特定事業所加算の個別研修計画とは?計画の立て方や事例も紹介
特定事業所加算とは、専門性の高い人材を確保し、質の高いサービスを提供している事業所を評価するものです。その取得要件の一つに計画的な研修の実施があり、個別研修計画の作成が不可欠となっていますが、どのようなテーマで、どのように個別の計画を立てるのか、その具体的な内容については大きな疑問があるのではないでしょうか。
本コラムでは、特定事業所加算を算定する事業所が抱えるこれらの疑問に対して解説を行い、具体的な事例を加えながら、個別研修計画の立て方について詳しくご紹介します。
特定事業所加算に必要な個別研修計画とは
特定事業所加算の算定を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。その中でも、特に重要なのが職員のスキルアップを図るための研修を実施するための個別研修計画の作成です。
この個別研修は、事業所に勤務する職員ごとに具体的な研修目標、研修内容、研修時期、実施期間などを定め、最低1年に1回以上研修を実施する必要があります。
個別研修計画の概要
個別研修計画とは、職員一人ひとりに対してどのような研修を行うかを具体的に示したものです。
例えば、新人の介護職員には基本的な介護技術の習得を目的とした研修を行い、経験のある職員には、その経験やスキルを勘案し、専門的なスキルを深めるための研修を実施します。また、研修の進捗状況や目標の達成度について定期的にチェックすることで職員の成長を確認し、必要に応じて計画の見直しを検討することも必要です。個別研修計画を通じて、それぞれの職員の成長をサポートし、事業所全体のサービスの質の向上を目指します。
そのため、介護職員等の能力や経験、キャリアプランに応じて研修のテーマ・内容を定めることが重要となり、運営基準等で定められている法定研修とは別の研修の位置づけになるので注意が必要です。
個別研修計画を作成する際の基本方針
個別研修計画を作成する際の基本方針は、職員一人ひとりの能力や経験に合わせた具体的な内容を設定することです。個人のニーズや事業所の方針を明確にし、継続的なステップアップを図れるようにする必要があります。
個別研修計画を立てる際に必要な考え方
研修の機会の確保
特定事業所加算に関する個別研修は、運営規定に定められている法定研修に加えて実施しなければならず、研修時間の確保や勤務体制の調整を行い、すべての職員が研修を受けることができるようにする必要があります。
全職員の個別研修計画の作成
個別研修計画は、常勤・非常勤を問わず、すべての職員の分を個別に作成しなければなりません。また、訪問介護の登録ヘルパーや派遣社員であっても必要です。
進捗の確認
実施された研修の効果や進捗を確認するために、管理者は定期的な評価とフィードバックの機会を設け、必要に応じて計画の調整を行う必要があります。
個別研修は、研修を受ければ終わりではなく、定期的・継続的に実施することで、描いた将来像を得られるように職員のスキルアップをサポートし続けることが求められます。
個別研修計画の作成方法とスケジュール
個別研修計画を効果的に作成し実行するには、計画の立て方と実施スケジュールが重要です。
計画作成時には、まず職員一人ひとりの現状のスキルや知識のレベル、成長が必要な分野や得意分野、興味のある分野、今後のキャリアアップの希望などを把握します。次に、それらの情報をもとに具体的な研修内容を決定し、研修の目的と目標を明確にします。また、研修の効果測定の基準を設定し、研修の効果を確認できるようにしておきます。
研修の実施スケジュールを立てる際には、定期的にチェックポイントを組み込みましょう。面談等で個々の研修が計画通りに進んでいるか進捗を確認し、必要に応じて修正するようにします。
これらのプロセスを実施することで、職員は自分自身の計画であることを実感することができます。また、個別研修計画を効果的に実行することが可能になり、結果として職員の成長のサポートに繋がります。
個別研修計画の作成方法
