2024年度改正版「排せつ支援加算」とは?概要や算定要件など詳しく解説

掲載日: 2024.12.27(更新日: 2024.12.27)
介護施設のトイレ

排せつ介助は、羞恥心を伴う、「人間の尊厳」に関わるケアです。できる限り最後まで自分の力で排せつをして頂くよう支援することは、利用者の尊厳を守るためにとても大切です。

2018年の介護報酬改定で、介護施設入所者の自立した排せつを支援する体制について評価する「排せつ支援加算」が新設されました。そして、2024年の介護報酬改定においても、排せつ支援加算に変更点がありました。

本コラムでは、改正された排せつ支援加算の変更のポイントや、加算要件等について詳しく解説します。

排せつ支援加算とは?

排せつ支援加算とは、特定の利用者に対して、排せつ状態の改善に関する支援計画を作成し、利用者の症状の改善が見られた場合に算定される加算です。つまり、利用者ができるだけ排せつに関する医療的ケアを必要とせずに、介護施設での生活の質(QOL)向上を目的としています。

排せつ支援加算は2018年の介護報酬改定で新設されました。2021年の介護報酬改定では、介護の質の向上につながる取り組みをより一層進められるよう、排せつの状態の改善(アウトカム)を評価する新たな区分が創設され、大幅な見直しがされました。そして、2024年の介護報酬改定において、排せつ支援加算にまた変更点がありました。

2024年度の改定における排せつ支援加算の変更点

2024年度の介護報酬改定において排せつ支援加算の変更点は、大きく分けて次の2つになります。

尿道カテーテルの抜去が評価項目に追加

施設利用時に、尿道カテーテルを使用している利用者は約7%おり、その内、その後の介護職員のケア等により、カテーテルが抜去できた利用者が18%いるにも関わらず、それが評価されていませんでした。 

もともと、「施設入所時等と比較して、排尿・排便の状態の少なくとも一方が改善するとともに、いずれにも悪化がない又はおむつ使用ありから使用なしに改善していること」という評価に対して加算がついていましたが、「介護職員の見守りや介助によって、カテーテルが必要ではなくなった」という状態に対して、「介護職員も頑張っているんだから評価して欲しい」という現場の声が届いた形となりました。

LIFE関連加算に共通した見直しがされた

  • 医師または看護師による評価頻度が「6ヵ月に1回」から「3ヵ月に1回」に変更
  • 初回データの提出時期など、他のLIFE関連加算と同じタイミングで評価が可能
  • 加算の様式について、入力項目の定義の明確化

2024年の報酬改定では、LIFE関連加算の提出頻度が全て3ヶ月に1回に統一になりました。

さらに初回のデータ提出は、他のLIFE関連加算と揃えて出すことも可能となりました。例えば4月末に入ってきた利用者さんについて、4月中にすぐに準備しないとならない加算もあれば、次月でいいものもあり、タイミングが分かりづらかったのですが、初回のタイミングは揃えて提出し、その後3ヶ月ごとに提出していくというスタイルになります。

また、加算によって入力項目の定義が、何の指標を使って評価するのかバラバラだったものが、明確に統一されました。入力項目が共通化されたため、同一項目の記録が簡素化されています。まず全体の評価を実施し、次月からは計画書とデータを提出することになりました。

「科学的介護情報システム(LIFE)」とは

LIFEは、各事業所から介護に関するデータを集めることで、介護従事者の経験や知識だけではなく、科学的な裏付けに基づいた介護を行っていくことを目的として導入された仕組みです。

具体的には、各介護事業所はADL(日常生活動作)や栄養状態、排泄機能、口腔・嚥下機能、認知症などの利用者に関するデータや、事業所で行われているケアやリハビリの情報などを登録します。それらのデータを厚生労働省へ提出し、データ解析によるフィードバックを受けて、情報を活用し科学的に裏付けられた介護を実現することでサービスの質の向上を図ることを目的としています。これは、介護保険制度の目的である「利用者の尊厳を大切にしながら自立支援を行い、要介護状態の軽減や悪化の防止」を目指すための仕組みとして取り入れられたものです。
また事業所は、LIFEに情報を提出することで介護報酬では加算を取ることができます。そして、提出したデータのフィードバックを活用することで、PDCAサイクルを進め、ケアの質の向上を図る取り組みがLIFEの目的になっています。

