薬を錠剤として処方されたとします。しかし、実際に介助をする際にご本人が強く拒否をしてしまい服薬ができない。もしくは一度服薬できたと思っても後で吐き出してしまい、吐き出した薬を後から発見するなどの困りごとが、現場で起きていることがよくあります。そのような現状をしっかりと情報として他の専門職に共有したり、上長に報告してほしいのです。

報告を受けた方は、次回の医師の往診まで待つ必要があったり、相談することに対して心理的にハードルを感じるということもあるかもしれません。そのような時には、いつも薬を持ってきてくれている薬剤師にぜひ相談を持ちかけてみてください。

薬剤師の権限と職務として、先に述べた疑義照会を行なってくれます。そうすることで、錠剤から口内崩壊薬に変更したり、貼り薬で代用できる場合もあるので、飲み込みが困難な方や、認識のズレ・過去の体験によって口から飲むことに拒否感が強い方に対して、有効な手段となり得ます。

老人ホームには薬を届けにきてくれる薬剤師さんがいますが、あまりコミュニケーションをとっていないという介護職も多いでのはないでしょうか?そうすると、気軽に相談するということが難しく感じてしまいますが、実は薬剤師さんとしても、そのような相談は遠慮なくしてほしいと思ってくれています。

お互いに「忙しい中声をかけてしまっては悪い」と思ってしまうことは、現場ではよく起こりがちなすれ違いの一つです。

まとめ

介護施設において、服薬介助は切っても切り離せない重要な業務であり、特に認知症の方への対応はさらに知識やコツ、アイデアが必要となります。

実際の現場では、忙しい中で丁寧に行おうと思っても時間的に限界があったりと、さまざまな葛藤があるのではないでしょうか?そのような時にあらゆる角度から服薬拒否という事象に対して検討するとともに、ぜひ薬剤師との連携をうまく活用してみてほしいと思います。

多くの専門職が連携することにより、お互いに思い付かなかったアイデアが生まれたり、意外とスムーズに解決できる方法が見つかったりすることもあるかもしれません。そのためにも、日頃顔は見かけているけど声はかけていないという薬剤師さんと、まずは挨拶をするところから始めてみてはいかがでしょうか?

  • 福祉事務所ランタン代表

    木村 誠

    経歴詳細を見る

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