個別研修計画はいくつかのステップを踏んで作成することが重要です。まず、職員の現状のスキルや知識を評価し、将来の目標を明確にします。これは、職員との面談や実務評価を通じて行います。
次に、評価の結果をもとに、職員ごとに具体的な研修目標を設定します。この目標は、職員のキャリアパスや組織のニーズに合致させる必要があります。研修の目標が決まれば、具体的な研修内容と研修方法を決定します。
研修方法は、座学研修、実務研修、オンライン研修など、さまざまな形式を組み合わせて、目標達成に効果的な研修計画になるようにします。
個別研修計画に必要な項目
個別研修計画の書式は規定されたものはありませんが、自治体によって指定のものがある場合はその書式を使用します。所定のものがない場合は、各事業所で独自の書式を作成してかまいませんが、記載内容には「研修の目標」「内容」「研修期間」「実施時期」を記載する必要があります。その他、以下の項目を含めると良いでしょう。
- 職員の情報
職員の氏名、職務経歴など - 研修の内容と方法
研修のテーマ(知識習得、スキルの向上、対人関係の改善など)、研修の形式(座学、実務、オンライン、e-ラーニングなど)、使用する教材など - 評価方法
定期的なテストや面談、実務評価など
研修の進捗や効果を評価する基準を決めて実施します。その結果によっては柔軟に計画を修正しましょう。
研修の成果は適切にフィードバックし、どのように職員をサポートするかを計画することも重要です。これらを行うことで、より効果的な個別研修の実施が可能になります。
研修のスケジュールと実施方法
研修のスケジュールは、研修の開始日と終了日を明確に設定し、その間に実施する各研修の具体的な日程を決めておきます。
例えば、月1回の座学研修を3か月間にわたって実施する場合、その具体的な日時は事前に決めておきます。ただし、職員の勤務時間や業務の負担を考慮し、研修が業務に支障をきたさないように配慮することが大切です。また、業務終了後や休日に研修を行う必要がある場合には、労働基準法を遵守する必要があります。
最近では介護業界にもeラーニングが浸透してきています。各職員の隙間時間に受講してもらうことができるため、業務への支障を減らしながら、効率よく研修が実施できる有効な方法です。集合研修とeラーニングを組み合わせることも可能ですので、ぜひ検討してみてください。
介護福祉業界に特化した研修を開始して10年以上の実績!
ツクイスタッフのeラーニング「E care labo」についてはこちら>
次に、それぞれのセッションの内容と目標を明確にし、対応する講師を選定します。例えば、実地研修でのロールプレイやグループワークでは現場のリーダーやサービス提供責任者が指導を担当、オンライン研修やe-ラーニングでは専門家の講義を取り入れるなど、講師の適任者を決めていきます。
外部講師を招く場合のスケジュールは、事業所のニーズと講師の都合などを考慮して、綿密に計画する必要があります。以下は、外部講師による研修の一般的なスケジュールの例です。
研修の3か月前
研修の開始日の約3か月前から準備を始めます。この段階では、まず研修の目的と目標を明確に設定し、全体の研修内容の大枠を決定します。次に外部講師の候補リストを作成し、予算を確定します。
研修の2か月前
研修開始の2か月前には、外部講師への打診を行い仮のスケジュールを作成します。外部講師のスケジュールと事業所の業務等のスケジュールを照らし合わせ、研修実施に最適な日時を決定しましょう。なお、講師の予定が埋まっていることもあるため、事業所のスケジュールに合わせたい場合は早めに依頼をする必要があります。
また、研修内容の詳細を決定し、研修に必要な資料や教材のリストアップを行います。この時期から研修の周知を行い、参加する職員のサービス調整ができるようにします。
研修の1か月前
研修の1か月前までに、外部講師と正式な契約を締結し、研修の具体的なスケジュールとタイムテーブルを作成して詳細の打ち合わせをします。また、参加者に研修の案内を送り、研修会場の確保やオンライン研修の場合はオンラインプラットフォームの確保をしておきます。
研修開始の2週間前