排せつ支援加算は、LIFE関連加算のひとつです。自立排せつ支援の体制を整えることで算定できるようになっています。利用者ごとに要介護状態の軽減の見込みについて、医師または医師と連携した看護師が入所時に評価するとともに、3ヵ月に1回以上評価を行います。

その情報は、厚生労働省が運営する「科学的介護情報システム(LIFE)」に提出する必要があります。提出されたデータは分析され、利用者単位と事業所単位のフィードバック情報(目標達成のために行動の軌道修正をし、動機付けるための指摘や評価)が提示されます。

2024年の報酬改定ではLIFE関連加算の提出頻度が「3ヵ月に1回」に統一されました。提出頻度の統一化により、情報入力などの業務効率が向上し、加算を取得しやすくなりました。

排せつ支援加算の対象サービス

加算の取得対象となるサービス種別は次の通りです。利用者の排せつ状況を評価し、状況に合わせた支援計画を作成・実施することで加算が適用されます。

施設サービス・介護老人福祉施設【特別養護老人ホーム】
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・介護医療院
地域密着型サービス・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
・看護小規模多機能型居宅介護

※小規模多機能型居宅介護は対象外です

排せつ支援加算の単位数と算定要件

排せつ支援加算には、支援の成果や利用者の状態に応じて、区分(Ⅰ)・(Ⅱ)・(Ⅲ)に分類されます。

排せつ支援加算(Ⅰ)
単位10単位/月
算定要件イ) 排せつに介護を要する入所者ごとに、要介護状態の軽減の見込みについて、医師又は医師と連携した看護師が施設入所時等に評価するとともに、少なくとも3ヵ月に1回、評価をおこない、その評価結果等を厚生労働省に提出し、排せつ支援に当たって当該情報等を活用していること。
ロ) イの評価の結果、適切な対応をおこなうことにより、要介護状態の軽減が見込まれる者について、医師、看護師、介護支援専門員等が共同して、排せつに介護を要する原因を分析し、それに基づいた支援計画を作成し、支援を継続して実施していること。
ハ) イの評価に基づき、少なくとも3ヵ月に1回、入所者ごとに支援計画を見直していること。
排せつ支援加算(Ⅱ)
単位15単位/月
算定要件排せつ支援加算(Ⅰ)の算定要件を満たしている施設等において、適切な対応をおこなうことにより、要介護状態の軽減が見込まれる者について
  ・施設入所時等と比較して、排尿・排便状態の少なくとも一方が改善するとともに、いずれにも悪化がないこと。
・又はおむつ使用ありから使用なしに改善していること。
・又は施設入所時・利用開始時に尿道カテーテルが留置されていた者について、尿道カテーテルが抜去されたこと。
排せつ支援加算(Ⅲ)
単位20単位/月
算定要件排せつ支援加算(Ⅰ)の算定要件を満たしている施設等において、適切な対応をおこなうことにより、要介護状態の軽減が見込まれる者について  
・施設入所時等と比較して、排尿・排便状態の少なくとも一方が改善するとともに、いずれにも悪化がない。
・又は施設入所時・利用開始時に尿道カテーテルが留置されていた者について、尿道カテーテルが抜去されたこと。
・かつ、おむつ使用ありから使用なしに改善していること。

ご覧の通り、排せつ支援加算(Ⅱ)および排せつ支援加算(Ⅲ)は、実際の成果を評価するアウトカム評価となっています。

アウトカム評価って何?