研修開始の2週間前には、研修資料や教材の最終確認を行い、印刷や配布の準備を進めます。オンライン研修の場合は、オンラインに慣れていない参加者に対するテストセッションなども実施しておきましょう。
研修開始の1週間前
研修の1週間前には、最終のリマインダーを参加者に送付し、研修会場やオンラインプラットフォームの最終確認をしておきます。また、外部講師に参加者リストを共有し、最終打ち合わせを行います。
研修当日
研修日当日は、研修会場のセッティングを行い(オンライン研修の場合はシステムチェックを実施)、資料や教材の配置を行います。また、研修運営の役割分担を最終確認し、緊急時等に備えましょう。
研修中は参加した職員が積極的に質問やディスカッションが行えるようにサポートします。
このように、研修の企画段階から綿密なスケジューリングをすることで、準備をスムーズに進め、より効果的な研修を実施することができます。
個別研修計画のポイントと注意点
個別研修計画は、職員一人ひとりのスキルアップを図り、事業所全体のサービスの質を向上させるための重要なツールです。よって、研修の効果を最大限にできるようにポイントと注意点を押さえて計画を立てる必要があります。
個別研修計画を立てる際のポイント
個別研修計画を立てる際のポイントは、研修の目的と目標を明確にすることです。具体的な目標がないと、研修の効果を測定することが難しくなります。また、職員一人ひとりのスキルやニーズに応じたカスタマイズが必要です。すべての職員に同じ研修を実施するのではなく、各職員の成長段階や職務内容に合わせた研修プランの作成をするようにしましょう。
さらに、研修内容は実務に直結するものを選び、実践的なスキルの習得を重視することが重要です。目標は各職員別に設定しなければなりませんが、同じような経験やスキル、職能の職員をグループに分けて研修を行うことは問題ありません。
個別研修計画作成時の注意点
個別研修計画を作成する際にはいくつか注意することがあります。
①過度に詳細な計画を立てすぎないこと
あまりにも細かい計画にしてしまうと、実際の研修で柔軟に対応できなくなる可能性があります。個人の成長度合いなどに合わせて柔軟な研修ができるように、少し幅を持たせた計画にしておく必要があります。
②研修の内容が実際の業務と乖離していないかを確認しておくこと
理論の習得だけでなく、実務に役立つ具体的なスキルや知識を取り入れたり、ロールプレイやシミュレーションなどの実技を盛り込むことで、現場での実践力を高めることが可能になります。
単なる事例検討会は、各職員の目標達成に向けたスキルの習得に繋がらないと判断され、個別研修としてふさわしくないと判断がなされる場合があります。逆に、事例検討会ありきで目標を設定することも好ましくありません。
③職員の負担を考慮した、無理のないスケジュールを組むこと
時間外や長時間の研修になると、職員の疲労やストレスに繋がります。しかし、研修が半日、1日で終わるような研修項目は加算の算定要件の趣旨にそぐわず認められません。毎月1つのテーマである必要はなく、加算の趣旨を踏まえて年に一つ以上のテーマを設定して有意義な研修を実施するようにします。
④研修の効果を測定するための評価基準を明確に定め、定期的に見直しをすること
明確な評価基準の作成と定期的な見直しを行うことにより、により、研修がどれだけ効果的であったかを客観的に判断することができます。また、職員と共有することで、各職員が自己の成長を感じられ、モチベーションアップに繋がります。
これらの注意点を意識して、効果的な個別研修計画を作成することが大切です。
個別研修計画の記入例
令和〇年度 個人研修計画書
氏名 | 〇山〇美 | 保有資格 介護福祉士 | 経験年数 7年 | 職責 サービス 提供責任者 | ||
研修の 目標 | 訪問介護員にそれぞれの顧客に応じた技術指導ができるようになる | |||||
実施時期 | 令和〇年〇月 | 実施時期 | 令和〇年〇月 | 実施時期 | 令和〇年〇月 | |
テーマ | OJT指導者としての実践力の強化 | テーマ | OJT指導者としての実践力の強化 | テーマ | 指導者としてのコミュニケーション能力を高める | |
研修内容 | OJT指導者研修 | 研修内容 | 指導方法のロールプレイ | 研修内容 | コーチング研修 | |
研修期間 | 〇月〇日~ 〇月〇日 | 研修期間 | 〇月〇日~ 〇月〇日 | 研修期間 | 〇月〇日~ 〇月〇日 | |
進捗状況 | 進捗状況 | 進捗状況 | ||||
目標達成度 | 目標達成度 | 目標達成度 | ||||
今年度の総括及び次年度に向けて |
個別研修計画の事例紹介
個別研修計画を立てる際には、目指すべき目標を達成できる研修内容にしなければならず、研修の内容は問題がなくても、研修方法によってその成果を左右することがあります。そのため、他の事業所の成功例や失敗例を参考にするのも一つの方法です。成功例からは有効な方法を、失敗例からは避けるべき点を検討することができます。
個別研修計画の成功例
ある大手介護サービス事業所では、経験豊富な入社10年以上のベテラン職員を対象に、認知症ケアや終末期ケア等の高度なスキルアップ研修を導入しました。この研修では外部の専門講師を招き、オンラインでの講義と集合研修での実務演習を組み合わせて実施。また、研修の結果を測定するために、研修前後で職員のスキル評価を行い、明確な改善が見られるかを確認しました。
オンラインとオフラインの研修をうまく組み合わせることで、各職員が効率よくスキルを習得することができ、専門性の向上に寄与しました。また、外部の専門家に普段疑問に感じていることを質問することができたため、「研修の有効性を感じることができた」との声が聞かれました。
このように有意義な研修は参加者のモチベーション向上につながり、その職員が現場の業務に活かすことで、事業所全体のスキルも底上げされます。この事業所では研修が功を奏し、次年度の顧客満足度調査では前年に比べて満足度が大きく上昇しました。
個別研修計画での失敗例
一方で、個別研修計画がうまくいかなかった事例もあります。職員数が8名のある介護事業所では、研修内容が現場のニーズと合っていなかったため、期待した効果が得られませんでした。
この事業所では、職員の基本的な介護スキル向上を目的として、事業所のリーダーが講師となり研修を計画しました。しかし、研修の内容が座学に偏っていることや、教材の資料はどこかの本から基礎的な知識をコピーしたものであったことから、研修はその内容を読むだけになってしまい、実務での応用ができないものでした。
また、研修のスケジュールが通常業務の終了後であったため、参加者の疲労が増し、「資料を読むだけなのであれば、自宅で自己学習した方が良い」との不満の声が上がりました。さらに、フィードバックも不足していたため、職員が自分の成長を実感できず、期待していた研修の効果を得ることができませんでした。
この失敗例からは、研修内容や講師の選定は現場のニーズと一致させる必要があり、スケジュールについては職員の負担を考慮して組むことの重要性が分かります。
まとめ
このコラムでは、特定事業所加算に必要な個別研修計画の策定方法や、その重要性を解説しました。
加算を受けるための研修テーマの選定や研修計画の立て方、具体的な事例等を参考にして、自拠点のニーズに合った個別研修計画が立てられるようにしていきましょう。
ツクイスタッフでは、介護業界に特化した総合研修サービスを展開しています。専門性の高い講師による質の高い研修を、「集合研修」と「動画研修」の2つのスタイルから選んで受講することができます。
集合研修は、研修テーマや内容をカスタマイズすることができます。また、オンライン・オフラインどちらも対応しているため、各事業所のニーズに合わせて自由に設計することができます。
また、動画研修は職員の隙間時間で受講してもらうことができ、手軽に研修を実施することができます。また、加算の取得要件の研修テーマも数多く取り揃えており、行政への提出書類を簡単に作成できる機能も実装しています。
このような外部研修をうまく活用し、事業所の質の向上を目指していきましょう。