アウトカム評価とは評価手法の一つです。「outcome」の和訳は「結果」であり、アウトカム評価を直訳すると「結果を評価する手法」といえます。アウトカム評価は効果や数値を用いるため、客観的な評価指標として有効です。

2021年度の介護報酬改定では、アウトカム評価を採用した加算が増えました。そして2024年の排せつ支援加算の見直しの目的も、「アウトカム評価の充実のため」というものでした。排せつ支援加算の他にも、ADL維持等加算、褥瘡マネジメント加算(介護医療院は褥瘡対策指導管理)について、介護の質の向上に係る取組を一層推進する観点や自立支援・重度化防止に向けた取組をより一層推進する観点から、アウトカム評価を重視した見直しが行われました。

排せつ支援加算においては、排せつ支援加算(Ⅰ)は、施設における体制が整備されていることが加算の算定要件となっているため、どちらかと言えば「アウトプット評価」に近いといえます。一方、排せつ支援加算(Ⅱ)(Ⅲ)は、排尿と排便の状態のどちらかを改善か、おむつ未使用状態への改善、尿道カテーテルの抜去というアウトカム(結果)を評価しています。

排せつ支援加算の対象となる利用者

「排せつに介護を要する入所者」とは、「排尿の状態」もしくは「排便の状態」が「一部介助」または「全介助」と評価される者又は「おむつの使用」「尿道カテーテルの留置」がありの者をいい、

排せつ支援計画の対象は、要介護認定調査に用いられる「認定調査員テキスト」を参考にして判断します。

また、「適切な対応を行うことにより、要介護状態の軽減が見込まれる」とは、特別な支援を行わなかった場合には「排尿の状態」「排便の状態」「おむつの使用」「尿道カテーテルの留置」の評価が不変または低下となることが見込まれるものの、適切な対応を行った場合には評価が改善することが見込まれることをいいます。

排せつ支援加算の算定フローチャート

排せつ支援加算の中でも、特に(Ⅱ)と(Ⅲ)はアウトカム評価になるので、利用者ごとの排せつの改善状態を観察しなければなりません。事業所内で効率よく情報を共有し、算定するためには、以下のフローチャートを活用して取り組むことをおすすめします。

医師または看護師が評価を実施
入所時等に医師または医師と連携している看護師が利用者の排せつ状態を詳細に評価します。下記の「排せつの状態に関するスクリーニング・支援計画書」に、排尿・排便の状態、おむつ使用の有無、ポータブルトイレの使用の有無等について、現在の状態と3ヵ月後に改善する見込みを記載します。
                       
厚生労働省のホームページからダウンロードできます
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12404000%2F000755857.docx&wdOrigin=BROWSELINK  
排せつ支援計画を作成する
医師または看護師、介護支援専門員、介護職員を含めた多職種で検討します。その他、必要に応じて、薬剤師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士等もメンバーに加わり、多職種の視点で課題を分析し、排せつの自立に向けた支援計画を作成します。作成した計画書は、利用者本人と家族の同意を得て決定します。
支援計画に基づいたケアを提供する
排せつ支援計画に沿ったケアを提供します。排せつの改善状況によって、算定する排せつ支援加算の区分が異なります。介護職員は、多職種と連携し、ケアを実践し、目標の達成状況を確認します。
支援計画を見直し、LIFEに情報を提出する
排せつ支援計画は、原則3ヵ月に1回、見直しを実施します。ケアの結果は厚生労働省にLIFEデータとして提出し、支援の内容を報告します。

排せつ支援加算に関するQ&A

排せつ支援加算に関して、さらに詳細な内容として厚生労働省よりQ&Aが紹介されていますので、ご紹介します。

月末よりサービスを利用開始した利用者に係る情報について、収集する時間が十分確保出来ない等のやむを得ない場合については、当該サービスを利用開始した日の属する月(以下、「利用開始月」という。)の翌々月の10日までに提出することとしても差し支えないとあるが、利用開始月の翌月の 10 日までにデータ提出した場合は利用開始月より算定可能か。

事業所が該当の加算の算定を開始しようとする月の翌月以降の月の最終週よりサービスの利用を開始したなど、サービスの利用開始後に、利用者に係る情報を収集し、サービスの利用を開始した翌月の10日までにデータ提出することが困難な場合は、当該利用者に限っては利用開始月の翌々月の10日までに提出することとしても差し支えないとしている。 ただし、加算の算定についてはLIFEへのデータ提出が要件となっているため、利用開始月の翌月の10日までにデータを提出していない場合は、当該利用者に限り当該月の加算の算定はできない。当該月の翌々月の10日までにデータ提出を行った場合は、当該月の翌月より算定が可能。 また、本取扱いについては、月末よりサービスを利用開始した場合に、利用開始月の翌月までにデータ提出し、当該月より加算を算定することを妨げるものではない。 なお、利用開始月の翌月の10日までにデータ提出が困難であった理由について、介護記録等に明記しておく必要がある。

事業所又は施設が加算の算定を開始しようとする月以降の月末にサービス利用開始した利用者がおり、やむを得ず、当該利用者の当該月のデータ提出が困難な場合、当該利用者以外については算定可能か。

原則として、事業所の利用者全員のデータ提出が求められている上記の加算について、月末にサービス利用開始した利用者がおり、やむを得ず、当該月の当該利用者に係る情報をLIFEに提出できない場合、その他のサービス利用者についてデータを提出していれば算定できる。なお、情報の提出が困難であった理由について、介護記録等に明記しておく必要がある。 ただし、上記の場合や、その他やむを得ない場合を除いて、事業所の利用者全員に係る情報を提出していない場合は、加算を算定することができない。

科学的介護推進体制加算のデータ提出頻度について、少なくとも6ヵ月に1回から3ヵ月に1回に見直されたが、令和6年4月又は6月以降のいつから少なくとも3ヵ月に1回提出すればよいか。

科学的介護推進体制加算を算定する際に提出が必須とされている情報について、令和6年4月又は6月以降は、少なくとも3ヵ月に1回提出することが必要である。例えば、令和5年2月に提出した場合は、6ヵ月後の令和6年8月までに少なくとも1回データ提出し、それ以降は3ヵ月後の令和6年11月までに少なくとも1回のデータ提出が必要である。

まとめ

高齢者の排せつ介助では、「羞恥心」という概念が重要です。羞恥心は個人が自分の私的な部分を他者に見られることによって感じる心の苦しみや恥ずかしさを指します。高齢者にとって排せつ介助を受けることは、その羞恥心を刺激するケアであり、排せつ介助は人間の尊厳に関わるケアといえます。高齢者に対し、排せつ介助を行う際にはまずは周囲の目を避けることが重要です。プライバシーを確保し、個人の尊厳を守ることが求められます。

排せつ支援加算の取得に取り組むことで、利用者の自立を促進するだけでなく、「尊厳」「羞恥心」「プライバシー」「自尊心」「自立支援」など、対人援助職として大切にしなければいけないケアを学ぶ機会となります。

介護現場において、より質の高い介護を提供することが、加算の目的です。加算を算定することによって、算定していない介護事業所と比較し、質の高い介護サービスが提供できる事業所ということになりますので、排せつ支援加算を取得していない事業所は、まず(Ⅰ)からの取得から目指しましょう。

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【参考文献】

「介護報酬改定対応 実地指導はこれでOK! おさえておきたい算定要件(特養・老健編)」
小濱道博(第一法規)
「新しい排泄介護の技術」 上野文規・下山名月(中央法規)
「看護の現場ですぐに役立つ排泄ケアのキホン」 中澤真弥(秀和システム)
「在宅介護マニュアル排泄の介助」 坪内弘行(桐書房)
「日中おむつゼロの排泄ケア」 竹内孝仁(メディカ出版)
「介護職員初任者研修テキスト第2版」 太田貞司・上原千寿子・白井孝子(中央法規)

参考サイト

厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)
厚生労働省「eヘルスネット
厚生労働省健康局「標準的な健診・保健指導プログラム
花王プロフェッショナルサービス「業務改善ナビ

  • けあんちゅPro代表(介護人材育成の社会貢献活動)/
    グループホーム管理者/介護支援専門員/
    ツクイスタッフパートナー講師

    森 幸夫

    経歴詳細を見る

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